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第7話 プラチナゴーレムつよっ! チート確定だわ

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「ガアアアッ!」
「ウガアアアア!!」

 すぐそばでモンスターの怒り狂った声がする。
 しかし俺の周囲はポカリと空いたまま。
 つまり俺は傷一つ負うことなく、イライザのかけた眠りの魔法から目を覚ましたのだ。

「どうなってんだ……?」

 4体のゴーレムが俺を守るように四方を固めている。
 モンスターの大群が一方的に攻撃を加えているが、ゴーレムたちは仁王立ちしたままピクリとも動かない。

「ピートさん!」

 サンの声だ。

「ご主人様のお戻りだわ!」
「わーい! 目を覚ましたぁ!」
「よかった……」

 他に3つの声。いずれも少女のようだ。

「ピートさん。彼女たちも仲間です!」
「ということは俺が使役しているといのか……? 同時に4体のモンスターを?」

 どんな一流のテイマーでも2体同時に使役することは不可能だ。
 言ってみれば片方ずつの手で別々の楽器を演奏するようなものだからな。
 それなのに4体も同時に使役しているなんて……。
 やっぱりまだ夢の中なのか。

「ピートさん! 扉の先にある草原なら、まだ安全です! いったん戻りましょう!」
「分かった! 頼むよ!」

 俺は4体のゴーレムに囲まれながら、昨晩テントを張った草原に戻ったのだった。

◇◇

 【ピンチシナリオ】
 発動条件:5歩以内の距離に敵が迫ってきた場合
 発動内容:
  敵が迫ってくる方角にモンスターを召喚し、テイマーを守る

 【進化シナリオ】
 発動条件:
  ① 敵と対峙したモンスターのレベルが低い場合
  ② 召喚しているモンスターが進化可能な場合
 発動内容:
  モンスターを進化させる


 これがピンチシナリオと進化シナリオの内容。
 つまりモンスターに四方を囲まれたため、4体のゴーレムが自動的に召喚された。
 さらにレベル20程度のストーンゴーレムよりも敵のレベルが高かったため、プラチナゴーレムに進化したというのだ。
 まったくもって信じられないが、今こうして草原のど真ん中で冷たい岩の上に座っていることが、現実である証だった。

「ふふ。ピートさんが無事でよかった!」

 それまで石だったサンの体が、キラキラと輝いている。
 これがプラチナゴーレムか……。
 ギルドの図書館で借りたモンスター図鑑で見たことがある。
 あらゆる敵の攻撃に対する耐性を持ち、とてつもない戦闘能力を誇るゴーレムの最上位版だ。人間で言えばレベル70に相当するが、腕力と防御力は計り知れないくらい高いらしい。

「サン、喜びすぎよ。あと少し目を覚ますのが遅かったら、ご主人様の命はなかったのですから」

 ひたいにオレンジ色の印があるサンに対し、印が緑色のゴーレムが丁寧な言葉づかいでたしなめた。

「あはは! 残りMPが15だったもんねー! ほんとギリギリだったよ!」

 天真爛漫でコミカルな動きをするゴーレムは赤か。

「もっと強くならねば……」

 物静かで独特の雰囲気をかもしだしているゴーレムは青色だ。
 どうやらゴーレムは見た目は同じでも、ひたいにある印の色がそれぞれで違うみたいだな。

「ところでどうして俺のMPが減っていたんだ?」
「モンスター・オートメーションは、シナリオが発動している間、テイマーのMPが徐々に減っていくようになっているの」
「それにご主人様が私たちを進化させた際にも消費したはずです」

 なるほど……。
 便利なスキルだがあまり頼りすぎるのも危険のようだ。

「でも、まあMPは寝れば回復するからな。おまえたちのおかげで助かったよ。本当にありがとう」

 素直に頭を下げたら、ゴーレムたちはやたら感動していた。
 理由を聞いてみたら、彼女たちは別のテイマーから奴隷のように扱われたことしかなかったらしい。

「人間は怖い方ばかりだと思ってました。でも、ご主人様は違ったのですね」
「あはは! でも、やっとご主人さまに会えたね! ずっと箱ん中にいて、もう出られないのかと思ってたよー!」
「……私も……」

 ん? どういうことだ?

「ふふふ。ご主人様を困らせてしまいましたね。実は私たち、ご主人様のモンスターボックスの中にずっと入っていたのですよ。だからようやくお会いできて本当に嬉しいのです」
「これからはずーっと一緒にいてね!!」
「……お願いします」

 と、まあ、出会ったばかりなのに、すごくなつかれた。
 でもモンスター・オートメーションが発動していない間は、やっぱり4体を同時に使役するのは不可能だ。
 泣く泣く彼女たちをモンスターボックスに収納し、あらためてサンと二人で今後のことを話しあうことにした。

「幸いなことにニックたちが置いていったテントや食料がある。今夜はここで過ごして、MPを回復させようと思うんだけど、どうかな?」
「ええ、それがいいと思います」

 サンに賛成されると、なんだかすごくホッとする。
 軽い気持ちのまま話を続けた。

「明日、MPが回復したのを確認したら、モンスターハウスを突っ切って帰還しよう。途中でピンチシナリオは発動するだろうからね」

 だがサンは首を横に振った。

「ピートさん、それはダメです」
「どうしてだ?」
「私が悪い予感を覚えたのはモンスターハウスだけではないからです」
「どういう意味?」
「モンスターハウスを抜けた先……正確には第51層に復活したのです」
「何が?」

 サンの様子がおかしい。
 朝と同じように何かにおびえているようだ。
 それからしばらくした後、彼女は意を決したように低い声で告げた。

「あらゆる生物を死に追いやり、自らの眷属にしてしまう邪悪な魔王……アゼルオンです」
「な……に……!?」

 冒険者のみならずこの世界の人間なら誰でも一度は耳にしたことがある名だ。
 なぜならアルゼオンと言えば、神をも凌駕する実力の持ち主で、勇者マリウスによって封印された伝説の魔王なのだから。

「ニックさんが封印を解いて持ち出したのは【レベルストーン】ではなく、魔王を封印していた宝玉だったと思われます……」
「まじか……」
「でも安心してください、ピートさん。モンスターは『特別な力』で自分のいる階層から移動できないようになっているんです。いくら伝説の魔王でも例外ではありません。だからここにいればひとまずは安全です!」

 なるほど……。
 なんだか大変なことになりそうな予感はするが、とりあえずここで暮らすしか選択肢はなさそうだ。

「サン、とりあえず火を起こすのに必要な木を集めようか」
「はいっ!! ピートさん!!」

 なぜか嬉しそうなサン。
 こうなったら腹をくくるしかないよな。
 どうせギルドに戻っても居場所はないし。
 少なくとも帰り道の安全が確保されるまでは、ここでのんびり暮らそう。
 俺はそう決めたのだった。


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