彷徨いたどり着いた先

神崎

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優しい人

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 K町の繁華街の中は、車は入れないことはない。だが狭い道だからとタクシーの運転手はあらか様に嫌な顔をする。だから真二郎は降ろしてもらうのを、アパートよりも少し離れたところにしてもらった。それだけで運転手は機嫌が良い。そしてまた行くところがあるのだろう。すぐに離れていった。
 響子はさすがにもう寝ているだろう。そう思いながらアパートのある建物がある道へでた。すると普段はみないパトカーや警察官がうろうろしている。確かに深夜十二時を過ぎると、警察官は多くなるが今日は多すぎだ。
 ウリセンというのは仕事的にはグレーの仕事だ。表向きには、堂々と「ウリセンのボーイをしています」とは警察官にも言えない。真二郎は少し顔を伏せて、アパートへ向かっていく。すると警察官が出てきたのは、そのアパートのある建物だった。そして警察官がタオルや、上着を頭からかけて顔を見せないようにしながらパトカーに女を入れていく。
 それをみようと野次馬たちが集まってきているようだ。
「やっぱそうだったのかぁ。」
「薬の噂があったもんな。」
 薬で捕まった女か。珍しくはない。
 ソープやイメクラで働く女は、悪循環な人が多い。
 ギャンブル、男、借金など、色んな事情があるが、最近はホストに貢いでいるという女も多いのだ。ソープで男の精液を抜き、その金ですぐにホストクラブへ行く。少し歩けばあるのでもうほとんど、家が無くてもソープなどでお茶を引いているときに寝ているのだ。
 その疲れから薬に手を出す女も多い。その一角が捕まっただけだ。
「あらー?真君?」
 イメクラの従業員だろう。高校生のようなセーラー服を着た女性だった。制服にしては胸が飽きすぎているし、スカートも短すぎる。なのに紙だけはギャルのような髪型で、一昔前の高校生に見える。
「どうも。ミルクさん。」
「今日は閉店みたいねぇ。くそっ。良い客が来る予定だったのにな。」
 この女性は、借金でも男でもホストでもない。ただこういう仕事が好きだからしているという、珍しいタイプだった。その分、プロ意識も強くておそらく並の男では五分も持たない。
「薬ですか?」
「うん。あの子、悪い子じゃなかったんだけど他の子にも進めてたみたいなんだよね。芋蔓式にずるずる捕まってる。ねぇ。誰か良い人居ない?」
「さぁね。俺よりも、響子に聞いた方がいいんじゃない?」
「響子ちゃん?あぁ、妹って愛蜜だっけ。」
「うん。そっちの方が需要あるよ。」
「そうね。」
 AV女優がソープやストリップに転身するのは珍しいことではない。AV女優と言った方が、指名も多くなるからだ。
「そういえばさ、最近響子ちゃんって男が出来たの?」
「うん。居るけど。」
「酒屋の子?」
「酒屋?」
 圭太ではなかった。そう思って真二郎は女に聞く。
「そっちの通りのほら商店街のさ。花岡酒店の次男。堅い男でさ、兄さんとは全然違うタイプの。」
 花岡という名前に、違和感がある。一馬の名字が花岡だったはずだ。
「……ここに来てた?」
「うん。いつかほら、さっき捕まった子から責められててさ。それを庇うみたいに家にあがっていったよ。」
 やはりそうだった。一馬が今日、フェスの会場で響子を守るようにしていたのは、気のせいではなかった。そして響子もまんざらではない。家に連れてくるのは気が進まないのに一馬は家に入れていたということは、どういうことなのか。
 駄目だ。圭太なら何とかなる。だが一馬はどう考えても、こちらの分が悪い。しかも一馬は、調べてもぼろのない職人気質な男だ。
 もし一馬が響子を好きになったら、響子がそちらに転ぶのは目に見えている。包容力もあって、年下なのに大人びている。圭太のように人間が軽くないからだ。
「彼氏じゃないよ。」
「えー?そうなの?」
「彼氏は別の人。」
「あー。青い車の?」
「そう。」
「あっちも良いなぁ。ちょっと試してみたい。」
 顔では笑った。だが心の中で違和感が占める。
 女性に挨拶をして、進次郎は階段を上がっていく。警察に身分証明と、この建物の上の住人だと言うことを伝えると、すぐに通してくれた。こういうことがたまにあることで、真二郎も運転免許証を取ったのだ。ただ自動車学校を出てから、一度も車を運転していないが。
「ただいま。」
 ドアを開けると、響子の靴があった。それを見てほっとする。一馬と一緒に帰ったはずだ。
 寝室のドアを開けると、珍しく電気が消えている。いつもは明るくないと寝れないと言っていたのに。そして響子の眠りはいつも浅い。細かくしか寝れないので、あまりにも続くと薬に頼ることもあるのだ。
 だが今日は深く眠っている。ドアを開けても寝息が聞こえるからだ。
 寝室の中に入り下着やシャツを手にすると、寝返りを打った。疲れているだけか。フェスの会場は暑かったし、体も良く動かした。
 そう思って寝室のドアをそっと閉める。そしてリビングを通って、キッチンへ向かう。すると違和感があった。シンクになにやら瓶があるのだ。ラベルのないモノで、売っているものとは思えない。
 それを手にして、蓋を開けてみる。それは酒の香りがした。
「酒……。」
 一馬は酒屋の息子だといっていた。だからもらったのだろうか。どうして。そこまでの仲になったのか。
 やはり不安がよぎる。

 久しぶりによく寝た。響子はそう思いながら、体を起こす。そして充電している携帯電話をみた。そこには圭太のメッセージがある。
 もう寝ていた時間なのだ。響子はそれにメッセージを送ると、ベッドから降りる。
 その時もう一通のメッセージが届いた。携帯電話を見ると、そこには一馬からのメッセージが届いている。
「……本当。アスリートか何かに転職すればいいのに。」
 そこにはいつもの日課で、早朝にランニングをしているいつもの公園にある紅葉が少し赤くなったと画像付きで送ってきたのだ。
 そういえばあまり体を動かしていないな。響子もそう思いながら、一馬にメッセージを送る。それが少し楽しかった。
 リビングにやってくると、ソファベッドで真二郎が眠っている。真二郎は夕べ遅かったのだろう。合コンで知り合った相手とはセフレにでもなれるのだろうか。
 健康的とは言い難い二人だ。そしてキッチンへ行くと、米を研ぎ始める。味噌汁を炊き、卵焼きやシシャモを焼いているうちに米が炊ける。弁当の分のモノも作っていたのだ。
「……よし。」
 その時真二郎が起きあがった。まだ頭は起きていないはずだ。そう思いながら、響子は自分の分の味噌汁やご飯を注ぐ。
「……何時だっけ。」
 やっと真二郎が動き出したとき、響子はもう味噌汁に口を付けていた。
「あー……。」
「起きた?コーヒー淹れようか?」
「うん。あとでで良いよ。先にご飯食べる。」
 そういって真二郎はキッチンへ行くと味噌汁やご飯を注ぐ。
「この酒さ……。」
 床に置いてある酒を見て、真二郎は声をかける。
「あぁ。一馬さんにもらったの。」
「家に?」
「うん。口止め料。」
「は?」
 真二郎に言えるわけがない。一馬の兄が、下の店の客だったなど言えない。
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