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子供
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夏でも朝晩は少し過ごしやすくなってきた。そんなとき、子供向けのメニューとしてバナナミルクが「clover」に新製品として売り出された。
今まで子供連れでは遠慮するような店だったのに、子供を連れていっても良いと思った主婦たちがこぞってやってくるようになる。
「美味しい。コレ、コンビニで売ってないの?」
コンビニと同じにされたら困るんだが。響子はそう思いながら、バナナを切ると牛乳とメープルシロップを入れてスイッチを入れる。
「評判いいね。バナナミルク。」
千鶴はそういって響子に話しかける。
「そうね。ちょっとしたこつもあるんだけど。」
「何?」
「何を言っているの。言えるわけないじゃない。コーヒーと違って、レシピさえわかればすぐに出来るんだから。」
「ぶー。」
千鶴はそういって頬を膨らませた。
「真昼も好きなのか?」
圭太はカップをおろして、そう聞くと千鶴は少し笑って言う。
「一度飲ませたからかな。また飲みたいって最近だだをこねだして。」
「連れて来いよ。」
「んー……。今ちょっとごたごたしてるしなぁ。」
「何かあったのか?」
元夫が、最近また顔を見せるようになったのだ。子供を望んでいなかったはずで、それでも子供の親だからと受け入れてはいるが、こう頻繁だと困る。
「何かありそうだな。」
「でしょ?たぶん向こうの親から言ってきたのよ。」
「親?」
「元夫の家って、結構資産家でね。夫もその企業に勤めているんだけど、まぁ……その企業の跡取りがね。」
夫は三人兄弟の真ん中だった。上の兄は、ヨーロッパを留学していたときに一緒になった女性と結婚したが、子供が全て女だという。そして弟は、結婚する気はないと言い放っているのだというのだ。
「結婚する気がない?」
「んー……こういうことをいって良いのかわからないけど。」
ちらっとキッチンをみる。真二郎は出てきそうにない。それを見て千鶴は話し始める。
「どうやらゲイみたいなのよ。」
「ゲイか……。それだと子供は出来ないな。」
「一緒に住んでいるのも男の人みたいだし、だから結婚しないって。」
一緒に住んでいるのは、響子と真二郎も一緒だ。だが二人は清い仲だという。だが圭太の心中は複雑だった。
「それだと、子供で男ってのは真昼君だけね。」
響子はコーヒー豆が入った瓶を閉じて、それをミルにセットする。そしてそれを潰していった。
「あっちに親権が欲しいんですって。真昼ももう夜泣き何かする年頃じゃないし、ある程度わかってきてるから、帝王学を学ばせるなら今だろうって。」
「くだらねぇな。子供は物じゃないだろうに。」
「そう思う?オーナーも。私も離す気はないし、夫とまた一緒になることはないと思うし。」
すると響子は潰し終わった豆をフィルターにセットして、千鶴を見る。
「でも千鶴だってずっと若い訳じゃないのよ。今はこことホステスをして生活をしているけれど、真昼君が大きくなったらもっとお金だってかかるでしょうに。」
「確かにその通りなんだよね……。」
「でもお前さ、男なんかすぐ捕まりそうだけど。」
「やーだ。出会いなんかないよ。オーナー。もらってくれる?」
「嫌。勘弁してよ。」
冗談混じりで言う言葉に、響子は少し呆れたようにポットを持った。すると奥のキッチンから真二郎が出てくる。
「にぎやかだね。はい。クレープが二つ。コーヒーはあがる?」
「もう少しね。」
クレープにはカットした桃やマンゴーの他に、生クリームやクッキーも乗っていた。コレも「clover」の人気メニューだった。
十七時になり、千鶴はそのまま更衣室へ向かう。このまま子供を迎えに行き、食事を作ってそのままクラブへ行くらしい。帰ってくるのは深夜になる。その間子供は同居している両親が見るらしい。
千鶴はまだ二十四だ。その両親もまだ五十代でまだ若いが、日々大きくなっていく子供に手を焼いているらしい。
「千鶴の子供って何歳だっけ。」
カップを下げてきた圭太が響子に聞くと、響子は豆を取り出して少し首を傾げる。
「三歳だったかな。」
「まだ子供なのに、帝王学か。」
「それくらいからするんでしょう?あぁいう人たちは、小さい頃からそれなりの教育をするのよ。上に立つものとしてね。」
そのときキッチンから真二郎が出てきた。手には焼き菓子の詰め合わせた箱がある。
「三千円くらいって、コレくらいで良いかな。」
「いいんじゃねぇ。お客様に見せてくるわ。」
圭太はそういってその箱を受け取ると、テーブルにいる客に近づいた。
「お客様。焼き菓子の詰め合わせです。こういう感じでいかがでしょうか。」
きっちりした紺のスーツを着ていて、暑くないのだろうかと思うような男。年齢的には圭太と同じくらいだろうか。
「……。」
真二郎はその姿を見て少し笑う。その様子に響子は、真二郎に声をかけた。
「見るだけよ。」
「ばれた?可愛い系より、綺麗系の方が好きでさ。」
「ったく……。見境がないゲイね。」
ミルに豆ををセットすると、それを潰し始めた。がりがりと音を立てる。そのとき、更衣室から千鶴が出てきた。Tシャツとジーパンという千鶴もあまり身を飾る方ではないが、それでも響子に比べると女性らしさが見える。
「あぁ、そうだ。真二郎。千円くらいで焼き菓子詰めてくれないかな。」
「ん?良いよ。マドレーヌとフィナンシェとかで良いかな。」
「良いよ。今日、同伴なんだ。」
「おみやげ?千円くらいで良いの?」
「あまり大きな物を持って行くと邪魔じゃない。」
そのとき、圭太が接客をしていた男が立ち上がる。
「千鶴。」
千鶴もその男を見た。それと同時に、後ずさりする。
「あ……。」
「ここにいると聞いた。真昼をこっちに返して欲しい。」
「やぁよ。親権はこっちにあるじゃない。」
その言葉に響子と真二郎は顔を見合わせた。おそらくこの男が千鶴の元夫なのだ。
「うちの都合で悪いが、男の子供が欲しい。跡継ぎになるからな。」
「……殴って、いうことを聞かせるのが跡継ぎなの?そういうのが嫌だから、別れたのに。」
「生意気な女だ。力ずくでもいうことを聞かせようか。」
カウンターから響子がでると、千鶴をカウンターの中に入れる。そして真二郎がかばうようにキッチンへ連れて行った。
「店内で暴力はやめてください。」
圭太がそういって、カウンターの中に入っていこうとした男を引き留める。
「こっちの都合だ。わがままな女に子供を任せられない。」
すると響子がカウンターから出てきて、男を見上げる。
「わがままなのはそっちでしょう。殴って女をいうことを聞かせるなんて、最低ね。」
「何だと。この生意気な……。」
「子供がそのまま大人になったみたいね。他人が言うことを聞かないから、力で押さえつけようなんてきち○いに刃物とはよく言ったものだわ。」
そのとき、店内に音が響いた。男が響子の顔をはたいたのだ。
「てめぇ!」
圭太が向かっていこうとしたが、響子はそれを止める。
「やめて。」
「響子。」
するとカウンターの奥で、真二郎が電話の受話器を取っていた。
「もしもし、警察ですか。男が店内で暴れていて……。」
その言葉に男は、舌打ちをするとそのまま出て行ってしまった。
「二度とくんな。」
キッチンから、千鶴が顔を出す。そして響子に近寄った。
「響子。ごめん。殴らせちゃった。」
「良いの。あなたが無事で良かった。」
すると圭太は呆れたように言う。
「お前は無事じゃねぇだろ?顔、冷やせよ。」
「そうね。怒りにまかせて殴るなんて、最低な男ね。別れて正解。」
響子はそういってカウンターの中に入っていく。すると真二郎が濡らしたタオルを持ってきた。
「よく冷やして。」
「うん。」
「口は切れてない?」
「そこまでではなかったみたい。」
平然としている。こうして二人でやってきたのだろう。圭太には付け入る隙がなさそうだった。
今まで子供連れでは遠慮するような店だったのに、子供を連れていっても良いと思った主婦たちがこぞってやってくるようになる。
「美味しい。コレ、コンビニで売ってないの?」
コンビニと同じにされたら困るんだが。響子はそう思いながら、バナナを切ると牛乳とメープルシロップを入れてスイッチを入れる。
「評判いいね。バナナミルク。」
千鶴はそういって響子に話しかける。
「そうね。ちょっとしたこつもあるんだけど。」
「何?」
「何を言っているの。言えるわけないじゃない。コーヒーと違って、レシピさえわかればすぐに出来るんだから。」
「ぶー。」
千鶴はそういって頬を膨らませた。
「真昼も好きなのか?」
圭太はカップをおろして、そう聞くと千鶴は少し笑って言う。
「一度飲ませたからかな。また飲みたいって最近だだをこねだして。」
「連れて来いよ。」
「んー……。今ちょっとごたごたしてるしなぁ。」
「何かあったのか?」
元夫が、最近また顔を見せるようになったのだ。子供を望んでいなかったはずで、それでも子供の親だからと受け入れてはいるが、こう頻繁だと困る。
「何かありそうだな。」
「でしょ?たぶん向こうの親から言ってきたのよ。」
「親?」
「元夫の家って、結構資産家でね。夫もその企業に勤めているんだけど、まぁ……その企業の跡取りがね。」
夫は三人兄弟の真ん中だった。上の兄は、ヨーロッパを留学していたときに一緒になった女性と結婚したが、子供が全て女だという。そして弟は、結婚する気はないと言い放っているのだというのだ。
「結婚する気がない?」
「んー……こういうことをいって良いのかわからないけど。」
ちらっとキッチンをみる。真二郎は出てきそうにない。それを見て千鶴は話し始める。
「どうやらゲイみたいなのよ。」
「ゲイか……。それだと子供は出来ないな。」
「一緒に住んでいるのも男の人みたいだし、だから結婚しないって。」
一緒に住んでいるのは、響子と真二郎も一緒だ。だが二人は清い仲だという。だが圭太の心中は複雑だった。
「それだと、子供で男ってのは真昼君だけね。」
響子はコーヒー豆が入った瓶を閉じて、それをミルにセットする。そしてそれを潰していった。
「あっちに親権が欲しいんですって。真昼ももう夜泣き何かする年頃じゃないし、ある程度わかってきてるから、帝王学を学ばせるなら今だろうって。」
「くだらねぇな。子供は物じゃないだろうに。」
「そう思う?オーナーも。私も離す気はないし、夫とまた一緒になることはないと思うし。」
すると響子は潰し終わった豆をフィルターにセットして、千鶴を見る。
「でも千鶴だってずっと若い訳じゃないのよ。今はこことホステスをして生活をしているけれど、真昼君が大きくなったらもっとお金だってかかるでしょうに。」
「確かにその通りなんだよね……。」
「でもお前さ、男なんかすぐ捕まりそうだけど。」
「やーだ。出会いなんかないよ。オーナー。もらってくれる?」
「嫌。勘弁してよ。」
冗談混じりで言う言葉に、響子は少し呆れたようにポットを持った。すると奥のキッチンから真二郎が出てくる。
「にぎやかだね。はい。クレープが二つ。コーヒーはあがる?」
「もう少しね。」
クレープにはカットした桃やマンゴーの他に、生クリームやクッキーも乗っていた。コレも「clover」の人気メニューだった。
十七時になり、千鶴はそのまま更衣室へ向かう。このまま子供を迎えに行き、食事を作ってそのままクラブへ行くらしい。帰ってくるのは深夜になる。その間子供は同居している両親が見るらしい。
千鶴はまだ二十四だ。その両親もまだ五十代でまだ若いが、日々大きくなっていく子供に手を焼いているらしい。
「千鶴の子供って何歳だっけ。」
カップを下げてきた圭太が響子に聞くと、響子は豆を取り出して少し首を傾げる。
「三歳だったかな。」
「まだ子供なのに、帝王学か。」
「それくらいからするんでしょう?あぁいう人たちは、小さい頃からそれなりの教育をするのよ。上に立つものとしてね。」
そのときキッチンから真二郎が出てきた。手には焼き菓子の詰め合わせた箱がある。
「三千円くらいって、コレくらいで良いかな。」
「いいんじゃねぇ。お客様に見せてくるわ。」
圭太はそういってその箱を受け取ると、テーブルにいる客に近づいた。
「お客様。焼き菓子の詰め合わせです。こういう感じでいかがでしょうか。」
きっちりした紺のスーツを着ていて、暑くないのだろうかと思うような男。年齢的には圭太と同じくらいだろうか。
「……。」
真二郎はその姿を見て少し笑う。その様子に響子は、真二郎に声をかけた。
「見るだけよ。」
「ばれた?可愛い系より、綺麗系の方が好きでさ。」
「ったく……。見境がないゲイね。」
ミルに豆ををセットすると、それを潰し始めた。がりがりと音を立てる。そのとき、更衣室から千鶴が出てきた。Tシャツとジーパンという千鶴もあまり身を飾る方ではないが、それでも響子に比べると女性らしさが見える。
「あぁ、そうだ。真二郎。千円くらいで焼き菓子詰めてくれないかな。」
「ん?良いよ。マドレーヌとフィナンシェとかで良いかな。」
「良いよ。今日、同伴なんだ。」
「おみやげ?千円くらいで良いの?」
「あまり大きな物を持って行くと邪魔じゃない。」
そのとき、圭太が接客をしていた男が立ち上がる。
「千鶴。」
千鶴もその男を見た。それと同時に、後ずさりする。
「あ……。」
「ここにいると聞いた。真昼をこっちに返して欲しい。」
「やぁよ。親権はこっちにあるじゃない。」
その言葉に響子と真二郎は顔を見合わせた。おそらくこの男が千鶴の元夫なのだ。
「うちの都合で悪いが、男の子供が欲しい。跡継ぎになるからな。」
「……殴って、いうことを聞かせるのが跡継ぎなの?そういうのが嫌だから、別れたのに。」
「生意気な女だ。力ずくでもいうことを聞かせようか。」
カウンターから響子がでると、千鶴をカウンターの中に入れる。そして真二郎がかばうようにキッチンへ連れて行った。
「店内で暴力はやめてください。」
圭太がそういって、カウンターの中に入っていこうとした男を引き留める。
「こっちの都合だ。わがままな女に子供を任せられない。」
すると響子がカウンターから出てきて、男を見上げる。
「わがままなのはそっちでしょう。殴って女をいうことを聞かせるなんて、最低ね。」
「何だと。この生意気な……。」
「子供がそのまま大人になったみたいね。他人が言うことを聞かないから、力で押さえつけようなんてきち○いに刃物とはよく言ったものだわ。」
そのとき、店内に音が響いた。男が響子の顔をはたいたのだ。
「てめぇ!」
圭太が向かっていこうとしたが、響子はそれを止める。
「やめて。」
「響子。」
するとカウンターの奥で、真二郎が電話の受話器を取っていた。
「もしもし、警察ですか。男が店内で暴れていて……。」
その言葉に男は、舌打ちをするとそのまま出て行ってしまった。
「二度とくんな。」
キッチンから、千鶴が顔を出す。そして響子に近寄った。
「響子。ごめん。殴らせちゃった。」
「良いの。あなたが無事で良かった。」
すると圭太は呆れたように言う。
「お前は無事じゃねぇだろ?顔、冷やせよ。」
「そうね。怒りにまかせて殴るなんて、最低な男ね。別れて正解。」
響子はそういってカウンターの中に入っていく。すると真二郎が濡らしたタオルを持ってきた。
「よく冷やして。」
「うん。」
「口は切れてない?」
「そこまでではなかったみたい。」
平然としている。こうして二人でやってきたのだろう。圭太には付け入る隙がなさそうだった。
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