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奪い合い
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功太郎と雅と別れた響子は、まだ一階の店に入って男たちを後目に、住居スペースへ向かう。二階はイメクラになっていて、見ようによっては響子がそのイメクラの従業員に見えないこともないが、そこに入っていく女性たちは響子とは真逆に見える。
彼女らは、体が売り物だ。イメージを崩さないように、本当のプロであれば肌の手入れにも手の先まで気を使っている。だが響子はそんなことに気を使っていない。唯一気を使うのは爪の先くらいで、それも清潔に保たないといけないので深爪くらい短く切っている。長くのばしてマニキュアを塗るような感じではない。
部屋の前について、鍵を開けようとした。そのとき、階段の方から足音が聞こえる。この辺は夜の仕事をしている人が多い。なのでこの時間にここに来る人はいないはずなのだが。そう思っていたが、真二郎かもしれないと響子は鍵を開けて中に入ろうとした。そのとき声をかけられる。
「響子。」
振り向くと、そこには圭太の姿があった。
「あなただったの。」
圭太は響子の側に来て、少し笑う。
「真っ直ぐ帰ってきてて良かった。」
「心配だったの?」
「あぁ。……この辺で手入れが入ったって聞いたし。」
功太郎と響子が駅へ向かったあと、瑞希から連絡が入ったのだ。警察がK町のがさ入れが始まっていると。それを聞いて、響子の事がよぎった。そして功太郎と一緒に行動しているのだ。ぱっと見ただけでは淫行しているカップルに見える。そうなって警察なんかに取り調べられたら、迷惑がかかるのは店の方だ。
「雅さんが誤解したわ。」
「いつか店にきた警察官か?」
「えぇ……。」
響子のことをよく知っている人の一人だ。おそらく響子の一番近くにいるのは祖父が亡くなってからは真二郎だと思う。だがその次になるのは雅だろう。真二郎の前でももちろん圭太の前でも話をしないことが多いのだ。
圭太はどの位置にいるのだろう。そう思うと自分が暗くなりそうだ。
「今夜、家に来ないか。」
「……遅くなってしまったわ。今日はゆっくり眠りたいし……。」
「……。」
「それに、今日は出来ないもの。」
「それだけじゃないって。俺が年がら年中したいと思ってるのか?」
「そうじゃないの?」
それが本当にそう思っているのか、わからない。響子の表情が変わらなかったから。
「しないときだってあるだろ?荷物持ってさ。」
「……。」
真子を重ねている。真二郎のその言葉がまだ耳に残っていた。圭太だってリスクが無い人を相手にした方がいいに決まっている。こんなに傷跡や火傷のあとがある傷物の女を相手にするよりも、普通の女が良いと思うのにどうして響子を選ぶのだろう。
「簡単に着替えとか持ってくればいい。」
「そうね。」
言葉は前向きだが、あまり乗り気ではないのはわかる。何かあったのだろうか。そう思って圭太は部屋の中に入った響子に聞く。
「何かあったか?」
「ねぇ……何で何も聞かないの?」
「え?」
「ずっとつけていたんでしょう?功太郎がそういうのに敏感だったみたいだから、どこに行って何をしていたのかわかっているのに。」
手を繋いで恋人のふりをした。ホテル街へ行って、その中に入ろうともしたのだ。それは圭太を誤解させたかもしれない。なのに圭太はそのことについて何も聞かず部屋に来るように促した。
それが優しさなのだろうか。
「……ふりだろ?功太郎に対してそんな気持ちなんか無いのはわかるし……。」
「どうして?」
「気持ちがあるのか?」
焦ったように圭太が聞くと、響子は少し笑って言う。
「無いけどさ。」
「だろ?」
ほっとした。もし功太郎に取られたりしたら、ますます自分が惨めになる。
「とりあえずさ。荷物だけまとめようか。で……俺の所に……。」
「どうしてさっさと自分で決めるの?」
すると圭太は少しその言葉に戸惑った。
「だって……不便だろ?お前だってそう思ってたはずだし。」
「別に今日じゃなくても良いと思うけど。」
「え……。」
まさかそう言われると思ってなかった。
「車で来てるの?」
「あぁ。」
「用意周到ね。それで連れて帰ろうとしたの?」
「お前が嫌なら強制はしないけど。」
「そう言って、結局自分の思い通りにしようとしているよね。」
その言葉に圭太の中で真子の言葉がよみがえる。真子はあまり男になれているタイプではなかった。だから圭太が考える真子が喜ぶであろうということをずっと実行し、真子はそれに喜んでくれた。
だが圭太自身は、それをされるととても戸惑ってしまう。だからつい真子に言ってはいけないことを言ったのだ。それがきっかけで真子は死を選び、そのことは自分の心に深い傷を残した。
「……俺は……お前が嫌ならそれで良いと思ってるけど……。だって最終的にはお前の意志だと思うし。」
「……。」
「同棲するのが早いって思うんだったらそれでも良いし……けどな。真二郎とは一緒に住めて、俺とは住めないって何なんだよって思うし。」
「……。」
「ただの幼なじみで、一緒に住めるかな。」
「不安?」
「平たく言えばな。」
「だったらそう言ってくれないかしら。私はあなたが言ってくれないと超能力者でもないんだから、あなたの気持ちなんかわからないのよ。」
すると圭太は少し笑って、響子を抱き寄せる。
「誰にも渡したくないんだ。だから今日……つけてたし……店のためとか言いながら、結局功太郎と一緒に出かけたってのがその……。」
「デートみたいに見えた?」
「うん……。」
すると響子はその体に手を伸ばす。そして少し笑った。
「今度の休み、病院へ行くの。」
「まだ行ってなかったのか?」
「一日かかるから。」
「検査とかするから?」
「じゃなくて、行くのに時間がかかるの。山の方にあって、電車を乗り継いで、バスに乗って、さらに歩いて三十分。」
「は?」
そんなところにある病院を行きつけにしているのか。少し驚いた。
「車なら、そんなに時間はかからない。それにあそこ、麓は温泉場なのよ。」
「連れて行きたい。」
真っ先にそう言った。圭太ならそう言うと思っていたから、響子はその腕の中で少し笑っていた。だが自分の中のもやもやした感情が消えることはない。
彼女らは、体が売り物だ。イメージを崩さないように、本当のプロであれば肌の手入れにも手の先まで気を使っている。だが響子はそんなことに気を使っていない。唯一気を使うのは爪の先くらいで、それも清潔に保たないといけないので深爪くらい短く切っている。長くのばしてマニキュアを塗るような感じではない。
部屋の前について、鍵を開けようとした。そのとき、階段の方から足音が聞こえる。この辺は夜の仕事をしている人が多い。なのでこの時間にここに来る人はいないはずなのだが。そう思っていたが、真二郎かもしれないと響子は鍵を開けて中に入ろうとした。そのとき声をかけられる。
「響子。」
振り向くと、そこには圭太の姿があった。
「あなただったの。」
圭太は響子の側に来て、少し笑う。
「真っ直ぐ帰ってきてて良かった。」
「心配だったの?」
「あぁ。……この辺で手入れが入ったって聞いたし。」
功太郎と響子が駅へ向かったあと、瑞希から連絡が入ったのだ。警察がK町のがさ入れが始まっていると。それを聞いて、響子の事がよぎった。そして功太郎と一緒に行動しているのだ。ぱっと見ただけでは淫行しているカップルに見える。そうなって警察なんかに取り調べられたら、迷惑がかかるのは店の方だ。
「雅さんが誤解したわ。」
「いつか店にきた警察官か?」
「えぇ……。」
響子のことをよく知っている人の一人だ。おそらく響子の一番近くにいるのは祖父が亡くなってからは真二郎だと思う。だがその次になるのは雅だろう。真二郎の前でももちろん圭太の前でも話をしないことが多いのだ。
圭太はどの位置にいるのだろう。そう思うと自分が暗くなりそうだ。
「今夜、家に来ないか。」
「……遅くなってしまったわ。今日はゆっくり眠りたいし……。」
「……。」
「それに、今日は出来ないもの。」
「それだけじゃないって。俺が年がら年中したいと思ってるのか?」
「そうじゃないの?」
それが本当にそう思っているのか、わからない。響子の表情が変わらなかったから。
「しないときだってあるだろ?荷物持ってさ。」
「……。」
真子を重ねている。真二郎のその言葉がまだ耳に残っていた。圭太だってリスクが無い人を相手にした方がいいに決まっている。こんなに傷跡や火傷のあとがある傷物の女を相手にするよりも、普通の女が良いと思うのにどうして響子を選ぶのだろう。
「簡単に着替えとか持ってくればいい。」
「そうね。」
言葉は前向きだが、あまり乗り気ではないのはわかる。何かあったのだろうか。そう思って圭太は部屋の中に入った響子に聞く。
「何かあったか?」
「ねぇ……何で何も聞かないの?」
「え?」
「ずっとつけていたんでしょう?功太郎がそういうのに敏感だったみたいだから、どこに行って何をしていたのかわかっているのに。」
手を繋いで恋人のふりをした。ホテル街へ行って、その中に入ろうともしたのだ。それは圭太を誤解させたかもしれない。なのに圭太はそのことについて何も聞かず部屋に来るように促した。
それが優しさなのだろうか。
「……ふりだろ?功太郎に対してそんな気持ちなんか無いのはわかるし……。」
「どうして?」
「気持ちがあるのか?」
焦ったように圭太が聞くと、響子は少し笑って言う。
「無いけどさ。」
「だろ?」
ほっとした。もし功太郎に取られたりしたら、ますます自分が惨めになる。
「とりあえずさ。荷物だけまとめようか。で……俺の所に……。」
「どうしてさっさと自分で決めるの?」
すると圭太は少しその言葉に戸惑った。
「だって……不便だろ?お前だってそう思ってたはずだし。」
「別に今日じゃなくても良いと思うけど。」
「え……。」
まさかそう言われると思ってなかった。
「車で来てるの?」
「あぁ。」
「用意周到ね。それで連れて帰ろうとしたの?」
「お前が嫌なら強制はしないけど。」
「そう言って、結局自分の思い通りにしようとしているよね。」
その言葉に圭太の中で真子の言葉がよみがえる。真子はあまり男になれているタイプではなかった。だから圭太が考える真子が喜ぶであろうということをずっと実行し、真子はそれに喜んでくれた。
だが圭太自身は、それをされるととても戸惑ってしまう。だからつい真子に言ってはいけないことを言ったのだ。それがきっかけで真子は死を選び、そのことは自分の心に深い傷を残した。
「……俺は……お前が嫌ならそれで良いと思ってるけど……。だって最終的にはお前の意志だと思うし。」
「……。」
「同棲するのが早いって思うんだったらそれでも良いし……けどな。真二郎とは一緒に住めて、俺とは住めないって何なんだよって思うし。」
「……。」
「ただの幼なじみで、一緒に住めるかな。」
「不安?」
「平たく言えばな。」
「だったらそう言ってくれないかしら。私はあなたが言ってくれないと超能力者でもないんだから、あなたの気持ちなんかわからないのよ。」
すると圭太は少し笑って、響子を抱き寄せる。
「誰にも渡したくないんだ。だから今日……つけてたし……店のためとか言いながら、結局功太郎と一緒に出かけたってのがその……。」
「デートみたいに見えた?」
「うん……。」
すると響子はその体に手を伸ばす。そして少し笑った。
「今度の休み、病院へ行くの。」
「まだ行ってなかったのか?」
「一日かかるから。」
「検査とかするから?」
「じゃなくて、行くのに時間がかかるの。山の方にあって、電車を乗り継いで、バスに乗って、さらに歩いて三十分。」
「は?」
そんなところにある病院を行きつけにしているのか。少し驚いた。
「車なら、そんなに時間はかからない。それにあそこ、麓は温泉場なのよ。」
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