彷徨いたどり着いた先

神崎

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二番目

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 今日の客は、ホテルまで行かないでいい客だった。初めての客で、どう見てもホストのような感じがして、こっちが買われた側なのにどうも自分が見劣りする感じがした。
 だがホストに言わせれば、自分は女の趣味はないのに女と寝ることもあったり、女に気を使ったりするのはかなり苦痛だった。だが辞めれない。まだ自分を求めている人が居るから。そして一番の息抜きが、こうして男と飲んだりセックスをすることだという。気持ちは分からないでもないな。真二郎はそう思いながら、家に帰ってきた。
 十二時は過ぎている。響子も寝ているかもしれないと思いながら、ドアを開けた。するとシャワーを浴びている音がする。まだ起きていて、風呂に入っていたのかと思いながらソファに荷物をおいた。
 キッチンでコップに水を注いで飲んでいると、バスルームのドアが開いた。そして濡れ髪の響子が出てくる。
「お帰り。」
「ただいま。今、お風呂?」
「うん。ちょっと遅くなったしね。」
 圭太と居るわけがない。だが響子は一人でふらふらと飲みに行ったり、食事をしに行くこともある。本当は二人なり三人なりで行動するのは苦手なのだ。
「どこかに行ってた?」
「うん。八百屋さんで一馬さんのお姉さんに会ってね。」
 一馬の名前が出ると思っていなかった。思わずコップから手が放れそうになる。
「お姉さん?」
「義理のお姉さんね。お兄さんの奥様。一度お会いしたんだけど、覚えててくれたの。カレーを作ったから食べていかないって誘われてね。久しぶりにあんな家庭のカレーを食べたわ。つい食べ過ぎちゃった。」
 濡れた髪を拭きながら、テレビの下の引き出しを引いてドライヤーを取り出した。そして髪を乾かし始める。そうなればあまり声が聞こえない。真二郎はコップを洗うと、それを伏せた。そしてバッグの中から携帯電話を取り出す。
 そこには圭太が喜美子と公園を歩いている姿が、写真で送られていた。その行き先は、公園から少し離れたところにあるシティホテルらしい。ラブホテルなんかは使わないのだ。気取っているが、セックスをするのは変わらない。
 ドライヤーが止まると、響子は真二郎の方を向く。
「お風呂でも入ったら?今日は、ホテルへ行ったの?」
「ううん。初めての客だったしね。食事をしたよ。美味しい焼鳥屋でさ。今度行こうよ。」
「そうね。」
 少し笑い、響子はドライヤーを片づける。普段、響子は夏でも長袖を着ている。半袖になれるのは家の中だけだ。それは腕にもまだ傷跡があり、少し薄くなってきたとはいっても近くで見ればまだはっきりと傷跡はわかる。
「それにしてもご飯を食べに家にも行ったの?」
「えぇ。家は酒屋をしているわ。角打ちをしている店で、半分飲み屋ね。お兄さん夫婦と、子供さんが居る家で賑やかだった。」
 響子が拉致されるまでは、響子の家も普通の家だった。養護教諭をしている母は、帰る時間はきっちりしている。だから食事にも手は抜かなかったし、いつでも家は綺麗だった。清潔な服に身を包める家だったはずだが、響子の事件がすべてを崩してしまったのだ。
「響子。お盆は家に帰ったっけ?」
「ううん。お盆は休まなかったじゃない。」
「あ……そっか。」
 功太郎は帰る家はないし、真二郎と圭太だけは実家に顔を見せただけだ。定休日に二人とも実家に帰った。その日、響子は家の大掃除をしていたはずだ。家に帰ったら換気扇や、カーテンが綺麗になっていたから。
「一馬さんは子供二人にとって怖い存在なんですって。可笑しいわ。言うことをきかない子供たちが、一馬さんが言えば言うことをきくんだって……。」
「あのがたいで脅されたら子供は泣くだろうね。大人でも怖いと思うよ。ヤクザにも見えないこともないし。」
「ヤクザねぇ……。」
 あんなに優しいヤクザが居るだろうか。ヤクザというのは響子を拉致した男たちのような人をいうのではないのだろうか。見た目だけで判断される。それは響子が一番知っていた。
「お風呂、沸かしてないわ。シャワーを浴びただけだから。」
「良いよ。」
 響子はそう言って寝室へ向かう。すると寝室から音が聞こえた。ドアを開けて、ベッドサイドに置いてた携帯電話を手にする。相手を見て、響子は少し笑顔になる。
「どうしたの?うん……まだ起きていたけど。」
 そっと寝室をのぞく。響子は何も知らないのだ。圭太が今から響子以外の女を抱こうとしていることなど、夢にも思わないだろう。
「……うん。変ね。明日も会うのに。」
 電話を切ると、響子はベッドに腰掛けてため息をついた。その様子に真二郎が声をかける。
「何かあった?」
 すると響子は、携帯電話を見ていう。
「オーナーからよ。まだ起きていたのか。だったらいいって。何なのかしら。」
 首を傾げて、響子はその携帯電話を見ている。やはり響子は何もわかっていないのだ。思わず笑みが押さえきれない。
「一瞬でも声がききたかった。一年くらいだっけ。つきあって。」
「そうね。」
「まだアツアツなんだね。羨ましいよ。」
「変なことをいわないで。」
 その調子で何も知らなければいいのだ。裏切られたとわかって、響子はどんなに傷つくだろう。そして圭太も何を思うのだろう。
 あんな女に引っかかって響子から別れを切り出されると思うと、身震いするようだ。
「俺、風呂に入ってくる。」
 クローゼットを開けて、下着やシャツを取り出す。その間、響子はベッドに横になった。
 いつものように体を横にして、丸まるように寝ている。響子は決して仰向けで寝たりしない。仰向けになれば男が襲ってきていたからだ。
 まだ響子は恐怖から逃げれていない。
 真二郎はそう思いながら、リビングへ戻ると携帯電話の画面を見る。そこには画像付きのメッセージが一件。それを開くと、圭太が喜美子とシティホテルへ入っているところだった。
「やった……。」
 思わず言葉に出してしまった。
 そして東のメッセージには、今度いつ会えるかという言葉が添えられていた。気は進まないがこれだけしてくれたし、たまには円熟した女性も悪くない。それに東は見た目とは違ってマゾヒストだ。道具を使えば、こっちも楽ができる。
「都合に合わせます。」
 そうメッセージを打ち込むと、真二郎はバスルームへ向かっていった。
 響子は真二郎がバスルームへ入る音を聞いて、少しため息をつく。そして圭太が一馬とライブへ行っていいといった言葉と、一馬とのキスを思い出していた。
「二番目でいい。」
 二番目なんか、幸せになれない。それなのに一馬はそれでいいといってくれた。どれだけお人好しなのか。それだけ好いてくれているのか。
 突き放しているような圭太と、受け入れてくれている一馬の間で揺れている自分がとても嫌な人間に思えた。
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