彷徨いたどり着いた先

神崎

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優しい人

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 合コンの会場は、いつか圭太の親族が結婚式を挙げたあの街だった。洒落たカフェやレストランが並ぶ中で、イタリアンのバルは本格的なバルで、並べられた食事を取ってもらうスタイルだ。ワインも瓶ではなく樽に入っているので、種類は限られているがそのどれもコレも美味しい。
「これすごい美味いな。」
 功太郎はそう言ってトマトソースの肉団子を口に入れていた。酒よりも食事が主なのだろう。
「ニンニクが利いてるな。あまり食べるなよ。」
 圭太がそう言うと、功太郎は目を丸くして言う。
「何で?」
「よけいな香りが次の日まで続いて、コーヒーの味がわからなくなくなるって前、響子が言っていたぞ。」
「厳しいな。タブレットなんか噛んだらいいのかなぁ。」
「そんな問題じゃないだろう。」
 真二郎の周りには相変わらず女が多い。それを器用に交わしながら見定めをしているようだ。真二郎に言わせると、こういう場の女はわりとしっかりしている人が多く性病の心配はほとんどないと言うが、そんなことは見ていないのだからわからない。
 それに圭太には不安材料がある。それは響子のことだ。最近ずっと一馬と連絡を取り合っているらしい。それは音楽のことで話をしているのだろうが、自分にはわからないことで不安が募っていく。
 今日、フェスへ行ってみたがやはり自分には良くわからない。どれもコレも同じ音楽というイメージしかないし、響子が好きなバンドだって均整がとれすぎていて気持ち悪いと思っていた。
「ハードロックってあんなものかな。」
「へ?」
 肉団子を口にしながら、功太郎は圭太に聞く。
「いやな……やっぱ俺にはわかんないと思ってさ。」
「いいんじゃないの?」
 肉団子を飲み込んで、功太郎は言う。
「前に、派遣で勤めてたところにさ、趣味で音楽をしている夫婦が居たんだよ。旦那はヘビメタ好き。奥さんはクラシック好き。お互いのコンサートとかライブには行かないけど、仲は良さそうだったけどな。」
「……。」
「あまり言いたくないけど、オーナーってこだわりすぎなんじゃないのか。」
「え?」
 功太郎に言われると思ってなかった。圭太は誤魔化すようにぐっとワインを口に入れる。
 すると向こうのドアから、スーツ姿の女性が入ってきた。その女性を見て、東と言われた女が近づいてくる。
「真中さん。やっと来れたのね。」
「すいません。どうしても海外の発注先と連絡を取れなくて。」
 眼鏡もかけているし、グレーのスーツで合コンにくるような感じに見えない。
「何で真中さん呼んだの?」
「あの人、こういう所来たことないんじゃない?あの就活生みたいな格好何なのよ。」
 ひそひそと女性たちが噂をしている。なるほど。あまり女性受けは良くないようだ。
「就活生みたいでもあの若さで部長でしょ?もう仕事に生きればいいのに。」
 その言葉が聞こえたのだろう。功太郎は、皿を置くとわざと大きな声でいった。
「女の嫉妬って醜いよなぁ。こういう所で言うことじゃないし。出来ねぇ奴ほどぴーちくぱーちくさえずるんだよなぁ。なぁオーナー。」
 ワインを噴きそうになりながら、横目で功太郎をみる。
「俺を巻き込むな。」
「良いじゃん。事実、事実。さってと次、何食うかな。」
 一気に功太郎と圭太が敵に変わったようだ。こういう合コンに功太郎が来たことがないのはわかるが、あまりにもストレートすぎる。
「まぁ……そっちの方が良いか。」
 相手を捜しにきたのではない。相手なら響子がいる。響子以上に綺麗で魅力的な人なんかこの場にいるわけがない。
「オーナーさん。」
 東という女性が、圭太に話しかけてきた。やっとここまでたどり着いたらしい。ここは合コンと言いながらも、相手先の企業との交流の場であるらしく、既婚者の東は挨拶に余念がないのだ。
「あぁ。すいません。いきなり押し掛けて。」
「いいえ。さっきから女性と話をしていないと思って。どうですか?好みの方っていらっしゃいます?」
「うーん……。」
「地味系が良いんでしょ?」
 おそらく東は、響子と恋人同士なのを知っている。だからわざと地味系と口に出したのだ。
「俺、好みはそんなに決まってなくて。」
「あら。そうなんですか?」
「……。」
 真子を重ねたときもあった。真子を失ったあと、真子に似ている女とばかりつきあっていたのだ。だから響子のような女性は初めてだったかもしれない。
「さっき来た子。企画課の部長をしているんですよ。」
「え?それって東さんの?」
「直属の下ですね。主に海外の方の企画をしていて。興味があるのだったらお話をしませんか?」
「そうですね。是非。」
 変に色気のある女に言い寄られるよりは、あぁいう全くすれてなさそうな女の方が良い。会話が出来るかどうかはわからないが。
 しばらくして東にひきつられて、さっきの女性がワインと皿を持ってやってきた。
「真中喜美子と申します。」
 女性は名刺を取り出して、圭太に手渡す。そして圭太も名刺を取り出すと、喜美子に手渡した。
「どうも。新山圭太と申します。」
「あぁ。前の企画の時の……。」
「えぇ。洋菓子店です。」
「あのケーキは美味しかったです。お店に行こう行こうと思っていて、まだ実現していないんですけどね。」
「是非お見えになってください。」
 口が良く回るな。そう思いながら、功太郎は持ってきたイカのフライを食べていた。
「あと、コーヒーも。豆を買いました。」
「コーヒーお好きですか?」
「えぇ。本とコーヒーが唯一の娯楽です。」
 地味を絵に描いたような女性だと思った。もっと楽しいこともあるのに。そしてその感じはどこか真子を思い出させた。
「コーヒー良いよな。俺もバリスタ志望だし。」
 功太郎はその営業のような会話に割ってはいるように言葉をかける。
「まぁ。そうなんですか?志望と言うことは別のバリスタが?」
「えぇ。」
「時間を作って飲みに行きたいですね。」
 営業。営業。そう思いながら、圭太はその女性に話を合わせていた。
 だが酒が入り始めると、喜美子は少し饒舌になる。
「「ヒジカタコーヒー」にいらっしゃったんですか。」
「えぇ。」
 すると喜美子の表情が少し硬くなる。それを気にして功太郎が声をかけた。
「どうしたんだよ。」
「あ、いいえ。何でも……。」
「気になるじゃん。」
 すると喜美子は東の方をちらっとみる。東は真二郎と何か話しているようだ。
「……私も居たことがあってですね。」
「カフェ部門ですか?」
「いいえ。支店の方ですね。事務をしていました。そのころから少しきな臭いというか……。」
「きな臭い?」
「社長があれなので仕方ないとは思いますが……。」
「ヤクザだって言ってたな。」
 功太郎はそう言って、ワインを口にした。
「どうしてそれを?」
 喜美子が聞くと、功太郎は悪びれもなく言う。
「でも仕方ないじゃん。どこの企業でも、ヤクザと手を組んでないとこなんか無いって。」
 功太郎だから言えることだ。色んな所に派遣へ行った。そのたびに、そういうところを見たのだろう。
「まぁ……そうではないと、私なんかもこんな企業には入れなかったでしょうから。」
「真中さんも?」
 すると喜美子は少し頷いた。
「家がそういう仕事をしてまして。でも縁は切っています。そうではないと雇ってもらえなかったでしょうから。」
 こんなところにもいるものなのだな。どことなく、圭太の身辺に似ていた。そして家がコンプレックスになることもあるのだ。
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