彷徨いたどり着いた先

神崎

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映画

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 映画を見るためにこの町にきたのだ。だから二人ともまた電車に乗らないといけない。だがその駅を見て驚いた。
 どうやら電車で何かトラブルがあったらしい。遅延していて、乗るはずだった電車がこない人が溢れていた。
「すごいねぇ。電車乗れるかな。」
 路線は一緒だが、電車の載る方向は違う。響子はその人波を見ながら、自分の電車のある改札口を見ていた。
「お前流されるぞ。ほら。こっち。」
 圭太はそういって響子の手を握る。すると思った以上に手荒れをしている手だった。がさっとした感触が伝わってくる。
「どさくさに紛れて……。」
「いいから握られてろよ。はぐれる気か?」
 そのとき響子の頭の中に昔の記憶がよみがえった。手を握られて、それをふりほどけない。男の力を実感したときだった。
「……握んなくてもいいから。」
 そういって手を振り払う。だがすぐに人波に飲まれそうだった。すると圭太は今度。肩に手を置いてくる。
「何……。」
 腕で抱きしめられているようだ。これは普通の行為なのだ。わかっているのに、どうしても意識してしまう。
「いいからじっとしてろよ。」
 そのとき後ろから声が聞こえた。
「おっさん!どさくさに紛れて何してんだよ!」
 女性の声だった。わっと声がする。そしてすぐに駅員が駆け寄ってきた。
「痴漢だろ。」
「……。」
「お前もされないとは限らないんだから気をつけろよ。」
「それでこれ?」
「他に何があるんだよ。お前みたいな色気もないような女……って。何するんだよ。」
 その方を抱いている手を思いっきりつねったのだ。
「電車、乗れるかなぁ。」
「お前なぁ。」
「オーナーこそ痴漢に間違えられ得ないようにしてよね。」
 そうは言ったがどきどきする。肩に置かれている手が熱い。頬にまで熱さが伝わるようだった。
 それから少しずつ進んでいき、やっとホームにまでやってきた。ここからは一人なのだから、流されないようにしないと。そう思っていたのに、やってきた電車の人波が、二人を押し流す。
 流されたように電車に乗り、ドアが閉まった。
「あ……。」
 どうやら響子が載る方向とは別の電車に乗ってしまった。しかも身動きがとれない。圭太の体に寄り添っているような形になってしまったのだ。
「お前、今日、タクシーで帰れよ。」
 耳元でそう囁かれた。それだけで顔が赤くなるようだった。
「わかってる。」
 わざと顔を見なかった。気持ちが伝わりそうだったから。
 そして圭太も冷静ではいられなかった。思ったよりも柔らかい体だ。それがぴたっとくっついてきているのだから、これで冷静になれる男が居たら紹介して欲しいと思う。
 普段男勝りなのに、妙なところで女が見える。柔らかさだけではなく温かさも伝わってくるし、コーヒーの匂いしかしないと思っていたのだがちゃんと女の香りもする。真子とは違う。女の匂いだった。
 がたんと電車が揺れて、思わず響子の体に手を伸ばした。すると響子もその体に手を伸ばしてくる。
「ご……ごめん。」
 慌てて手を離したが、響子はそのまま体を寄せ続けた。
「どうしたんだよ。」
「……黙ってこのままにして。」
 駄目だ。これ以上顔を見れない。恥ずかしくてどうにかなりそうだった。

 電車を降りるとお茶を買って、響子は一息ついていた。タクシーは駅前に一台くらいあると思っていたのだが、どうやら同じような人が多いらしく今夜に限って一台も停まっていない。
「待つってよ。」
 電話を終えた圭太が響子にそういうと、響子はため息をついていった。
「このまま待つわ。」
「何時になるかわからないぞ。」
「そんなに何時間も待たないでしょ?」
 ナンパもヤリモクもわからない女が、こんなところで一人で居ればすぐに声をかけられるだろう。それが嫌だった。
「俺も待つよ。」
「オーナーは帰っていいよ。家、近いんでしょ?」
「そりゃ、そうだけどさ。」
「これ以上迷惑かけれないし。」
「迷惑かけてたって思ってたのか。」
「そりゃそうでしょ?」
「だったらもう少し考えろよ。」
「何を?」
 すると圭太がため息をついていった。
「変なニュースも見たんだろ?それに今日だって変な男にほいほいついて行こうとして、真二郎も千鶴も相当心配してたんだぞ。」
「……そうだったの……。」
「ったく……。いい歳してそんなこともわかんねぇのか。」
 ついきつい口調になってしまった。嫌われるかな。そう思いながら響子の方をみる。すると響子は少しため息をついていった。
「いつも真二郎から言われてたわ。危機管理がなってないって。」
 お茶をまた一口飲んで、響子はちらっと圭太をみる。
「……オーナー。迷惑ついでにタクシー来るまで付き合ってくれないかしら。」
 すると圭太はくしゃくしゃと響子の頭をなでる。そんなことで嫌わないのだ。
「何よ。」
「俺のうち。来るか?」
「オーナーの家?」
「そう。近いし、ここにいたら蚊の餌だろ?」
 確かに夜になって光があるここに羽虫やら何やらが相当居るのだ。
「行っていいの?」
「別にいいだろ。何もねぇけど。そのかわり、そのパンフレット家でじっくり見せろよ。」
「映画、結局気に入ってるじゃない。」
「俺、その悪役の人、結構好きなんだよ。今やってる時代劇録画してあるし。」
「見る暇があるの?」
「休みの時にばーっと見るか。ピザでも食いながら。」
「優雅な休日ね。」
「お前休みの日は何してんの?」
「……講習会とか、あと……評判のいい喫茶店のコーヒーを飲みに行ったり。」
「仕事ばっかしてんな。たまにはぱーっと海でも行かないのか。」
「何で海なの?」
「水着見たいし。」
「変態。」
 悪態をつきながら部屋へ向かう。何も期待していないわけではない。ただ、響子にそんな感情を持つと思っていなかった。
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