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第19話 ひとりぼっちで寂しげな幼女がいたら仲間にするのが男ってもんでしょ!
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幼女の目が赤く光り、髪の毛は逆立っている。
プラチナゴーレムですら一撃で瀕死に追いやる魔法、ホワイトスパーク。
生身の人間である俺がまとも食らったら、冗談抜きで灰になってしまうだろう。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 一言だけ言わせてくれないか!?」
口を固く結んだ幼女は無言で俺を睨みつけていたが、しばらくしてふっと肩の力を抜いた。同時に身にまとっていたオーラが解かれる。
「ふん、ひとことだけだからね! これもえーゆーのじひだもん!」
うん、やっぱり彼女は素直でいい子だ。
もしこれがイライザだったら……考えただけでもゾッとするな。
「ありがとう。いや、言いたい事というのはね、君、本当に強いねってことだ」
「へ? あたしがつよいって?」
ポッと幼女の頬がピンクになる。
やっぱりちょろい。ちょろすぎる。
俺はここぞとばかりに続けた。
「目にも止まらないくらいのスピードに、一撃必殺の魔法もある。君みたいな強い人なんて生まれて初めてだよ。正直言って、すごく驚いてる」
「むふふふ。……って、べ、べつにあんたなんかにほめられたくないもん!!」
背中から小さな羽が出てきて、嬉しそうにパタパタしてる。
純真無垢な幼女を言葉巧みにだましているようで、多少の罪悪感はある。
だが別に嘘をついているわけでもないしな。
あまりの強さに驚いているのも本当だ。
さて、じゅうぶんに気分を良くしたところで、今度は情に訴えてみよう。
「君は勘違いしているようだけど、俺は魔王の手下なんかじゃないんだ」
「へっ? そ、そうなの?」
「ああ、むしろ魔王が復活して、ダンジョンを抜けられなくなって困っているんだよ……誰も助けてくれないからね……」
シュンと肩を落とすと、幼女もまた寂しそうに眉をひそめる。
うむ。泣き落としも有効……と。
「それほんとーなの?」
「ああ、本当だ。仕方なく第53層に家を建てて暮らしてる。ひとりぼっちでね」
「そう……。なんだかかわいそう……。って、あたしはだまされないもん! しょーこはあるの!? しょーこは!」
おっと。いきなり目が覚めたか。
ふふふ。ならば今度は楽しいことを想像させてやるっ!
「嘘だと思うなら実際に見てみるといい。歓迎するよ。みんなで一緒に食事でもしよう」
「わーい! いっしょにごはんっ!! ……って、ちがーう!! あやうくだまされるところだったわ。あんたなかなかやるわね」
警戒をあらわにする幼女。だがお尻から小さな尻尾が出てきて、羽と一緒に動いているから、本心ではかなりテンションが上がっているみたいだ。
「もし魔王の手下がやってきたら、俺たちは殺されてしまう。だから君みたいな最強の英雄に守ってほしい。頼む!」
「あたしがさいきょーのえーゆーっ……! むふふふふ!」
嬉しそうに小躍りした後、幼女は再びはっとなって俺を睨みつける。
……が、俺は確信していた。
彼女は完全に落ちている、と――。
「そ、そこまでいうならしかたないわね! こんかいだけだからね! これもえーゆーのじひよっ!」
幼女から殺気が完全に消えた。
やった! 成功だ!
「ありがとう。本当に心強いよ」
「か、かんちがいしないで! あ、あたしはあんたを見張ってるだけなんだから! べ、べつにいっしょにごはん食べたいとか、ぜんぜんっ思ってないんだからね!」
うん、これは絶対に飯に惹かれてるな。
あと、なんだかんだ言って、彼女もずっと一人でここにいて寂しかったんだと思う。俺だったら3日で気が狂う自信があるぞ。
こんな暗くて、ジメジメしていて、まるで深夜の墓場みたいな場所。
「ああ、それでもいいよ。俺はピートだ。よろしくな」
俺が手を差し出すと、彼女は恐る恐る小さな手で俺の人差し指をつかんだ。
「あ、あたしはピピ」
「ピピ。よろしく!」
「ふんっ! ……よ、よろしく」
はにかみながら顔を赤らめるピピ。さっきまでとは打って変わって普通の女の子っぽくて可愛らしい。
彼女が何者なのか、もっと知る必要はあるが、とりあえず一件落着だな。
いや、次はサンたちにも打ち解けてもらわなくちゃいけないか……。
さすがに瀕死のダメージを負わされた相手をすぐに信用しろ、といっても無理があるもんな。
まずは一緒に食事でもして、互いの警戒を解くところから始めるか。
「じゃあ、早速家に招待するよ!」
しかしここで一つ大きな問題が生じた。
残念そうに首を横に振ったピピがその場動こうとしなかったのだ。
「どうした? 嫌なのか」
「いやじゃない」
「じゃあ、どうして」
そう問いかけると、みるみるうちに彼女の大きな目に涙がいっぱいにたまった。
「あたしモンスターだから、ここをうごけないの!!」
なんとなくそんな予感はしていた。
だって数百年も幼女のままでいられるわけがないからな。
おおかた勇者マリウスが使役していたモンスターってところか。
マリウスは『鎖の封印』とやらをピピに守るよう指示したまま、自分は寿命か何かで死んじまったのだろうな。
なんだかすごくかわいそうになってきたぞ。
「もう一度確かめるぞ。ピピはモンスターなんだな?」
「うん……だからいっしょにごはんいけない……」
「大丈夫だ。俺に任せろ」
「へっ?」
一つだけ考えはある。
成功する保証なんてないが、やってみるしかないよな。
プラチナゴーレムですら一撃で瀕死に追いやる魔法、ホワイトスパーク。
生身の人間である俺がまとも食らったら、冗談抜きで灰になってしまうだろう。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 一言だけ言わせてくれないか!?」
口を固く結んだ幼女は無言で俺を睨みつけていたが、しばらくしてふっと肩の力を抜いた。同時に身にまとっていたオーラが解かれる。
「ふん、ひとことだけだからね! これもえーゆーのじひだもん!」
うん、やっぱり彼女は素直でいい子だ。
もしこれがイライザだったら……考えただけでもゾッとするな。
「ありがとう。いや、言いたい事というのはね、君、本当に強いねってことだ」
「へ? あたしがつよいって?」
ポッと幼女の頬がピンクになる。
やっぱりちょろい。ちょろすぎる。
俺はここぞとばかりに続けた。
「目にも止まらないくらいのスピードに、一撃必殺の魔法もある。君みたいな強い人なんて生まれて初めてだよ。正直言って、すごく驚いてる」
「むふふふ。……って、べ、べつにあんたなんかにほめられたくないもん!!」
背中から小さな羽が出てきて、嬉しそうにパタパタしてる。
純真無垢な幼女を言葉巧みにだましているようで、多少の罪悪感はある。
だが別に嘘をついているわけでもないしな。
あまりの強さに驚いているのも本当だ。
さて、じゅうぶんに気分を良くしたところで、今度は情に訴えてみよう。
「君は勘違いしているようだけど、俺は魔王の手下なんかじゃないんだ」
「へっ? そ、そうなの?」
「ああ、むしろ魔王が復活して、ダンジョンを抜けられなくなって困っているんだよ……誰も助けてくれないからね……」
シュンと肩を落とすと、幼女もまた寂しそうに眉をひそめる。
うむ。泣き落としも有効……と。
「それほんとーなの?」
「ああ、本当だ。仕方なく第53層に家を建てて暮らしてる。ひとりぼっちでね」
「そう……。なんだかかわいそう……。って、あたしはだまされないもん! しょーこはあるの!? しょーこは!」
おっと。いきなり目が覚めたか。
ふふふ。ならば今度は楽しいことを想像させてやるっ!
「嘘だと思うなら実際に見てみるといい。歓迎するよ。みんなで一緒に食事でもしよう」
「わーい! いっしょにごはんっ!! ……って、ちがーう!! あやうくだまされるところだったわ。あんたなかなかやるわね」
警戒をあらわにする幼女。だがお尻から小さな尻尾が出てきて、羽と一緒に動いているから、本心ではかなりテンションが上がっているみたいだ。
「もし魔王の手下がやってきたら、俺たちは殺されてしまう。だから君みたいな最強の英雄に守ってほしい。頼む!」
「あたしがさいきょーのえーゆーっ……! むふふふふ!」
嬉しそうに小躍りした後、幼女は再びはっとなって俺を睨みつける。
……が、俺は確信していた。
彼女は完全に落ちている、と――。
「そ、そこまでいうならしかたないわね! こんかいだけだからね! これもえーゆーのじひよっ!」
幼女から殺気が完全に消えた。
やった! 成功だ!
「ありがとう。本当に心強いよ」
「か、かんちがいしないで! あ、あたしはあんたを見張ってるだけなんだから! べ、べつにいっしょにごはん食べたいとか、ぜんぜんっ思ってないんだからね!」
うん、これは絶対に飯に惹かれてるな。
あと、なんだかんだ言って、彼女もずっと一人でここにいて寂しかったんだと思う。俺だったら3日で気が狂う自信があるぞ。
こんな暗くて、ジメジメしていて、まるで深夜の墓場みたいな場所。
「ああ、それでもいいよ。俺はピートだ。よろしくな」
俺が手を差し出すと、彼女は恐る恐る小さな手で俺の人差し指をつかんだ。
「あ、あたしはピピ」
「ピピ。よろしく!」
「ふんっ! ……よ、よろしく」
はにかみながら顔を赤らめるピピ。さっきまでとは打って変わって普通の女の子っぽくて可愛らしい。
彼女が何者なのか、もっと知る必要はあるが、とりあえず一件落着だな。
いや、次はサンたちにも打ち解けてもらわなくちゃいけないか……。
さすがに瀕死のダメージを負わされた相手をすぐに信用しろ、といっても無理があるもんな。
まずは一緒に食事でもして、互いの警戒を解くところから始めるか。
「じゃあ、早速家に招待するよ!」
しかしここで一つ大きな問題が生じた。
残念そうに首を横に振ったピピがその場動こうとしなかったのだ。
「どうした? 嫌なのか」
「いやじゃない」
「じゃあ、どうして」
そう問いかけると、みるみるうちに彼女の大きな目に涙がいっぱいにたまった。
「あたしモンスターだから、ここをうごけないの!!」
なんとなくそんな予感はしていた。
だって数百年も幼女のままでいられるわけがないからな。
おおかた勇者マリウスが使役していたモンスターってところか。
マリウスは『鎖の封印』とやらをピピに守るよう指示したまま、自分は寿命か何かで死んじまったのだろうな。
なんだかすごくかわいそうになってきたぞ。
「もう一度確かめるぞ。ピピはモンスターなんだな?」
「うん……だからいっしょにごはんいけない……」
「大丈夫だ。俺に任せろ」
「へっ?」
一つだけ考えはある。
成功する保証なんてないが、やってみるしかないよな。
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