彷徨いたどり着いた先

神崎

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親族と他人

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 やはり気を使ってその行為をするようだ。少しでもイヤだとか、痛いとかという事を敏感に圭太は察し、響子に触れてくる。それが悪いわけではない。ただどこかそれはフェアではないと響子は思っていた。
 広いベッドで二人で横になる。少し前なら真二郎がその役割をしていたのに、今、響子の隣にいるのは圭太なのだ。真二郎とは違う男らしい、骨太の骨格。いつもあげている髪はおろされて、いつもより幼く見える。そんな圭太の顔を見た人はどれくらい居るのだろう。少なくとも何度か店にきた聡子も、そして死んだ真子もそれを見ているのだ。そしてその二人は、きっと響子のようにひどい傷跡や火傷はない。
 昨日雅に会ったからだろう。少し思い出して、払拭する。もう過去のことだ。あの男達のうちの一人が、捕まったのだという。だが、捕まったところで何だというのだろう。今まで謝罪の一つも言われたことはないし、あの男達の中にはもう刑期が開けて、この世の中にでている人だって居るのだから。
 そう思いながら響子は、体を起こそうとした。そのとき腰に手が伸びる。
「起きてるの?」
 声をかけると、圭太は寝顔のまま少し笑った。
「趣味悪い。起きてるならさっさと起きなさいよ。」
 そう言うと、圭太は力ずくでまた響子をベッドに倒す。
「やだ。ちょっと……。あはは……。何くすぐってるのよ。やだ。そんなところ触らないで。」
 そう言って可愛く響子は、その脇に伸びた手を振り払う。そして組み敷かれたように、響子の上に圭太が乗りかかった。ゆっくりと顔を近づけるとその唇にキスをする。
「おはよう。」
「おはよう。朝ご飯、何か食べる?」
「あぁ。その前にお前を食べたいな。」
「元気ね。」
「夕べは一度しかしてないから。」
「何度も出来るの?おじさんなのに。」
「ほら触って見ろよ。」
 手を握られて、自分のそこに触れさせる。するとそこはもう大きく固くなっていた。
「早いわね。」
「朝だからな。」
 そう言って圭太は響子の唇にまたキスをする。口を開けて、舌を絡ませると響子もそれに答えてきた。

 響子と圭太はそのまま響子の家に戻っていった。着替えをするためだ。いつものアパートのドアを開くと、真二郎がそこにはいた。どうやら今起きたらしく、コーヒーを淹れている。
「おはよう。」
「真二郎。あまり寝ていないんじゃないの?夕べ、ロングだったんでしょう?」
「少し寝たよ。それに眠かったら昼寝でもするから。」
 響子がしていることを見よう見まねでコーヒーを淹れている。だが響子の淹れたものにはほど遠い。何が違うのかと試行錯誤するが、もう半分あきらめて「飲めればいい」と思っていたのだ。
「真二郎。それ、あげるのが早いな。」
 そう言って圭太はキッチンへ向かう。そうだ。圭太も響子ほどではないが、コーヒーを淹れることは出来るのだ。その入れ方は独特で、「ヒジカタコーヒー」で淹れていたやり方なのだろう。
「落ちきらないであげるんだ。落ちてしまうとどうしてもえぐみが出るし。」
「あら、バリスタみたいな事を言うのね。」
 響子はそう言って少し笑う。そして寝室の方へ向かった。
「俺もバリスタだったことがあるんだけどな。」
「そうだったね。「ヒジカタカフェ」にいたんだろ?」
「昔な。」
 真子がいつも居た。そのときのことは思い出したくはないが、イヤでもコーヒーを淹れれば思い出す。
「誰か来てたのか?」
 水切りかごにあるのは、湯飲みが二つ。誰か来ていたように思えた。
「雅さんがね。」
「あぁ、警察だったか。」
 ちらっと寝室の方を見る。まだ響子は出てくる気配はない。
「……響子を拉致した人が捕まったんだ。」
「え?」
「これで六人目。でももっと居ると思う。」
「どうして出てきたんだ。何かやったのか?」
 コーヒーをカップに注いで、余ったものをまたカップに注ぐ。そしてそれを圭太に手渡した。
「ネットにあがっていたんだ。響子が監禁されていたときの映像が。」
 趣味の範囲を超えている過激な映像や写真を載せるサイトがある。中には未成年のものもあり、それをあげて収益を得ている人もいるのだ。だがそれは違法であり、映像をあげた人、写真をあげた人も全て摘発される対象になる。
「……そっか……。」
「響子には昨日、雅さんが来たときに伝えたらしい。夕べ、響子は変じゃなかったか。」
「……そう言えば……。」
 寝ているとき、響子はうなされていた。せわしなく手を動かして、誰かに助けを求めていたように思える。だから手を握り、落ち着かせたのだ。
「響子はそう言うところがあるんだ。いくら過去で、過ぎ去ったことで、犯人が捕まったとしても一生消えることなんかないんだ。」
 そのとき隣にいるのは、いつも真二郎だった。うなされて起きて、真二郎の腕の中でやっと落ち着いてまた眠りにつくのだ。
「……まだ終わってないんだな。あいつの中では。」
「あぁ。だから優しくしてあげてよ。」
「わかってるよ。ん……コーヒー豆は悪くないな。どこのだ?」
「あぁ、悪いと思ってるけどうちの店の廃棄のヤツ。」
「お前等なぁ……。」
「個人店だから、そんなに気にしないでくれよ。あいたっ!」
 足を蹴られた。真二郎は少し笑いながら、またコーヒーに口を付けた。
「何遊んでるのよ。」
 響子は呆れたように二人を見ながら、脱衣所へ向かう。そして洗濯機を回す音がした。
「響子。今日出かけるんだろう?」
「うん。雅さんが教えてくれた喫茶店へ行こうと思って。」
「だったら洗濯物はやっておくよ。」
「あなたは用事がないの?」
 不思議そうに響子がきくと、真二郎は少し笑って言う。
「少ししたら出るかもしれないけどね。」
「あぁ。あなた狙っている男の子が居るって言ってたわね。」
「狙ってなんて。人聞きが悪い。」
 すると圭太はコーヒーを飲みながら、響子にきく。
「誰だ。その狙ってるって言ってんのは。」
「気になる?」
「店の迷惑になるような相手じゃないんだろうな。」
「N街にさ。こう……灰色の作業着の男の子。磨けば光る原石だね。」
「ったく……。」
 たまたま通りがかっただけだった。ぼさぼさの髪で、帽子をかぶった線の細い男だった。
 真二郎にかかれば、ゲイだろうとストレートだろうとたちまち夢中になる。そして真二郎もそれを悪いと思っていない。
 そんな真二郎を全く相手にしなかったのは、響子とそして圭太だけだった。もっとも圭太はそんなことも覚えていないし、真二郎に何を言ったかも忘れているのだろう。
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