彷徨いたどり着いた先

神崎

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花見

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 バレンタインデーやホワイトデーが終わると、だいぶ店は落ち着いてくる。客の中には、バレンタインデーやホワイトデーでカップルになった男と女がケーキやコーヒーを楽しんでいた。中には男同士、女同士というカップルもいたが、それを深く詮索するつもりもない。
 圭太はそう思いながら、予約のケーキの紙を取り出す。今度は卒業式や入学式にケーキを送りたいという人のための予約がある。ケーキもそうだが焼き菓子やチョコレートもあるので、真二郎は手一杯だろう。やはりもう一人ぐらいパティシエをいれるか。それとも功太郎にさせるかは、功太郎次第だろう。
 だが功太郎は元々バリスタ志望だ。今もコーヒーを淹れている響子の前に陣取り、その作業を見ている。
「これくらいの挽き具合か。」
「これ以上引けば濃く出てしまう。粗めだと少し薄く出てしまうから、時間をおいてゆっくり抽出しないと。」
「なぁ、響子。焙煎はまだ出来ないかな。」
「コーヒーも満足に淹れれないのに?一つ一つこなしていきなよ。一気にしたって、全てが中途半端になるわ。」
 フィルターに引いたコーヒー豆を落とし、沸いたお湯でゆっくりとコーヒーを抽出していく。すると店内にふわんとコーヒーのいい香りが漂ってきた。
 そのときだった。店のドアベルが鳴って、圭太は響子たちから目を離す。
「いらっしゃいませって……何だよ。弥生か。」
 そこには幼い感じの女性が立っていた。そしてその後ろには行つかここに来たことがある、弥生の妹である香の姿があった。
「何だはないでしょ?せっかく来たのに。」
 弥生の手には、大きな紙袋が握られている。そして香も同様だった。
「お、引っ越しか?」
「そう。香もやっと終了式が終わったし、一足先にこっちに引っ越すっていうから買い物ね。あー。疲れた。どこに座ったらいい?」
「あ、じゃあそこの時計の側がいいんだろ?」
「うん。このさ、ぶらぶらしてるの面白いね。」
「柱時計ね。レトロだわ。圭太、いいセンスしてるね。」
「それほどでもねぇよ。それにその時計はここにあったヤツだし。」
 二人は荷物を抱えたまま端の席へ向かう。そして荷物を置くと、ショーケースに近づいてケーキを吟味していた。その様子に功太郎はそっと響子に聞いた。
「誰だ。あれ。」
「オーナーの友達の彼女とその妹。」
 真子に似た感じだった。だから圭太が好きなタイプかと思ったのだが違ったのか。それにしてもあの妹というのは、やたら子供っぽい。好きなものがころころ変わるらしく、ケーキを見ていたかと思ったら壁に貼られているポスターを今度は見ていた。
「こっちも祭りがあるの?」
「あぁ。春の祭りな。桜にかこつけて飲みたいだけだろうに。」
「良いじゃない。うちの職場もあるよ。花見。新人の歓迎会みたいなものもかねてね。」
「看護師はともかく、医者が参加するのか?」
「ドクターの方が凄いことになるのよ。絶対急性アルコール中毒になる人が出るんだから。」
「本末転倒だな。」
 圭太も笑いながら、ケーキのオーダーを取っていた。
 だが響子の表情が少し硬くなっている。緊張しているようにも見えた。
「姉さん。あたし、こっちのお祭りにも行ってみたい。」
「良いよ。瑞希と休みを合わせて行きましょうか。ねぇ。圭君も行かない?」
「ここが休みだったらな。」
 ショコラブラックと、イチゴのムースケーキ。それにブレンドとバナナジュースをオーダーし、それを響子に伝える。するとそのメニューに功太郎が口を出した。
「バナナジュースって子供向けのヤツだろ?」
「大人が飲んでも問題はないわ。それにあの子、まだ進級しても小学生だし。」
「は?」
 そういって改めて功太郎は、香をみる。やたら背が高く、もしかしたら功太郎よりも背が高いかもしれない。それに細身なのに胸もありそうだ。どう見ても高校生くらいにしか見えない。
「小学六年だっけ。学校はどこに行くんだ。」
「近くの公立よ。今までもそうだったし。」
「生徒数は多そうか?」
 すると香は少し笑っていう。
「凄いね。こっちの学校さ。今まで行ってた所って、一クラスしかなかったの。でもこっち五クラスもあるのよ。」
「それでも少ないな。」
「多すぎて分けたって聞いたけど。」
 オーダーを持って行った功太郎が、ちらっとその席をみる。すると香と目があった。すると香は少し笑って、功太郎をみる。
「あら。新しい従業員?」
「あぁ。年末からな。千鶴が結婚して退職したんだ。」
「だったわね。元気そうだった。そうそう。この間うちの病院に来ててさ。妊娠したって言ってたわ。」
「へぇ。」
「いいよね。あたしも早く結婚したいなぁ。」
 すると圭太が意地悪そうに言う。
「お前は仕事辞められないだろ?それにベースも。」
「当たり。だから婚期が遠のくって言われた。」
 圭太と弥生が話をしている間、香は席を立ってまたポスターを見ていた。その祭りが気になるのかもしれない。
「桜がみたいのか?」
 功太郎がそう声をかけると、香は少し笑って言う。
「お父さんとお母さんで、毎年花見に行ってたの。お母さんがお弁当を作ってくれて、お父さんが場所をとってくれて。甘酒作ってくれたの。」
 もう出来ないことだ。わかっていても、香はやるせなかったのだろう。
「あの甘酒飲みたいなぁ。」
「甘酒って作れるのか?」
 コーヒーを淹れている響子に聞くと、響子は少しうなづいた。
「あまり手間じゃないわね。今すぐに作れって言われても困るけれど。酒粕と砂糖で作るの。」
 すると圭太がその話に付いてくる。
「花見をするときに作ってくれよ。」
「は?」
 響子は驚いて圭太の方をみる。
「良いじゃん。ここの店の奴らと、瑞希と、弥生と、香ちゃんでさ。」
「……花見に行く体で言ってるわね。人混み、嫌いなのよ。」
「わかってるよ。でもほら、この時期にしかみれないし。久しぶりに俺も花見をしたいし。」
 するとキッチンからケーキを持ってきた真二郎がその話に付いてきた。
「花見?良いねぇ。いつにする?」
「真二郎まで。」
 響子は不服そうだったが、香は表情を明るくさせて言う。
「連れて行ってくれるの?」
「良いよ。瑞希と弥生とまた連絡取り合ってな。」
「わーい。お姉ちゃん。お弁当を作って。」
「はい。はい。」
 二人は半分しか血の繋がりはない。だがとても仲が良さそうに見えた。それは響子と真二郎を連想させる。血の繋がりなんかは関係ないと言われているようだった。
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