彷徨いたどり着いた先

神崎

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親族と他人

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 本当なら圭太のところに泊まるのは嫌だった。だから真二郎のところに泊まりたいと申し出たが、それを響子が止める。
「駄目よ。お尻の穴を拡張したくないでしょ?」
 その言葉にぞっとした。
「俺、売春はしてたけど、男相手はしたこと無いからなぁ。」
「新しい世界が待っているかもしれないのに。」
 真二郎はそう言うと、さらに功太郎はぞっとする。
「えー……。だったら響子のところにでも……。」
「私は駄目よ。もう定員は一杯でね。」
「え?同居人がいるの?」
 そのときやっと初めて、響子と真二郎が同居していることを知った。真二郎の性趣向は男だから同居しているのだという。
「んだよ。俺のところじゃ駄目なのか。」
 圭太はそう聞くと、功太郎は口をとがらせた。
「もう今更……あぁだこうだいいたくないけどさ。……掃除とかしてんの?」
「バカにすんなよ。」
 四人で帰りながら、冗談混じりにそういった。
「とりあえず、荷物を持ってこないといけないな。家具とかはもう処分しろ。その辺も面倒は見てやるから。車を出してやる。」
「……うん。」
 そういって四人は駅前で別れた。真二郎は今日から、ウリセンの仕事を入れていない。今入れれば、ハードすぎて倒れてしまうかもしれないからだ。自分のことだけではなく特に響子がそうなる可能性が高い。
「オーナーも面倒見が良いわね。」
「謝罪のつもりもあるんだろうね。」
「真子さんへ?」
「うん。」
「だったら一生面倒見るつもりかしら。」
「え?」
 真子は圭太の言葉にショックを受けて死んだのだ。それにとらわれて功太郎を面倒見ているというのだったら、一生かけて謝罪しないといけないだろう。
「私が受けたことに、犯人たちからの謝罪の一つもない。だけどもし謝罪されたとしても、私は許すつもりはない。許してもらうのに、お金というのは手っ取り早い方法でしょうね。だけどそれをしないと言うことは、結局、オーナーは功太郎に尽くすしかないのよ。」
「……。」
「そんなこと、功太郎は望んでいないわ。だからオーナーに出来ることは、真子さんをそうできなかったように功太郎を守ろうとしたんじゃないのかしら。だけど、守るだけではこちらの利益がない。」
「だから、従業員にしようと?」
「そっちが良いと思うわ。千鶴も年明けには居なくなるんでしょうし。」
 響子はそういって電車の壁にもたれた。
「将来的にはキッチンにも来るかな。」
「どう?キッチンでは使えそう?」
「悪くないよ。工場でも結構器用だったみたいだし。」
「そう……。」
「喫茶はどう?」
「これからってところかしら。色々勉強してもらわないとね。」
 あの父親が来たとき、功太郎は逃げ出さなかった。おそらく恐怖心が勝っていたのだろう。体中にある傷跡や火傷の跡が響子とかぶる。
「響子。今日はゆっくり休んだ方が良い。」
「え?」
「それからお尻に薬を塗った方がいいね。」
「大丈夫よ。そんなに強く打った訳じゃないわ。」
「いつもそんなことばかり言って。明日歩けなくても知らないよ。」
 少し笑いあって電車は最寄り駅に着く。

 クリスマスイブの前日。四人は総掛かりでケーキの仕込みをしていた。オーブンも何もかもがフル稼働で、予約の分のケーキを焼いていく。
「予約だけじゃ駄目だ。飛び込みの客もいると思うから余分を焼いておけよ。それから、明日も作るからな。」
 功太郎は言われたようにケーキを巻いていく。デコレーションは響子がして、生地やクリームを圭太と真二郎が作っていく。真二郎はそのほかにも、通常通りのケーキも作っているのだから、それが魔法のように功太郎は見ていた。
「真二郎。次、焼けるまで時間があるか?」
「今入れたからね。」
「よし。だったら功太郎。これでみんなの分の飯を買ってこい。」
 そういって圭太はポケットからお札を数枚功太郎に手渡した。
「どこで買うんだよ。」
「そこの角に弁当屋があるんだよ。」
「しらねぇ。」
「お前なぁ……。」
 すると響子が手を止めて言う。
「私も行くわ。」
「響子。」
 そういって圭太が止めようとした。だが響子は少し笑って言う。
「これからこういうこともあるでしょ?功太郎も知っておいた方が良いわ。この近辺のご近所さんくらい。で、何のお弁当を買ってくればいい?」
「あー。俺、天丼。」
「俺、おにぎり弁当かな。」
「良いわ。じゃあ、行きましょうか。」
 響子はそういって上着を羽織ると、功太郎も上着を羽織って裏の出口から出て行く。
「なんだかんだで仲がいいね。」
「まぁな。」
「オーナー。嫉妬してんの?」
「するだろ。そりゃ……。」
 忙しすぎて響子と二人になれないし、手を繋ぐこともなければキスすらできない。今の時期は仕方ないと言い聞かせながらも、それでも不服だった。
「響子にとっては弟ができた感覚なのかな。ほら、妹ならいるけどね。」
「あぁ。おっぱいが大きい妹な。」
 レズプレイの撮影前にやってきた夏子は、いつでも上機嫌のようだ。新しい世界が広がるのを怖がっていない。きっとそれは新しい世界に臆病な響子が反面教師になっていると思う。
 そのころ功太郎と響子は夜道を歩いていた。響子は丁寧にその周辺を説明している。
「そこのコンビニの店員は気をつけてね。」
「どうして?」
「すぐ男と寝るって噂があるの。」
「俺、そんなにがつがつしてるように見える?」
「見えないわね。草食系なのかしら。」
「んー……。そういうくくりはあまり好きじゃないな。」
「そうだったの?それは悪いことを言ったわ。」
 響子もあまりがつがつしているように見えないのは、きっと真二郎がいるからだ。あれだけの男前なのだから、響子が満足していないわけがない。一緒に住んでいる。それはきっと二人が恋人同士なのだからと言われているようだ。
「俺……売春してたから、初めてもそこで捨てて。」
「そうだったの?」
「何も知らない男を汚すのが好きな女で……功……俺が戸惑ってるのを相当面白がってみてた。けどその間に金があったから、逃げるのもできなかったし。」
 すると響子は少しため息をついていった。
「私……中学生の頃、こういう道で拉致されたの。」
「え?」
「半月くらい監禁されてね。ずっと輪姦されてた。それが初めてだったのよ。」
「……マジで?」
「……悪夢だったの。未だに夢に出てきたり、怖くなって起きることもある。」
「……。」
「AVの世界だけよ。心は嫌がっているのに体が反応してって……。嫌なものは嫌で、最終的にその場にいた男を刺して逃げたの。」
 響子の足が止まった。ずっと忘れていたことなのに、思わぬ形でそれを口にしたからだろう。だがずっと功太郎は気になっていたはずだ。響子が腕まくりすると見える火傷の跡なんかもわかっているはずだ。
「そんなのあったっけ?」
「え?」
「見せてくれる?」
 そういって功太郎はやや強引に響子の腕を握る。そして袖をめくった。するとそこには未だに変色している火傷の跡がある。
「コレ?」
「そう。」
「言われるまで気がつかなかったな。でも俺にもあるから。」
 そういって功太郎は自分の右腕の袖をめくる。するとそこには小さな火傷が無数にあった。おそらく煙草の火か何かを押しつけた跡だろう。
「え……。」
「大したことないって。俺も背中とかすげぇよ。それに姉さんも……。」
「真子さんも何かされていたの?」
 すると功太郎は首を横に振った。
「もう終わったことだし、姉さんは居ないし、恨んでも仕方ないだろ?それより今からの弁当の方が重要かな。揚げ物はきついなぁ。でも弁当って揚げ物ばっかだし。オーナーなんか天丼って言ってたじゃん。あいつ腹が出るぞ。」
 その言葉に響子は思わず笑った。こんな返し方をする人は初めてだったから。
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