彷徨いたどり着いた先

神崎

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子供

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 そのままその盗聴器付きのお菓子の付いた紙袋を、やってきた圭太の「実家のモノ」という人たちに手渡す。コレであの男はどのような制裁を受けるかわからない。
 ただその「実家のモノ」という人たちは、明らかに堅気の人ではない。スキンヘッドのがたいのいい男と金色の髪をしたボディピアスの男たちは、ヤクザにしか見えなかった。
「それにしても何で盗聴器が……。」
 圭太はその中で育ったぼんぼんなのだ。圭太だってその内情は知らないだろう。
「足の引っ張り合いってことでしょ?」
 お茶を入れて、ソファに座っている圭太の前に置く。そして響子も自分のお茶を入れると、その隣に座った。
「足の引っ張り合い?」
「そっちの世界は露骨だものね。弱みを握れば、そこから崩れていく。脅したり、脅されたりは日常だものね。千鶴はそんな人と一緒になってて大丈夫なのかしら。」
「……でも今千鶴が居なくなったら、店は困るんだけどな。」
 女っ気がない響子よりも、千鶴の方が店にいてもぱっと目を引く。ホステスもしているからか、愛想も良いし、客あしらいも出来る。今日の様子を見ていると、響子は接客は出来ないことはないと言ったくらいで、おそらく嫌う人も多かっただろう。正直であることが良いことばかりではないのだ。
「そうね……っつ……。」
 お茶を口に入れて顔をゆがめた。お茶の熱さが傷にしみたのだろう。
「大丈夫か?」
「二、三日で直るわ。口の中だから、薬を付けるわけにもいかないし。でも差し歯が折れないだけ良かった。高いし。差し歯。」
「見せて見ろよ。」
 そういって圭太は響子に近づく。見られるのは嫌だが心配していってくれているのだったら、拒否は失礼になるだろう。
「大丈夫だから。お茶って消毒効果もあるし……。」
「良いから見せろって。場合によっては請求できるんだから。」
 どんどん近づいてくる。諦めたように響子は口を開けた。するとその口内を圭太は見る。確かに切れているところはあるが、血は止まっている。血が流れるほど切れていないのだろう。
「もういい?」
「あぁ。」
 口を閉じて、頬に濡らしたタオルを当てた。感情にまかせる人は、男でも女でも手に負えない。
 するとそのタオルに圭太は手を重ねてきた。それに驚いて、響子は思わず手を振り払う。するとタオルが膝の上に落ちた。
「何……。」
「タオル当ててろよ。」
 そういってタオルを拾い上げると、頬に当てた。そしてじっと響子を見る。
「……その……今日のことはな……。」
「うん……。」
「お前等二人が突っ走ってしたことかもしれないと思ってる。それが少し悔しくてな。」
「……。」
「俺が殴られても良かったんだ。オーナーだし、そういうこともあると思うし……何より、千鶴も真二郎も、お前も守らなきゃいけないんだ。そのためには体を張らないといけない。」
「……。」
「俺の店だから。」
 ケーキが苦手で、コーヒーは淹れれるにしても響子ほどの腕ではない。それがコンプレックスだった。金を出して、オーナーといういすにあぐらをかいているだけだとは思われたくない。
「オーナーが居なきゃ、あの店は傾くわよ。」
「え……。」
「あなたの口八丁で、お客さんがケーキを買ってくれるじゃない。私は愛想がないしこの通りの口調だもの。真二郎だってほとんどのお客様が女性なのに、女性と話すのは苦手だわ。」
「……。」
「お祖父さんの店で二人でして居たときも、長続きはしないと思った。私と真二郎だけでは、お客様は離れていくだけだもの。お祖父さんのコーヒーにとうてい追いついていないと、古参のお客様から指摘もあった。それでも今の店で完売することも多くなったのを見て、あなたの営業力がそうさせてくれていると思っている。」
 こんなにまっすぐ響子からこんな言葉が聞けると思ってなかった。思わず顔がにやけてきそうだ。
「……なんていって良いかな。嬉しいよ。」
「我慢しないで笑いなさいよ。」
 すると圭太も響子も笑顔になる。そして目があった。だが響子の方から目をそらす。
「何……。」
「何がしたいかわかるから嫌なの。」
「しない。」
「え?」
「お前が望んでないならしない。」
 その言葉に響子の方がうつむいた。意識することはなかったのに、自分がおかしくなったのかと思う。殴られて赤くなっているのではなく、もっと赤くなっているのがわかるから。
「オーナー……あの……。」
「……。」
 すると響子は思い切って圭太の方に顔を上げる。そんな顔をして我慢が出来る男が居るのだろうか。好きな女が頬を染めて、自分を見ている。そんな状況で、何もしない男が居たら紹介して欲しいものだ。
「していいのか?」
「わざわざ許可を得ないでよ。」
「お前さ……俺から目を逸らすなよ。」
「え……。」
「真二郎でもないんだ。かといってお前を悲しませた男たちじゃないんだ。お前の前にいるのは……誰なんだ。」
「オーナー。」
「そうじゃない。名前、呼べよ。」
「圭太……。」
 すると圭太は少し笑って、片手で押さえているタオルとは逆の手で、響子の頬を包み込んだ。そしてゆっくりと顔を近づけていく。
「……。」
 ふわっと唇が重なった。しっとりした唇で、わずかにコーヒーの匂いがした。
「酔いそう。」
 そういって圭太は唇を離すと、少し笑った。
「お酒なんか飲んでないんだけど。」
「お前に酔いそう。」
「臭い台詞。そんなことをどの女性にも言っているの?」
「お前だからだよ。」
 圭太の頬も赤く染まっていた。柄にもなく緊張しているのだ。響子の体を抱き寄せると、響子もその体に手を伸ばした。
「響子。」
 温かくて、柔らかい女の温もりだった。真子とは違う女。こんな日が来ると思ってなかった。真子を忘れる日が来ると思ってなかったのだ。
 そして圭太はまた響子から体を離すと、また響子の唇にキスをする。
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