彷徨いたどり着いた先

神崎

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チョコレート

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 頭が痛くて目が覚めた。瞼が重くて、このまま横になっていたいような気がする。だが起きなければいけない時間だ。携帯電話の目覚ましがそう騒いでいる。そう思いながら功太郎は体を起こした。すると頭がぐわんぐわんと揺れるようだ。それに頭が痛いのが酷くなるようだと思う。
 典型的な二日酔いだ。そう思いながら体をのろのろと起こす。この部屋の壁は薄いようで、隣の部屋から声がする。どうやら夕べ、隣人に誘われて合コンに参加したが、その男はうまくいったらしい。その薄い壁から女の喘ぐ声が聞こえたから。
「あー……。」
 なんだか自分の体が臭い気がする。とりあえずシャワーでも浴びればすっきりするかもしれないと、功太郎は服を脱いで風呂場へ向かう。
 夕べの記憶はあまりない。近くの居酒屋というか炭火焼き屋で、酒を飲んでいると響子がやってきた。そして何か文句を言っていたような気がする。そしてその後ろから圭太がやってきて、それを止めていた。二人で居酒屋にくるのだ。そして終電で大人しく帰したのだろうか。いや、帰らないとおかしい。響子には真二郎が居るのだから。
 真二郎が男でも女でもいけるほど寛容で、遊び人なのだ。それを黙って見送るような女が響子だ。どうしてそんな男と付き合っているのだろうか。このままだったら、響子以外の女から「子供が出来た。責任をとって欲しい」といわれるのも時間の問題だろう。
「くそ。」
 そう言ってシャワーのお湯を止める。体を拭いて、新しい下着とシャツに袖を通した。そして洗い晒しのジーパンとシャツに袖を通す。そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
「はい。」
 ドアを開けると、そこには隣人である牧田純がいる。手にはコンビニの袋が握られていた。どうやら近くのコンビニに寄ってきたらしい。
「よう。顔色悪いな。これ飲めよ。」
 そう言って純は功太郎にその袋を手渡した。
「悪いな。」
「頑張って飲んでたもんな。」
「そっちもさっきまで頑張ってたんだろ?」
 薄い壁は声も筒抜けだ。純は少し笑って言う。
「性欲の固まりみたいな女だったよ。夕べ三回してさ。また今朝だぜ。からっからになっちまう。」
「腹上死なら、本望だって言ってなかったっけ。」
 そう言ってコンビニの袋から、二日酔いのための液体のアンプルを取り出す。気休めだとはわかっていても、とりあえず今日乗り切れば何とかなる。
「夕べの女から、言われてさ。」
「女?」
「お前の職場の女かな。お節介なヤツだよ。家族じゃあるまいし。」
「そっかな。」
 おそらく響子のことを言っているのだろう。響子があの場に乗り込んできたのは何となく覚えているから。
「でもいい女だったな。おっぱい大きそうだったし、男連れなのが残念だ。」
「オーナーだよ。」
 そう言ってそのアンプルの蓋を取って口に入れる。不味くて吐き出しそうだが、我慢して飲めばあとが楽だろう。
「でも……何かあれだな。」
「あれ?」
「カップルにしか見えなかったけどな。」
「冗談。響子がオーナーなんかになびくわけねぇよ。それにあいつ彼氏が居るし。」
 綺麗な男だ。それにソフトで、限られた人しか心を許さない。響子も一番信頼している相手なのだろう。
「ふーん。そうかな。」
「え?」
 言い聞かせているように見える。おそらくあれが功太郎が好きな相手なのだ。そして手を出せないでいる。それがわかって純はそれ以上何も言わなかった。

 目を覚ますと、響子は隣にいなかった。どこに行ったのだろうかと圭太は慌てて起きあがる。だがふっと味噌汁の匂いがする。そうか。何か作っているのだろう。
 そう思って圭太は手を伸ばして下着やシャツを身につけた。そしてベッドルームから、リビングへやってくる。
 するとキッチンで響子が何か作っているようだった。しばらくして炊飯器が音を立てる。ご飯が出来たのだろう。
「あぁ。起きた?」
 その姿に少し真子を思い出した。だが払拭して、圭太はキッチンへ向かい響子を後ろから抱きしめる。
「おはよう。」
「うん。おはよう。」
 そう言って軽く唇を合わせた。
「黙って居なくなるなよ。慌てるじゃん。」
「目が覚めちゃって。」
 夕べもあまり寝れていなかったはずだ。寝ながら魘されていたから。やはり隣にいてもまだ響子は悪夢と戦っているのだ。
「あまり寝てないだろ?」
「薬が切れちゃってたし。今度の休みに病院へ行こうと思ってたんだけど。」
「薬?」
「睡眠薬。寝れないときだけ飲むようにって言われているヤツ。」
「まだ病院に?」
 すると響子は卵焼きを焼きながら、少しうなづいた。
「しょっちゅう行くようなことはないんだけどね。日常生活に支障があるわけじゃないし。」
「……それでも、必要なんだな。」
 圭太はそう言って器用に卵を巻いていく響子の手先を見ていた。ずっとやっていたのだろう。慣れているようだ。そしてそれをいつも真二郎と食べていたと思うと、嫉妬しそうになった。
「それよりも冷凍庫の納豆すごいわね。溶かしながら食べてるの?」
「毎日食べてんだよ。だからってどこが良いとかはわからないけど、とりあえず好きだしな。」
「そうなのね。今日も食べる?」
「もちろん。」
 そう言って圭太は響子から離れると、その冷凍庫にある納豆のパックを取り出した。蓋を開けて、付属のたれを取り出すとレンジに入れる。ほんの何十秒かで食べれるくらい解凍されるのだ。
「真二郎はヨーグルトが好きだから、切らさないようにしているけどね。」
「どっちも発酵食品じゃん。」
「それもそうね。」
「お前も食べるか?」
「そうしようかな。」
 その言葉に圭太はまた冷凍庫から納豆を取り出す。卵焼きが焼けて火を止めると、まな板に取り出した。そして一口ほどに切っていく。
 夕べ、圭太は少し荒っぽく響子を抱いた。それはきっと嫉妬しているから。真二郎がキスをしてきたという事実を、上書きしたいからだったからかもしれない。
 いつも圭太は優しく響子を抱く。少しでも痛いとか、イヤだというコトには手を引くのだが、夕べの圭太はらしくないと思った。
 しかしそれがどうも自分に火がついたように感じる。もっと求めて欲しい。もっと欲しいと思えた。
 そして心の中で真二郎の言葉が響く。
「マゾヒストなんだよ。」
 認めたくないが、そうなのかもしれない。だからといって縛られたり、痛い思いをしたくない。そこまでしたら絶対圭太をはねのけてしまうから。
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