彷徨いたどり着いた先

神崎

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チョコレート

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 着替えを終わって、四人はチョコレートの味を見ていた。
 アルコール入りのものは普通のチョコレートのように見えるが、中にアルコールが仕込まれてある。オレンジの香りがふっと香り、それとともにナッツの香りもする。
 ノンアルコールのものはドライフルーツが仕込まれていた。リンゴと梨のもので、甘さが強調されているように感じる。
「こっちはぐっと大人向けね。オレンジ・キュラソーかしら。」
「そう。あとはアーモンドを練り込んでいてね。」
「オレンジ・キュラソーを使ったコーヒーもあるし、こっちはコーヒーに合いそうね。少し濃いめのものが良いかしら。」
「こっちは新触感だな。ドライフルーツっていうほど乾いてない。」
「半生だよ。そっちの方がどちらの甘みも感じるから。」
「子供にも食えるな。これは。むしろ好きかも。」
 チョコレートに手を伸ばしていた響子と功太郎を後目に、圭太はその形しか見ていない。
「形は成形するのか?」
「もちろん。どちらも見栄えがいいように作るつもりだ。六個入りと十二個入りで売り出したいと思ってる。」
「箱と包装紙を発注したいな。明日業者に持ってきてもらうようにいうか。」
 元同僚の男が、ここの担当になっている。営業部にいた圭太はこういう時期はいつも先に先にと行動していて、言われる前に見本を持って行ったりしていたものだが、最近の営業はそこまで気が回らないらしい。
 とはいえ、あまりにもそういうことをし過ぎていたのかわからないが、圭太の下につく配送の男は圭太を毛嫌いしていた。人使いが荒いと言われていたのだ。それは今でも噂が立っているらしく、ここの店を担当する男は後込みをしていたらしい。だが元ヤンキーのプライドが許さなかったのか、それとも意地があったのかはわからないが、すっとその男が担当している。
「生チョコじゃないんだな。」
 チョコレートを食べ終わった功太郎がそう聞くと、真二郎は少し笑った。
「生チョコレートは冷蔵保存しないといけない。すぐに溶けてしまうし、賞味期限も短いんだ。持って歩くことを考えるとこっちの方が良いと思ってね。」
「ふーん。確かに六個と十二個じゃ、職場に配るっていう感じじゃねぇな。でもこっちのアルコール入りは食べると少し生チョコっぽいかな。」
「大人向けだからね。これは子供が食べると、酔っぱらってしまうくらいの度数はある。クリスマス時期のブッシュ・ド・ノエルとは比べものにならないよ。」
 すると響子は少し首を傾げていった。
「少しアルコール度数は押さえられるかしら。」
「え?」
「つまりね、十二個入りでは職場に配るものではなく個人にあげるものかもしれない。だけど、小さい小規模の会社であれば、それを配ることはするかもしれない。酔っぱらったら仕事にならないわ。」
「なるほどね……。」
「普通のチョコレートでアルコール入りは一、二パーセントくらい。だからそれくらいだったらいいかもしれないわ。」
「そうなるとね……。」
 こうなると功太郎も圭太も口出しは出来ない。二人も相当頑固だ。特に仕事となると二人が引かない。
「どっちでも良いよ。美味いもんは美味いし。」
「ダメだって。」
 その言葉が二人でシンクロした。やはりつきあっているとそんなものなのかもしれない。
「わかった。わかった。明日、俺、有名店のチョコレートを買ってくるわ。」
 圭太がそういって二人を押さえる。すると二人は納得したようにうなづいた。
「今からでも開いてないかしら。繁華街の方にある洋菓子店が、まだやっているわ。」
「へー。そうなんだ。」
 響子はそういって携帯電話でその店をチェックする。どうしてそんなところに建てたのかわからないが、ここから二、三駅向こうのビジネス外のはずれにある繁華街に支店を何店舗かだしている洋菓子店の本店があるのだ。
「真二郎、お前行けないか?」
 圭太はそう聞くと、真二郎は首を横に振る。
「今日は行けないことはないんだけどさ。ほら……俺、この業界では鼻つまみものだから。」
 そう言われればそうだった。圭太は呆れたように真二郎を見る。
「そうだったな。功太郎はどうする?」
 すると功太郎は携帯電話を取り出していう。
「俺、今日用事があってさ。」
 功太郎には功太郎の事情がある。圭太はそう思いながら響子をみた。
「男と女の二人の方が良いよ。まさかほかの洋菓子店の人が来ているとは思わないだろうし。オーナーが一人で行った方が疑われる。」
 それもそうだ。それにやっと二人になれる。正月からこちら、デートらしいデートもしていないのだ。
 一人にやっとなったというのに、響子は部屋に来ようとはしないし、いいチャンスになったと思う。

 電車に二人で乗り、響子は流れる光を見ていた。いつもとは違う路線の電車で、ここにはヒジカタコーヒーの本社もあるはずだ。当然、その向かう洋菓子店にも卸しているかもしれない。
「真二郎はさ。」
 ずっと黙っていた響子に、圭太は声をかける。すると響子は圭太の方を見上げた。
「あの姉さんの言いなりだったのか?」
「……そうね。真二郎は、高校まで施設にいたから。」
 本当は梶のままで居たかった。だが桜子が遠藤の家に入る条件として、真二郎も入れて欲しいと言ったのだ。
「お姉さんにとっては私は目の上のたんこぶだった。お姉さんがあんなに真二郎に気をかけているのに、真二郎はずっと私の後ろしか付いてこなかったの。」
「……あれだな。お前の方が年下なのに、真二郎がついて行っているってのも変な話だ。」
「そう?時代が悪いのかもしれないけれど、あのころから真二郎の性癖は男だった。それを学校でからかわれていて、一時は不登校になりかけたの。」
「不登校?」
 同じ学校だったはずだ。そんなヤツが居たかと圭太は首を傾げていた。
「お姉さんは、そんな外野の雑音は気にするなって言っていたけれど、やっぱり多感な時期だものね。」
「……お前は真二郎がゲイだって知ったとき、別に何とも思わなかったのか?」
「私の周りには多かったから、あぁ、この人もかって思ったくらいだわ。それに真二郎は性差を越えたつきあいが出来ていたから。」
 まだ小学生の頃だった。仲が良かった女子から、女性教師が好きだと告白されたことがあった。好きだの、嫌いだのと言う感情がよくわからなかった響子は、ただ軽く流していただけかもしれない。
 そしてその女子も、真二郎と同じように響子がレイプされたと言っても普段通りに接してくれた貴重な人だった。
 今はその人は、外国にいる。外国の方が女性同士で結婚できるからだ。
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