彷徨いたどり着いた先

神崎

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 休憩になり、響子は用意していた弁当を広げる。そして持ってきたお茶を用意して箸を付ける。その向かいには圭太が座っていた。圭太も今日は弁当を持ってきている。
「卵焼き一つ交換しないか?」
「良いわよ。」
 そう言ってお互いにはいっている卵焼きを交換した。圭太の作るモノは少ししょっぱいが、響子のモノは少し甘めだ。朝に用意したモノは、真二郎の好みに合わせている。
「甘いな。」
「あなたのは醤油が利いているわね。」
「そっちの方が好きでさ。」
「そう。」
 もし圭太と住むようになったら、食べるモノなんかにも気をつけないといけない。甘いモノは苦手なのだ。こうして卵焼きが甘いモノや煮付けの甘辛さなんかは受け入れられるかもしれないが、真二郎が作ったお菓子なんかには相変わらず手をは付けない。
「妹が何か言ってたのか?」
「え?」
「俺らが話をしてる間、何か揉めてたみたいだから。」
「別に。揉めたって言うほど揉めてはないけど……。」
 響子はため息を付くと、お茶を口に入れる。
「母が少し前に入院してね。もう退院しているんだけど、それもあって正月には実家に帰らないかっていってきたのよ。」
「入院?」
 初めて聞いたふりをした。それを夏子から響子に伝えて欲しいと圭太は言われていたはずなのに、そのあとのことが印象が強すぎてずっと言い出せなかったのだ。
「骨折したって言ってたわ。命に関わる事じゃない。それにもう働いているみたいだし。」
「でも心配だったんじゃないのか?」
「別に。」
 ウィンナーに箸を付ける。それが本音なのかわからないが、手は震えていた。無理をしていると思う。
「俺が一緒に行こうか?」
「は?」
 驚いて響子は圭太の方をみる。すると圭太は箸をおいて、響子をまっすぐ見て言う。
「両親に会わせてくれないか。」
「いや。」
 真剣に言ったはずだった。だが響子はそれもばっさりと切り捨てるように返す。それだけ拒否をしているのか、それとも本当に予想外のことだったからなのかはわからない。
「あのさ……。俺らもう一年過ぎようとしているじゃん。遅くないと思うんだよ。」
「結婚でもしたいの?」
「したいよ。でもお前がそれに抵抗があるんだったら、とりあえず両親に付き合っているって言う報告くらいしてもいいと思うんだけど。」
「話の通じない両親よ。父は無関心で、母は平気で暴言を吐くような人。それも悪意がないんだから、もっと洒落にならない。」
「……。」
「いずれ結婚はするかもしれない。そのためにはもっと目の前の問題を解決しないといけないんじゃないのかしら。」
 その言葉に圭太はため息を付いた。それは自分の両親や家族のことが浮かんだからだ。
 ヤクザではないにしても、ヤクザのような仕事をしている家だ。普通の家なら、反対するだろう。何せ金しか興味がないのだから。
「とりあえず、お前は小百合さんにはあまり気に入られてなかったみたいだし。」
「小百合?」
「兄の嫁だよ。どうも、俺の周りにいる女という女を離している感じがする。」
「一度しか会ってないわよね。どうして気に入らないのかしら。」
「んー……なんて言うかな。まぁ、小百合さんもやりたいことがあったみたいなんだけど、兄に押し切られた感じで結婚をしたんだ。だから男を省みないで、男並に働いているような女がいらつくみたいだ。」
「そう。」
 逆恨みだ。そんな人が身内にいると大変だろうな。響子はそう思いながらご飯に箸を付ける。
 そのとき、バックヤードに功太郎がやってきた。
「オーナー。ちょっと来てくれよ。」
「どうした。クレームか?」
「んにゃ。あんたに客だよ。」
 食べかけている弁当をそのままに、圭太は席を立った。その間、響子はバッグから携帯電話を取り出す。
 あと二、三時間で一馬はこの町に帰ってくる。そのあと事務所で用事を済ませたあと、ここへコーヒーを飲みにくるらしい。響子はそのメッセージに返信をした。無理をしないようにと。
 一馬はマメな人だ。よくこうやってメッセージを送ってくる。会社勤めをするような仕事ではなく、求められればどこへでも行くような仕事をしているのだ。
 当然、何があっても響子にはわからない。だからこうしてメッセージを送ってくるのだ。それが響子を安心させている。
 また会う機会はないだろうか。来週はライブへ行くが、それまでにもう一度。自分が欲張りになった気がした。

 そのころ、フロアでは圭太が中年の女性と老女にコーヒーとケーキを運んでいた。そして圭太もその席に座る。その様子を見て、こそっと功太郎は真二郎に聞く。
「あれ。誰だよ。」
「二人とも見たことがあるね。確かオーナーのお母さんとお祖母さんじゃなかったかな。」
「ふーん。めっちゃ綺麗なオバサン二人だよな。どっかの女優みたいだ。」
 誉めているのか何なのかわからないが、真二郎はその答えに少し笑った。
「あら。コーヒーは前と変えたのかしら。前よりも少し味が違うわ。」
「ケーキに合わせたコーヒーを淹れているからね。そのブッシュ・ド・ノエルと合うようなコーヒーにしているんだ。母さんの方は少しアルコールが効いているけど、お祖母さんのモノはアルコールは入っていない。」
「そう。美味しいわ。昔、Sにあったカフェで食べたケーキを食べているよう。あそこでお祖父さんに会ったのよ。」
 耳にタコが出来るほど繰り返し聞いた話題だ。それでも圭太はうんうんと話を合わせている。
「それで、圭ちゃん。この間の話はどうするのかしら。」
「あー……。」
 会社のモノが珍しくこの店を訪れたのだ。何かあると思ったら、案の定、圭太に厚手の封筒を手渡してきて、中身はお見合い写真だった。
「母さん。俺さ……。」
「良い相手だと思うのよ。それに向こうの家も金融会社で、春には提携する話があるの。その上、親族を入れていれば安泰するだろうからって。」
 母は少しこう言うところがある。勝手に話を進めてきて、一人で納得している。こちらの気持ちなど無視しているのだ。
「母さん。俺、恋人が居てさ。」
 その言葉に母が眉をひそめた。
「圭ちゃん。もう三十一にもなって、結婚を視野に出来ない相手はもう辞めてしまいなさい。遊ぶのは十分遊んだのでしょう?」
「辞めなさい。」
 祖母が口を挟んで、母を止める。
「良いお相手なんでしょう?」
 祖母は淡々と圭太に聞く。すると圭太はうなづいた。今バックヤードにいて食事をしていると紹介したかったが、響子がそれを望んでいない。だから黙っていた。
「そう。結婚できると良いわね。」
 表情を変えずに祖母はそう言ってコーヒーを口に入れる。その様子を真二郎は見ながら、あの祖母という人が一番くせ者だなと思っていた。
「見合いだってよ。オーナー。なぁ。三十過ぎて、結婚してなかったら見合いってするもんなのか?」
「家によると思うよ。家柄によっては、結婚しないと面目が立たないっていうところもあるしね。」
 半分しか血の繋がりのない本家には、男の子供が何人か居た。そしていずれも早いうちに結婚させている。名家ほど世継ぎがいないと話にならないのだ。
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