彷徨いたどり着いた先

神崎

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ライバル

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 食事を作る手つきはいつもしているような手つきで、慣れているように行程を済ませていく。コーヒーを淹れるときもそうだが、響子の動きには無駄がない。作るモノは生姜焼きやポテトサラダなど、確かにあまり手が込んでいるモノとは思えない。それでも義理の姉である葉子が作るものとは少し違う。葉子はどうしても子供がいるし、一馬も食べる方なので見た目よりも量を重視する。どんと食卓におかずを置かれて、それをご飯にかき込むのが主だった。
「出来ましたよ。」
 響子がソファに腰掛けて、タウン誌を見ていた一馬に声をかける。すると一馬は立ち上がってダイニングテーブルを見た。そこには葉子が作るように量が重視ではなく、野菜や肉や魚などバランスのいい食事が並んでいた。
「酢物まで作ったのか。」
「これは、作り置きですよ。真二郎が好きで。」
 わかめとじゃこ、キュウリなどが入った酢物は、甘酸っぱい味がする。白ご飯が好きだが、ご飯だけではなくおかずが多い。こういう食事をしているから、あまり運動はしなくても太らないのだ。
「美味い。」
「ありがとうございます。」
「食事は母親に習ったのか?」
「えぇ。うちは女は食事くらいは作れないといけないという家で、妹もあぁみえて食事は上手に作りますよ。」
 AVなんかに出ている女はそんな女ではないのだろうと思っていたが、意外だと思った。
「女二人か。」
「えぇ。一馬さんは……。」
 聞きかけて、辞めた。一馬のことは一度聞いたことがあるからだ。おそらくヤクザか何かの情婦だった母親が、今の家の前に一馬を置き去りにしたのだという。
 繋ごうとした手を振り払われて、一馬は何を思ったのだろうか。
「義理の母親も葉子さんみたいなタイプだ。」
「え?」
「男が二人だからな。俺は今は食が細くなった方だ。肉じゃがを作れば大きな鍋一杯に作って、ポテトサラダだってボウル一杯だ。それでも一日でなくなる。俺も兄もよく食う方だったからな。」
 男の子というのはそんなものなのだろうか。家族の中に男といえば父しか居なかったが、父親もそんなにがつがつと食べずに酒ばかり飲んでいる人だったからよくわからない。
「ご両親は、海外へ行っていると言ってましたね。」
「あぁ。ワインを作っている。そうだ。この間のワインはどうだった?」
「実はまだ飲んでいなくて。あまり家では飲まないんですよ。」
「それもそうか。だったら……このあと飲まないか?」
「飲んだら……。」
「……あぁ……飲まなくてもいいんだが……。響子さん。」
 箸を置いて、一馬は向かいに座っている響子をみる。
「すまない。いいわけだ。それに誤魔化せないから正直に言う。今夜は一緒に過ごしたい。」
 その意味がわかって響子は箸を止める。
「それは……。」
「わかってる。あんたにはオーナーがいる。夕べだって一緒に過ごしたんだろう。その跡を見てわかった。付け入る隙なんか無いのもわかってる。だが……。」
 普段、一馬はそんなに饒舌ではない。一生懸命言っているのもわかった。
「……俺のわがままだ。それに……欲張りになってしまったのかもしれない。」
 その言葉に響子はうなづくと、響子も箸を置いた。
「正直……夕べ、オーナーに抱かれながら、あなたを重ねてしまったのかもしれません。オーナーには悪いことをしたと思ってます。だから手を掴まれて、オーナーしか見えないようにしないとどうしてもあなたがよぎる。あなたに転ぶのは簡単かもしれない。だけど……今の私には、あなたに抱かれながらきっとオーナーを思うと思います。」
 この男に惹かれている。そんなこと自分でもわかるのに、その胸の中に圭太を消せない。傷跡だらけで、汚い自分を愛しそうに抱いてくれる圭太を裏切れなかった。
「失礼になるでしょう?」
「……それは覚悟の上だ。もともと俺の我が儘で言ったことだし……あんたが嫌ならそうしない。」
「嫌なんて……。」
 思わず口に出た。その言葉に響子は口をふさぐ。一馬は少し笑うと、響子の方を見た。
「せっかくの食事が冷めてしまうな。片づけは手伝う。皿を洗うくらいなら出来るから。」
 一馬はそういってまた箸を持った。

 有佐は背も高いだけではなく、体のパーツすべてが大きい。胸も、尻も手に余るほどだ。外国人に引けを取らない体つきで、外国へ行っても男たちをからからにしていたのだ。
 そして外見から、有佐が満足できないところもある。つまりサディストなのだというイメージ。だが有佐はこの体格なのに、割とマゾヒストな部分がある。真二郎はそれを見抜いていたのだ。
 指をその性器の中に入れ込み、中を探るようにかき回すといつもよりも甘い声がする。
「あ……もっと……いじって。そう!そこの上!」
「ここ?」
 指を曲げて、感じるポイントを真二郎は当たっていく。女が感じるポイントは、人によって違う。感じるところだって浅いところ、深いところとそれも違うし、女というのは本当に奥が深い。
 指を増やして、そこを重点的に攻め上げると、有佐はがくがくと体を震わせた。
「あ……あああっ!」
 本当に外国の人としているようだ。何もかもが豪快で、潮を噴いてもそれを恥ずかしいとも思わない。むしろさらに求めてくる。
 真二郎が射精するまで、どれだけ絶頂に達したのだろう。ラブホテルのベッドで二人で横になっていた。あと何回するかな。真二郎は時計を見ながら、それを考えていた。
「真二郎さ。」
 うつ伏せになっている有佐は、真二郎の方を向いて言う。
「何ですか?」
「響子とは寝たりしないの?」
「しないですね。」
「どうして?」
「……一度キスをしたんです。」
 圭太に取られそうだった。だから意地になって、幼なじみの枠が壊れるとわかっていてもそうしたのだ。
「……拒否された?」
「自信はあった。なのに俺……。」
 真二郎のこんな顔を誰が知っているだろう。いつも笑顔で、それで自信があって、男でも女でもその色香に当てられているのに、一番大事な人には振り向いてもらえていないのだ。それが悲しいのか、真二郎は泣きそうだった。
「テクニックだけで心は揺れないってことね。でも……私ね……。あのオーナーさんに響子が惹かれるのは、ちょっと危険だと思うの。」
「え?」
「あのオーナーさんは本当にぼんぼんで何も知らない。何も知らないうちに、あなた……は無理ね。花岡さんあたりとくっつくといいんだけど。」
「花岡さんと?」
「えぇ。彼は何もない。生まれはどうあれ、本当に縁がないから。」
「……。」
「このままだとどちらも破滅が目に見える。」
 そういって有佐は真二郎を見上げる。そして布団の中に潜り込んだ。
「ちょ……。有佐さん。んっ……。」
「まだ二回目でしょ?時間があるし、ふふっほら立ってきた。」
 破滅という言葉が心に残る。圭太はこのままどうなってもかまわない。だが響子は守りたいと思う。好きだから。
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