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黒いショールからは血の匂いがする。そして累からも血の匂いがした。彩はその匂いが好きだと言っていた。聞いたとき変態だねと鼻で笑ったが、彼女からそれが香るだけで確かに押し倒したくなる。
自身もヒューマノイドならなおさらなのかもしれない。
真は累の手に触れる。そこも血や錆で汚れていた。
「累。忘れさせてやろうか。」
「……。」
彼女は何も言わなかった。だが拒否もしない。彼はその握った手の力を強めると、それを引き寄せた。すると体が素直に彼の体に倒れ込む。
「累。」
愛玩用に作られたヒューマノイドを相手したことがある。奴らはキスをするだけでスイッチが入り、あとは失神するまでセックスをするのだ。幻のように。
そして彼女とは二度キスをした。そのいずれもキスをしたあと彼を拒否している。それは彼女が持つ精神力がそうさせたのだ。
だが今の彼女は普通ではない。彼に寄りかかり、その弱さをさらけ出そうとしている。今がチャンスだ。
少し彼女を離す。そして彼女の顎を持ち上げた。すると彼女はまだ涙のたまった潤んだ瞳で彼を見上げる。
「忘れられますか?」
「忘れたい?」
「忘れて……どこかへ行きたいです。藍のいないところへ。」
藍を忘れたいために自分を求めるのだ。彼は内心微笑んでいた。こんなにうまくいくとは思わなかった。
藍に第四兵団長が街で女や男を買っていると告げたのも、それが鼠が狙っていることも、全て彼が告げたのだ。そうすれば自然と彼女は体を開く。
彼は持ち上げた顎の指をはずし、流れている涙を拭った。そして少しずつ唇に近づいていくと吐息が徐々にかかってくる。もうあと何センチだった。その時彼女はふっと首を下げる。
「どうしたの?」
「……。」
「怖じ気付いた?」
「いいえ。でも私……これでいいのかって……。」
「累。」
すると彼は彼女の手を握ると、自分の胸に手をおく。すると鼓動が手から伝わってきた。
「伝わる?」
「はい。」
「僕だって驚いてるよ。感情なんかいれていないって言われてたのに、こんなに鼓動が激しい。ほら。君から触れられただけで。」
「真さん。あなたは本当にヒューマノイドなんですか。」
その言葉に彼は少し動揺する。
「人間にしか見えない。」
「僕が?そう言う風にしているだけじゃないの?」
「いいえ。感情も、力も、何もかもがヒューマノイドより劣る。あなたは少し力があるだけの人間にしか見えない。誰なんですか。」
すると彼はふっとため息を付くと、何も言わずに彼女の唇に軽くキスをする。
「……何も感じない?」
「えぇ。」
「でも最初の時はあんなに感じていたのに?」
「最初だけでした。あとは……何も……。」
「これでも?」
すると彼は唇にまた唇を重ねる。そして唇を割ると、舌を差し込んだ。彼女の口内に舌をいれて、そしてそこを舐める。しかし彼女からは何もしない。声すら上げない。
やがて唇を離すと、彼女は少しうつむいたが彼を押し離す。その表情には嫌悪感しかない。
「累。」
首を横に振り、彼女は彼を拒否した。
「違う。」
「セックスしてみようよ。そしたら……。」
「あなたとはしません。」
きっぱりという彼女は、銃を取り出して彼に向ける。
「出て行って下さい。」
ぐっと唇をかむ。彼女はそれだけ言うと立ち上がり、バスルームへ向かおうとした。その時部屋の電気がぱっとつく。少し驚いて玄関の方向をみると、そこには彩の姿があった。
「彩……。」
すると彩は累に見向きもしないまま、真の方へ向かう。そして胸ぐらを掴んだ。
「離せ!」
表情を変えずに彼は真を投げ飛ばす。派手な音を立てて、彼は倒れ込んだ。そして彩は彼に乗りかかるように座り込んだ。
「わかっただろう?お前に累の相手は出来ない。」
「馬鹿にしやがって!」
拳を握り、彩に振り下ろそうとした。しかし彩は軽くそれをかわし、彼の体をひっくり返すとその腕をひねりあげた。
「痛い!」
捻り上げた手と逆の手で彼は真のシャツをまくり上げる。
「こんなモノを入れても、累はお前に振り向くことはないってな。」
そして初めて彩は累の方をみる。
「累。こいつを殺せ。」
「え……?」
「赤の兵第三隊隊長。真だ。」
その言葉に彼女は少し黙り、ナイフを取り出した。そして真に振りかざす。
「累。やめて。累……。」
その累の表情は出会ったときと同じだった。表情はなく、まるで大きな魚を捌くように彼にナイフを突き立てようとしている。
「やめろ!」
すると彼女はその床にナイフを突き立てた。
「……どうした。殺さないのか。」
「部屋が汚れます。掃除はしてくれないでしょう?」
「刃向かうのか。」
「泳がせもしません。ここでは殺さないといっただけです。処理もしないといけませんし。」
すると彩は少し笑う。そして彼女を見上げる。
「その通りだ。だったらどうする?」
その言葉に彼女はピアノ線を取り出し、その捻り上げている手ともう一つの手を縛り上げた。そして体も腕ごと縛り上げる。足首も縛り上げた。口には紐を取り出し、口を塞ぐ。
「……よし。」
これで彩が避けても逃げられない。そして彼女は真を抱え上げると、部屋を出て階段を下りていった。
真をリアカーに乗せると、雨の日にかぶせるシートをかぶせた。
「……どこかで殺す?」
「はい。いいところがありますから。」
彼女はそう言ってリアカーを引く。まるで食材を運ぶように。
自身もヒューマノイドならなおさらなのかもしれない。
真は累の手に触れる。そこも血や錆で汚れていた。
「累。忘れさせてやろうか。」
「……。」
彼女は何も言わなかった。だが拒否もしない。彼はその握った手の力を強めると、それを引き寄せた。すると体が素直に彼の体に倒れ込む。
「累。」
愛玩用に作られたヒューマノイドを相手したことがある。奴らはキスをするだけでスイッチが入り、あとは失神するまでセックスをするのだ。幻のように。
そして彼女とは二度キスをした。そのいずれもキスをしたあと彼を拒否している。それは彼女が持つ精神力がそうさせたのだ。
だが今の彼女は普通ではない。彼に寄りかかり、その弱さをさらけ出そうとしている。今がチャンスだ。
少し彼女を離す。そして彼女の顎を持ち上げた。すると彼女はまだ涙のたまった潤んだ瞳で彼を見上げる。
「忘れられますか?」
「忘れたい?」
「忘れて……どこかへ行きたいです。藍のいないところへ。」
藍を忘れたいために自分を求めるのだ。彼は内心微笑んでいた。こんなにうまくいくとは思わなかった。
藍に第四兵団長が街で女や男を買っていると告げたのも、それが鼠が狙っていることも、全て彼が告げたのだ。そうすれば自然と彼女は体を開く。
彼は持ち上げた顎の指をはずし、流れている涙を拭った。そして少しずつ唇に近づいていくと吐息が徐々にかかってくる。もうあと何センチだった。その時彼女はふっと首を下げる。
「どうしたの?」
「……。」
「怖じ気付いた?」
「いいえ。でも私……これでいいのかって……。」
「累。」
すると彼は彼女の手を握ると、自分の胸に手をおく。すると鼓動が手から伝わってきた。
「伝わる?」
「はい。」
「僕だって驚いてるよ。感情なんかいれていないって言われてたのに、こんなに鼓動が激しい。ほら。君から触れられただけで。」
「真さん。あなたは本当にヒューマノイドなんですか。」
その言葉に彼は少し動揺する。
「人間にしか見えない。」
「僕が?そう言う風にしているだけじゃないの?」
「いいえ。感情も、力も、何もかもがヒューマノイドより劣る。あなたは少し力があるだけの人間にしか見えない。誰なんですか。」
すると彼はふっとため息を付くと、何も言わずに彼女の唇に軽くキスをする。
「……何も感じない?」
「えぇ。」
「でも最初の時はあんなに感じていたのに?」
「最初だけでした。あとは……何も……。」
「これでも?」
すると彼は唇にまた唇を重ねる。そして唇を割ると、舌を差し込んだ。彼女の口内に舌をいれて、そしてそこを舐める。しかし彼女からは何もしない。声すら上げない。
やがて唇を離すと、彼女は少しうつむいたが彼を押し離す。その表情には嫌悪感しかない。
「累。」
首を横に振り、彼女は彼を拒否した。
「違う。」
「セックスしてみようよ。そしたら……。」
「あなたとはしません。」
きっぱりという彼女は、銃を取り出して彼に向ける。
「出て行って下さい。」
ぐっと唇をかむ。彼女はそれだけ言うと立ち上がり、バスルームへ向かおうとした。その時部屋の電気がぱっとつく。少し驚いて玄関の方向をみると、そこには彩の姿があった。
「彩……。」
すると彩は累に見向きもしないまま、真の方へ向かう。そして胸ぐらを掴んだ。
「離せ!」
表情を変えずに彼は真を投げ飛ばす。派手な音を立てて、彼は倒れ込んだ。そして彩は彼に乗りかかるように座り込んだ。
「わかっただろう?お前に累の相手は出来ない。」
「馬鹿にしやがって!」
拳を握り、彩に振り下ろそうとした。しかし彩は軽くそれをかわし、彼の体をひっくり返すとその腕をひねりあげた。
「痛い!」
捻り上げた手と逆の手で彼は真のシャツをまくり上げる。
「こんなモノを入れても、累はお前に振り向くことはないってな。」
そして初めて彩は累の方をみる。
「累。こいつを殺せ。」
「え……?」
「赤の兵第三隊隊長。真だ。」
その言葉に彼女は少し黙り、ナイフを取り出した。そして真に振りかざす。
「累。やめて。累……。」
その累の表情は出会ったときと同じだった。表情はなく、まるで大きな魚を捌くように彼にナイフを突き立てようとしている。
「やめろ!」
すると彼女はその床にナイフを突き立てた。
「……どうした。殺さないのか。」
「部屋が汚れます。掃除はしてくれないでしょう?」
「刃向かうのか。」
「泳がせもしません。ここでは殺さないといっただけです。処理もしないといけませんし。」
すると彩は少し笑う。そして彼女を見上げる。
「その通りだ。だったらどうする?」
その言葉に彼女はピアノ線を取り出し、その捻り上げている手ともう一つの手を縛り上げた。そして体も腕ごと縛り上げる。足首も縛り上げた。口には紐を取り出し、口を塞ぐ。
「……よし。」
これで彩が避けても逃げられない。そして彼女は真を抱え上げると、部屋を出て階段を下りていった。
真をリアカーに乗せると、雨の日にかぶせるシートをかぶせた。
「……どこかで殺す?」
「はい。いいところがありますから。」
彼女はそう言ってリアカーを引く。まるで食材を運ぶように。
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