彷徨いたどり着いた先

神崎

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偏見

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 ワンルームの部屋に純の笑い声が響いた。それを功太郎は怒ったように、ペットボトルの蓋を開けて中身のお茶を飲む。そしてそれを複雑そうに香が見ている。
「るせぇ。もう笑うなよ。純。」
「まさか小学生なんて思わないだろ。なぁ。香ちゃんだっけ。」
「うん。」
「いつでもここ来ていいんだからな。」
「ホント?」
 そういってきらきらと純を見ていた。それを圭太が止める。
「待て。待て。俺が弥生にしばかれる。」
「よっぽど怖いのねぇ。」
 響子はそういって圭太を見ていた。
「つーか。あれだ。ヒステリーっていうか。その担任とうまく話せてんのかね。」
「どうかしらね。時間もかかってるし、大丈夫かしら。」
 そのときやっと功太郎の携帯電話が鳴った。功太郎はそれを手にすると通話を押す。
「はい。あー……。タクシーで帰らせる?」
 どうやら弥生からのようだ。話は済んだので、家に香を返してほしいといっているのだ。
「うん……わかった。じゃあそうするよ。」
 功太郎はそういって電話を切ると、香を見た。
「話が終わって、家に帰って欲しいらしいわ。」
「うん。わかった。」
 すると圭太が香を見る。
「俺が連れてかえってやるよ。車を持ってくるから。」
「家にあるの?」
 響子が聞くと、圭太は少し首を横に振る。
「いいや。まだ少し考えている段階なんだけどな。宅配しようと思ってて車を持ってきてるんだ。」
「宅配?」
「お前も使えるようになってきたし、俺が居なくても店が回るだろ?アフタヌーンティーも割と出るし、それにあわせて宅配しようと思ってて。」
 すると響子は納得したようにうなづいた。
「そう。だから最近ずっと使い捨てのトレーのことを山田さんに聞いていたのね。」
「あぁ。まぁ……それだけじゃないけどな。」
 本当は響子のことを一番に考えたかった。休みの時もあまり会うことはない。いつか病院へ行ったときのように、デートをしたいと思っていたのだ。
「って事で、俺、香を送るから。っと……響子はどうする?」
「え?」
「帰るんならそのついでに送るけど。」
 その言葉に響子は少し戸惑ってしまった。確かに帰りたいとは言ったが、本当に圭太に送ってもらうとは思ってなかったからだ。
「うーん……。」
「終電には間に合うけど、ついでだよ。」
 すると純が少し圭太を見上げていった。
「あんたも鈍いよな。」
「え?」
 そういわれて響子を見た。戸惑っているという感じなのだろう。確かに帰るとは言ったが、本当に帰らせるつもりで言たと思っていなかったのだ。つまり圭太の側にいたいと響子は思っていたのかもしれない。それがわかって圭太は少し笑顔になると、キーケースを取り出してそこから鍵をはずした。
「先に帰ってろよ。」
「え?」
「今から飯を作るのは面倒だよな。買って帰るから。どっかうまいテイクアウトの店とかあるかな。」
 すると響子は少し笑顔になってその鍵を受け取る。
「そうする。」
 やはり自分の出番などない。その二人の姿を見て、功太郎は心の中でため息を付いた。

 まさか自分が小学生に欲情すると思っていなかった。見た目は高校生くらいに見えるし、乗りかかってきたあの柔らかさは女そのものだったのだ。
 思わず反応した自分の体が恨めしい。そして少しその瞬間、響子を忘れかけた。だがそのあと響子に会って、やはり自分の気の迷いだったと思えた。
 そう思いながら香の飲んでいた紙パックのココアのからを捨てる。明日はゴミの日だ。功太郎はそう思いながら、ゴミを少しまとめていた。そのときだった。
 玄関のチャイムが鳴る。また客か。そう思いながら、玄関のドアを開けた。
「はい。って……響子?」
 響子が一人で傘を持ったまま、立っていた。純も帰ってしまったその部屋は功太郎一人で、その部屋に何の用があるのだろう。
「そこにバッグがないかしら。」
「バッグ?」
「トートバック。」
 部屋に入り、そこを見渡すと確かに帆布で出来たトートバックがある。
「これ?」
「明日、クリーニングに出そうと思ってたのを忘れてたわ。」
 と言うことはこれは、今日、響子が着ていたものか。そう思いながら、功太郎はそのバッグを玄関まで持ってくる。響子は部屋の中まで入らない。さっきは圭太も香も居たから中に入ったのだろう。二人きりで部屋に入る理由はない。
「ほら。」
「ありがとう。」
「……オーナーの家に行くのか。」
「うん。」
 セックスをするのだろうか。この唇に圭太がキスをするのだ。そしてあの柔らかい胸に触れるのだろう。そう思うと腹が立ちそうだ。
「あなたが節操のある人で良かったわ。」
「俺が?」
「うん。香ちゃんって、頭の中は一般的な小学生だと思うの。だけど、体は違うわ。大人っていっても良いくらい。二人きりで何もなかったんでしょう?」
 泣いていた。それに気が付いていたはずなのに、響子はそれを見てみない振りをしていたのだろうか。それが優しさなのだろうか。
「あのさ……。違うんだよ。」
「手を出したの?」
「手は出してない。でも香から「好き」とは言われたんだ。」
 その言葉に響子は首を傾げて言う。
「それって、恋愛じゃないわよね。あなたのことを人間として好きって言っているだけじゃ……。」
「たぶん違う。」
「……でも嬉しかったんでしょう?」
「うん。俺……ずっといらない子だって言われてたから。」
 頭も良くて人望もあった真子とは、比較にならないほど劣等生だった。義理の親からも「やはりこれくらいだ」と言われていたくらいなのだから。
「あんな風に「好きだ」ってまっすぐに言われたのは初めてかもしれないな。」
「……ちょっとうらやましいわね。」
「え?」
「私はやっぱり少し恥ずかしい想いが先に来るから。」
 それは自分ではない。圭太に対してのことだ。わかってる。全部わかっているが、我慢できそうになかった。
 手を伸ばす。そしてその響子の手首に触れた。
「え?」
 思い切って、玄関に響子をいれた。そしてドアを閉めると、その体を抱きしめる。
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