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死に神 の 恋
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仕事の打ち合わせが終わり、私は会社に戻る。ちょうど、昼休憩の時間だ。携帯電話を見ると、伊勢さんからの着信が入っていたことに気がついた。
「もしもし。」
電話を折り返すと、伊勢さんはすぐに出た。
「仕事中だっただろう。大丈夫だろうか。」
「えぇ。大丈夫です。今休憩中ですから。伊勢さんこそ、今起きたのでは?」
「いや、1時間前くらいに起きた。」
「そうでしたか。」
「今日、来てくれるのだろう?」
そうだった。それを思い出し、私は全身が赤くなる感覚に襲われた。
「はい。」
「何時に仕事が終わるだろうか。」
「定時なら17時ですが、だいたい19時くらいです。」
「わかった。ではそれくらいに、君の会社の向かいの喫茶店で待ち合わせよう。」
「…え?」
「いつか行った店のケーキをテイクアウトしたいのでね。君にも選んで欲しいのだよ。」
「あぁ…わかりました。」
甘いモノに目がない伊勢さんらしい言葉だ。
「フフ…。そう言う言い訳なら大丈夫だろうか。」
「言い訳?」
「本来の理由を言うには、明るすぎるのでね。」
ますます顔が赤くなるようだ。
「なるたけ早く終わらせます。」
「待っている。」
電話を切ると、頬が赤くなっているのがわかる。周りに人がいなくて良かった。みんなお昼休憩に行っているのだ。ため息をついて、私はデスクに座り込んだ。そしてコンビニで買ったパンとお茶、サラダを取り出す。
その後、仕事を早めに終わらせると、奇跡的に定時で上がることが出来た。
「珍しいね。佐藤さんが定時で上がれるなんて。」
「まだ校了まで時間がありますからね。こんなモノでしょうか。それでなくても残業が多すぎると、この間上から言われましたし。」
「まぁ、佐藤さんは仕方ないかもしれないね。「東雲」先生のこともあるし。」
「…。」
先輩に別れを告げ、エレベーターに乗り込んだ。普段ならそれほどいないエレベーターだが、今日は数人の人が乗っている。
私は携帯電話を取り出し、伊勢さんにメールをした。「定時で上がれました」と。
そしてエレベーターは1階にたどり着く。会社を出ると、みんな一斉に駅の方へ向かっているようだった。この近辺はビジネス街なので、みんな電車かバスで通勤しているのだろう。いつもなら私もその中の一人になるはずだった。
しかし今日は違う。向かいにある喫茶店のドアを開いた。そして前にも伊勢と座っていたあの席に座り、コーヒーを頼んだ。
店内を見渡しても伊勢さんの姿はない。まだ来ていないのだろう。
私はバックの中から、携帯電話を取り出してそれを見る。するとメールが1件入っていた。
「17時30分頃にたどり着く。」
あと15分くらいだ。その間、私はバックから本を取りだした。それは桐の叔父さんである「中村仁」の本で「死神」という本だった。
内容は交通事故で両親を失った女性が、成長し、恋人を作るが、次々とその恋人たちは変死をする。まるで彼女自身が死に神のようだと思うそんな内容だった。
自分の姿がまるで映し出されたような内容だと思って、中村仁の本だったらいろいろ読んでいたが、これだけはどうしても読む気になれなかったのだ。しかし両親を殺した相手がやっと捕まったことにより、私はこの本を読む気になった。
すべては伊勢さんのお陰なのかもしれない。
「いつも君は本を読んでいるときはいい顔をしている。」
声をかけられ、私は視線を上げる。するといつの間にか向かい合わせに伊勢さんがいた。
「伊勢さん…いつの間に?」
「さっき来たばかりだ。あ、ワタシにもコーヒーをもらおうか。」
ウェイトレスに伊勢さんはそれを告げる。そして私が読んでいた本を手に取る。
「…「死に神」か。中村仁の本だ。」
「ずっと…読む気になれなかったけれど…やっと読めるようになったんです。」
「自分と重なるか。」
「えぇ。」
「心配することはない。」
コーヒーが運ばれてきて、伊勢さんはそれに砂糖やミルクを入れる。
「ワタシは君よりも先に死ぬかもしれないが、それはきっと寿命だ。」
「伊勢さん…。」
「歳の差がいくつあると思っている。もう世間ではワタシの年齢を中年というのだよ。」
「中年…。」
その言葉に思わず私は笑ってしまった。
「何がおかしい?」
「いいえ。伊勢さんが中年だなんて、少し可笑しくて。」
私の中年のイメージは、私の部署の部長みたいな人だ。風が吹いたら散っていくような薄い髪とでっぷりと太った体型。それが中年のイメージだ。
対して伊勢さんは太ってもいないし、どちらかというと筋肉質。髪も薄くなる気配はない。きちんと整えてられている髪型は、まるで50年代の映画から出てきたようだった。
「お父さんもそんな感じでしたね。」
「あぁ。しかしあの人はずっと努力をしていた。少しでも気を抜けばすぐ太るからと、甘いモノは好きなのだが週一度だけだと自分で決めていたし、食べた次の日はその分走ったりしていた。ワタシには真似が出来ない。」
伊勢さんのストイックさは、きっとお父さん譲りなのかもしれない。
不思議なものだ。ずっと…20年間、ずっと側にいたのに、まだ知らないことがある。その一つ一つを知ることがとても嬉しかった。
「もしもし。」
電話を折り返すと、伊勢さんはすぐに出た。
「仕事中だっただろう。大丈夫だろうか。」
「えぇ。大丈夫です。今休憩中ですから。伊勢さんこそ、今起きたのでは?」
「いや、1時間前くらいに起きた。」
「そうでしたか。」
「今日、来てくれるのだろう?」
そうだった。それを思い出し、私は全身が赤くなる感覚に襲われた。
「はい。」
「何時に仕事が終わるだろうか。」
「定時なら17時ですが、だいたい19時くらいです。」
「わかった。ではそれくらいに、君の会社の向かいの喫茶店で待ち合わせよう。」
「…え?」
「いつか行った店のケーキをテイクアウトしたいのでね。君にも選んで欲しいのだよ。」
「あぁ…わかりました。」
甘いモノに目がない伊勢さんらしい言葉だ。
「フフ…。そう言う言い訳なら大丈夫だろうか。」
「言い訳?」
「本来の理由を言うには、明るすぎるのでね。」
ますます顔が赤くなるようだ。
「なるたけ早く終わらせます。」
「待っている。」
電話を切ると、頬が赤くなっているのがわかる。周りに人がいなくて良かった。みんなお昼休憩に行っているのだ。ため息をついて、私はデスクに座り込んだ。そしてコンビニで買ったパンとお茶、サラダを取り出す。
その後、仕事を早めに終わらせると、奇跡的に定時で上がることが出来た。
「珍しいね。佐藤さんが定時で上がれるなんて。」
「まだ校了まで時間がありますからね。こんなモノでしょうか。それでなくても残業が多すぎると、この間上から言われましたし。」
「まぁ、佐藤さんは仕方ないかもしれないね。「東雲」先生のこともあるし。」
「…。」
先輩に別れを告げ、エレベーターに乗り込んだ。普段ならそれほどいないエレベーターだが、今日は数人の人が乗っている。
私は携帯電話を取り出し、伊勢さんにメールをした。「定時で上がれました」と。
そしてエレベーターは1階にたどり着く。会社を出ると、みんな一斉に駅の方へ向かっているようだった。この近辺はビジネス街なので、みんな電車かバスで通勤しているのだろう。いつもなら私もその中の一人になるはずだった。
しかし今日は違う。向かいにある喫茶店のドアを開いた。そして前にも伊勢と座っていたあの席に座り、コーヒーを頼んだ。
店内を見渡しても伊勢さんの姿はない。まだ来ていないのだろう。
私はバックの中から、携帯電話を取り出してそれを見る。するとメールが1件入っていた。
「17時30分頃にたどり着く。」
あと15分くらいだ。その間、私はバックから本を取りだした。それは桐の叔父さんである「中村仁」の本で「死神」という本だった。
内容は交通事故で両親を失った女性が、成長し、恋人を作るが、次々とその恋人たちは変死をする。まるで彼女自身が死に神のようだと思うそんな内容だった。
自分の姿がまるで映し出されたような内容だと思って、中村仁の本だったらいろいろ読んでいたが、これだけはどうしても読む気になれなかったのだ。しかし両親を殺した相手がやっと捕まったことにより、私はこの本を読む気になった。
すべては伊勢さんのお陰なのかもしれない。
「いつも君は本を読んでいるときはいい顔をしている。」
声をかけられ、私は視線を上げる。するといつの間にか向かい合わせに伊勢さんがいた。
「伊勢さん…いつの間に?」
「さっき来たばかりだ。あ、ワタシにもコーヒーをもらおうか。」
ウェイトレスに伊勢さんはそれを告げる。そして私が読んでいた本を手に取る。
「…「死に神」か。中村仁の本だ。」
「ずっと…読む気になれなかったけれど…やっと読めるようになったんです。」
「自分と重なるか。」
「えぇ。」
「心配することはない。」
コーヒーが運ばれてきて、伊勢さんはそれに砂糖やミルクを入れる。
「ワタシは君よりも先に死ぬかもしれないが、それはきっと寿命だ。」
「伊勢さん…。」
「歳の差がいくつあると思っている。もう世間ではワタシの年齢を中年というのだよ。」
「中年…。」
その言葉に思わず私は笑ってしまった。
「何がおかしい?」
「いいえ。伊勢さんが中年だなんて、少し可笑しくて。」
私の中年のイメージは、私の部署の部長みたいな人だ。風が吹いたら散っていくような薄い髪とでっぷりと太った体型。それが中年のイメージだ。
対して伊勢さんは太ってもいないし、どちらかというと筋肉質。髪も薄くなる気配はない。きちんと整えてられている髪型は、まるで50年代の映画から出てきたようだった。
「お父さんもそんな感じでしたね。」
「あぁ。しかしあの人はずっと努力をしていた。少しでも気を抜けばすぐ太るからと、甘いモノは好きなのだが週一度だけだと自分で決めていたし、食べた次の日はその分走ったりしていた。ワタシには真似が出来ない。」
伊勢さんのストイックさは、きっとお父さん譲りなのかもしれない。
不思議なものだ。ずっと…20年間、ずっと側にいたのに、まだ知らないことがある。その一つ一つを知ることがとても嬉しかった。
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