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偏見
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ドアに響子を押しつけて、そのままその体を抱きしめた。だがすぐ人響子は功太郎を突き放す。
「やめて。」
功太郎に背を向けて、ドアノブを握る。だがその背中に温かい感触や男特有の汗のにおいなんかが伝わってきた。腰に手が伸びて、ぎゅっと抱きしめる。
「や……。」
腰に回ってきた手を振り払おうと、手を重ねる。だが功太郎はその手の力を強めてくる。そして結んでいる髪からのぞくその白いうなじに唇をはわせた。
「ん……。」
つっと唇が耳元まであがってくる感触がした。そして耳たぶに温かいものが触れた。それは舌先だった。その感触に思わず頬が赤くなる。
軽く響子の顔を横に向かせる。そして功太郎も響子をのぞき込んだ。吐息を感じるくらい近く、それでも響子は少し下を向いた。
「駄目……。圭太を待つから……。」
圭太の名前に、少し意地になった。無理矢理上を向かせると、唇を重ねた。一度軽く触れると、響子が泣きそうだった。それが更にかき立てる。
「響子。」
体ごとこちらを向かせる。そのときバッグが玄関に落ちた。そしてドアに響子を押しつけると、また唇を重ねる。最初から口を開けて、舌をいれた。頬に手を添えて、拒否できないようにする。
響子の口から吐息が漏れても辞められない。激しく舌を絡ませた。唇を離しても、また重ねてくる。夢中でキスをしていた。
自分の中で少し響子以外の人が心の中にいる。それを払拭させたい。その一心だった。
やっと離されると、響子は少し息をついた。そして功太郎を押しやると、バッグと傘を手に持って家を出ていく。
車を運転しながら、圭太は弥生の言葉を反芻していた。
香の担任だった男は、去年初めて担任を持ったのだ。そして持ち上がって、六年の担任になる。つまり経験もあまりなかったと思う。そして香に障害があるのではないかと言い始めた女性教師は、ベテランの教師で中には確実に障害があるのに親が言い張っているというパターンだってあるのだと、担任に言っていたのだ。
だが体の割に頭が幼いと言っても、戸籍を見ればすぐにわかるものだ。そして片親だという人は今の世の中は多いもので、その担任の非は明らかだった。
「田舎からぽっと都会に出てきたのも悪かったわよね。あの花見で気がつけば良かったんだけど。」
弥生はそれだけを後悔していた。
「いきなりやってきて馴染むようなヤツはいないよ。香だってこれから気をつけるだろうし、な?」
すると香は少しうなづいた。そして弥生に言う。
「お姉ちゃん。携帯が欲しい。」
「携帯?」
「やっぱ、ちょっと不便だと思うから。」
「新しい学校は携帯の持ち込みは禁止だよ。」
「そっか……。」
学校によってはそういうところもあるのだ。それを見て圭太は、少しうなづくと弥生に言った。
「携帯は持っておいた方が良いかもな。こいつまだまだ危機感利がなってねぇし、危ないときに助けてって言える方法は取っておいた方が良いし。」
「そうねぇ。だったら何か簡単な機能が付いているヤツないかな。井上に連絡してみる。」
「携帯屋にいるんだっけ。」
「うん。」
大学の時の同じサークルだった井上という女性は、歌が上手な人だった。一時期は歌手を目指していたが、中途半端にうまい人などごろごろ居ると感じて、さっさと携帯電話の受付の職に就いた。
「功太郎君にもずいぶんお世話になったわね。今度改めてお礼に行くわ。それに響子さんがすごく心配していたんでしょう?」
「あぁ。あいつもちょっと不安定なところがあってな。」
奥へ言ってしまった香を見て、弥生は少し小声で言う。
「圭太、響子さんと付き合っているんですって?」
「うん。」
「大変じゃない?」
「どうして?」
「冷静に見えるけれど、あの人……患者と同じ目をしているから。」
「あぁ。通院してるんだ。」
「言っちゃ悪いけど、精神の病の人って「完治」がないの。いつ発病するかわからない。リスクはあるわ。」
「わかってるよ。」
「簡単な問題じゃないよ。圭太みたいに、「あぁすると喜ぶかな」とか「こうするといい」とか押しつけるような人は、少しストレスになるかもしれないし。」
「……。」
「自分のことよりも他人のことを大事にするような人よ。それを圭太は感じてる?」
思いやればいいと思っていた。響子が今日は帰りたいと言っていたのだから、帰りたいなら送りたいと口にしたのだ。だが響子はそれを望んでいなかったのだろうか。
車の中ではジャズが流れている。圭太のお気に入りの局で、プレイヤーも圭太が好きな人。だが何も入ってこなかった。
食事を買って、マンションの駐車場にいれる。そして六階まであがると、自分の部屋の前でチャイムを鳴らした。
「お帰り。」
響子が出てきて、少し笑顔になった。それが少し新婚夫婦のように思えて、先ほどまでの鬱憤が無くなるようだ。
「ただいま。これ。買ってきたよ。」
「ありがとう。」
テイクアウトが出来る和食の店。筑前煮や、白身魚の西京焼きが入っている。それを響子はテーブルに置く。すると圭太はその背中に体を寄せた。
「何?」
「こうしたかったんだけど。」
響子の頭の中で少し功太郎がよみがえった。だが首を振ると、圭太の手に手を重ねる。
「私もされたかったの。」
すると圭太は少し笑い、振り返った響子の唇に軽くキスをする。そして体を向けると、また抱きしめた。そのとき、響子の首筋に赤いものが見えた。
「響……。」
こんなものはなかった。どこでついたのだろう。自分が無意識に付けたのだろうか。いや……こんな事を店の中でするのが、響子が一番嫌がることだ。
「どうしたの?」
響子は体を離すと、圭太を不思議そうに見る。いいや。考えすぎだ。何もないはずだ。
「飯にしようか。いい加減腹が減ったな。」
「そうね。どこの和食屋さんのものなの?」
そういって響子はテーブルに置かれている折り詰めに入っている割り箸の袋を見ていた。
「やめて。」
功太郎に背を向けて、ドアノブを握る。だがその背中に温かい感触や男特有の汗のにおいなんかが伝わってきた。腰に手が伸びて、ぎゅっと抱きしめる。
「や……。」
腰に回ってきた手を振り払おうと、手を重ねる。だが功太郎はその手の力を強めてくる。そして結んでいる髪からのぞくその白いうなじに唇をはわせた。
「ん……。」
つっと唇が耳元まであがってくる感触がした。そして耳たぶに温かいものが触れた。それは舌先だった。その感触に思わず頬が赤くなる。
軽く響子の顔を横に向かせる。そして功太郎も響子をのぞき込んだ。吐息を感じるくらい近く、それでも響子は少し下を向いた。
「駄目……。圭太を待つから……。」
圭太の名前に、少し意地になった。無理矢理上を向かせると、唇を重ねた。一度軽く触れると、響子が泣きそうだった。それが更にかき立てる。
「響子。」
体ごとこちらを向かせる。そのときバッグが玄関に落ちた。そしてドアに響子を押しつけると、また唇を重ねる。最初から口を開けて、舌をいれた。頬に手を添えて、拒否できないようにする。
響子の口から吐息が漏れても辞められない。激しく舌を絡ませた。唇を離しても、また重ねてくる。夢中でキスをしていた。
自分の中で少し響子以外の人が心の中にいる。それを払拭させたい。その一心だった。
やっと離されると、響子は少し息をついた。そして功太郎を押しやると、バッグと傘を手に持って家を出ていく。
車を運転しながら、圭太は弥生の言葉を反芻していた。
香の担任だった男は、去年初めて担任を持ったのだ。そして持ち上がって、六年の担任になる。つまり経験もあまりなかったと思う。そして香に障害があるのではないかと言い始めた女性教師は、ベテランの教師で中には確実に障害があるのに親が言い張っているというパターンだってあるのだと、担任に言っていたのだ。
だが体の割に頭が幼いと言っても、戸籍を見ればすぐにわかるものだ。そして片親だという人は今の世の中は多いもので、その担任の非は明らかだった。
「田舎からぽっと都会に出てきたのも悪かったわよね。あの花見で気がつけば良かったんだけど。」
弥生はそれだけを後悔していた。
「いきなりやってきて馴染むようなヤツはいないよ。香だってこれから気をつけるだろうし、な?」
すると香は少しうなづいた。そして弥生に言う。
「お姉ちゃん。携帯が欲しい。」
「携帯?」
「やっぱ、ちょっと不便だと思うから。」
「新しい学校は携帯の持ち込みは禁止だよ。」
「そっか……。」
学校によってはそういうところもあるのだ。それを見て圭太は、少しうなづくと弥生に言った。
「携帯は持っておいた方が良いかもな。こいつまだまだ危機感利がなってねぇし、危ないときに助けてって言える方法は取っておいた方が良いし。」
「そうねぇ。だったら何か簡単な機能が付いているヤツないかな。井上に連絡してみる。」
「携帯屋にいるんだっけ。」
「うん。」
大学の時の同じサークルだった井上という女性は、歌が上手な人だった。一時期は歌手を目指していたが、中途半端にうまい人などごろごろ居ると感じて、さっさと携帯電話の受付の職に就いた。
「功太郎君にもずいぶんお世話になったわね。今度改めてお礼に行くわ。それに響子さんがすごく心配していたんでしょう?」
「あぁ。あいつもちょっと不安定なところがあってな。」
奥へ言ってしまった香を見て、弥生は少し小声で言う。
「圭太、響子さんと付き合っているんですって?」
「うん。」
「大変じゃない?」
「どうして?」
「冷静に見えるけれど、あの人……患者と同じ目をしているから。」
「あぁ。通院してるんだ。」
「言っちゃ悪いけど、精神の病の人って「完治」がないの。いつ発病するかわからない。リスクはあるわ。」
「わかってるよ。」
「簡単な問題じゃないよ。圭太みたいに、「あぁすると喜ぶかな」とか「こうするといい」とか押しつけるような人は、少しストレスになるかもしれないし。」
「……。」
「自分のことよりも他人のことを大事にするような人よ。それを圭太は感じてる?」
思いやればいいと思っていた。響子が今日は帰りたいと言っていたのだから、帰りたいなら送りたいと口にしたのだ。だが響子はそれを望んでいなかったのだろうか。
車の中ではジャズが流れている。圭太のお気に入りの局で、プレイヤーも圭太が好きな人。だが何も入ってこなかった。
食事を買って、マンションの駐車場にいれる。そして六階まであがると、自分の部屋の前でチャイムを鳴らした。
「お帰り。」
響子が出てきて、少し笑顔になった。それが少し新婚夫婦のように思えて、先ほどまでの鬱憤が無くなるようだ。
「ただいま。これ。買ってきたよ。」
「ありがとう。」
テイクアウトが出来る和食の店。筑前煮や、白身魚の西京焼きが入っている。それを響子はテーブルに置く。すると圭太はその背中に体を寄せた。
「何?」
「こうしたかったんだけど。」
響子の頭の中で少し功太郎がよみがえった。だが首を振ると、圭太の手に手を重ねる。
「私もされたかったの。」
すると圭太は少し笑い、振り返った響子の唇に軽くキスをする。そして体を向けると、また抱きしめた。そのとき、響子の首筋に赤いものが見えた。
「響……。」
こんなものはなかった。どこでついたのだろう。自分が無意識に付けたのだろうか。いや……こんな事を店の中でするのが、響子が一番嫌がることだ。
「どうしたの?」
響子は体を離すと、圭太を不思議そうに見る。いいや。考えすぎだ。何もないはずだ。
「飯にしようか。いい加減腹が減ったな。」
「そうね。どこの和食屋さんのものなの?」
そういって響子はテーブルに置かれている折り詰めに入っている割り箸の袋を見ていた。
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