2 / 88
第2話 完全に俺を追い出しにかかってるな
しおりを挟む
【ニック】
◇◇
翌朝。
いつも通り、みんなが寝ているうちに目を覚まし、朝食の支度をする。
3人が楽しそうにおしゃべりしながら食べている間も、俺はサンとともにテントなどの片付けに忙しい。
「おい! 無能ピート。こっち見んな!」
「あはは! そこのブサイクゴーレムと草でも食ってればいいんだわ」
「ピート、今は君がやるべき仕事に集中してくれるかな?」
3人が食べ終えれば食器洗いが待っている。
そうしてようやく残り物のパンにありついたとたんにニックが高らかに告げた。
「よし、みんな。ギルドへ帰還しよう! 胸を張ってSランクの勲章を手に入れるんだ!」
「おうっ! ついに俺が伝説になる日がきたか!」
「うふふ! 報酬もたんまりもらえるわ! ああ、欲しかったダイヤのイヤリングを自分へのご褒美で買っちゃおうかなぁ」
第51層以降に手に入る【レベルストーン】は希少価値の高い宝石で、王族たちに人気があるらしい。
目玉が飛び出るくらいの高値で引き取ってもらえるのだろう。
でも俺には関係なかった。
Bランクに上がってから「分け前は戦闘での貢献度による歩合制」と多数決で決まってたからな。
だから俺の分け前は毎回ゼロ。戦闘に参加すらさせてくれないから貢献するチャンスは皆無。
なんとか食い扶持をつないでいるのは、ダンジョン探索の合間をぬって、サンと一緒に町で売れそうなアイテムを採取してきたからだ。
「おい、ピート! てめえ、なんか言いたげだな? 文句あるなら言えよ」
普段通りにしていたにも関わらず、トラビスが歯をむき出しにしてつっかかってきた。
丸太のように太い腕に青筋が浮かんでいる。
俺は慌てて首を横に振った。
「い、いや、文句なんて何もないから」
「ふぅん。俺もけっこう働いてるのに、報酬がゼロなんて納得いきません、って顔してた気がしたけどぉ」
「なんだとぉ! おい、ピート! イライザの言うことは本当か!?」
わざとらしい挑発。
当然、こんな見え透いた手に乗っかるほどバカじゃない。
「いや、報酬はゼロでいい。だからそうカッカしないでくれ。なあ、ニック。おまえからも何か言ってくれよ」
「ん? ああ……。そうだな。みんな。帰り道も決して楽じゃない。だから仲間割れはよそう」
「ちっ……。てめえはどっちの味方なんだっつーの」
どうにか収まったものの、トラビスとイライザの目がとてつもなく冷たい。
とにかく今は事を荒立てずにいつも通りの仕事をするしかないよな。
身の回りのものを【収納リュック】につめる。
【収納リュック】は、その名の通りに色々なものを収納できるリュックだが、決して重量が消えるわけじゃない。
背負ったとたんに、ずしりと肩に食い込んだ。
こんなに重かったけ?
ちらりと横を見るとサンは収納リュックを2つも担がされている。
昨日まではなかったはずだぞ。
「おい、てめえ! その荷物は大事なものが入ってるからな! 気をつけて運べよ!」
「そうよ! 昨日、私たちが苦労して拾ってきたお宝がたんまり詰め込んであるんだからね!」
やっぱり彼らの仕業だったか……。
きっと周囲にモンスターがいないのをいいことに、鉱石などの素材を拾えるだけ拾ってきたのだろう。
「グゥ……」
ゴーレムだから表情は分からないけどキツイに決まってる。
その証にサンの動きがいつも以上に鈍い。
「サン。おまえの荷物をこっちのリュックに分けるんだ」
「ガウッ!」
サンはブンブンと首を横に振って、拒否する。
……とそこにトラビスの罵声が響いた。
「おい、てめえら! ちんたらするな! まともに歩くことすらできねえのか!」
自分は手ぶらのくせに……。
だが、文句を言えばその場でクビにされかねないからな。
俺はサンのリュックを下から支えた。
「サン。行こう」
サンは荷物が重いのを嫌がっている訳じゃない。
先を進むこと自体をためらっているのだ。
いったいなぜ……。考えるまでもない。
この先に『嫌な予感』を感じさせる何かがいるに決まってる。
そんな予感はドアを開けたとたんに現実となる――。
「まじかよ……」
◇◇
翌朝。
いつも通り、みんなが寝ているうちに目を覚まし、朝食の支度をする。
3人が楽しそうにおしゃべりしながら食べている間も、俺はサンとともにテントなどの片付けに忙しい。
「おい! 無能ピート。こっち見んな!」
「あはは! そこのブサイクゴーレムと草でも食ってればいいんだわ」
「ピート、今は君がやるべき仕事に集中してくれるかな?」
3人が食べ終えれば食器洗いが待っている。
そうしてようやく残り物のパンにありついたとたんにニックが高らかに告げた。
「よし、みんな。ギルドへ帰還しよう! 胸を張ってSランクの勲章を手に入れるんだ!」
「おうっ! ついに俺が伝説になる日がきたか!」
「うふふ! 報酬もたんまりもらえるわ! ああ、欲しかったダイヤのイヤリングを自分へのご褒美で買っちゃおうかなぁ」
第51層以降に手に入る【レベルストーン】は希少価値の高い宝石で、王族たちに人気があるらしい。
目玉が飛び出るくらいの高値で引き取ってもらえるのだろう。
でも俺には関係なかった。
Bランクに上がってから「分け前は戦闘での貢献度による歩合制」と多数決で決まってたからな。
だから俺の分け前は毎回ゼロ。戦闘に参加すらさせてくれないから貢献するチャンスは皆無。
なんとか食い扶持をつないでいるのは、ダンジョン探索の合間をぬって、サンと一緒に町で売れそうなアイテムを採取してきたからだ。
「おい、ピート! てめえ、なんか言いたげだな? 文句あるなら言えよ」
普段通りにしていたにも関わらず、トラビスが歯をむき出しにしてつっかかってきた。
丸太のように太い腕に青筋が浮かんでいる。
俺は慌てて首を横に振った。
「い、いや、文句なんて何もないから」
「ふぅん。俺もけっこう働いてるのに、報酬がゼロなんて納得いきません、って顔してた気がしたけどぉ」
「なんだとぉ! おい、ピート! イライザの言うことは本当か!?」
わざとらしい挑発。
当然、こんな見え透いた手に乗っかるほどバカじゃない。
「いや、報酬はゼロでいい。だからそうカッカしないでくれ。なあ、ニック。おまえからも何か言ってくれよ」
「ん? ああ……。そうだな。みんな。帰り道も決して楽じゃない。だから仲間割れはよそう」
「ちっ……。てめえはどっちの味方なんだっつーの」
どうにか収まったものの、トラビスとイライザの目がとてつもなく冷たい。
とにかく今は事を荒立てずにいつも通りの仕事をするしかないよな。
身の回りのものを【収納リュック】につめる。
【収納リュック】は、その名の通りに色々なものを収納できるリュックだが、決して重量が消えるわけじゃない。
背負ったとたんに、ずしりと肩に食い込んだ。
こんなに重かったけ?
ちらりと横を見るとサンは収納リュックを2つも担がされている。
昨日まではなかったはずだぞ。
「おい、てめえ! その荷物は大事なものが入ってるからな! 気をつけて運べよ!」
「そうよ! 昨日、私たちが苦労して拾ってきたお宝がたんまり詰め込んであるんだからね!」
やっぱり彼らの仕業だったか……。
きっと周囲にモンスターがいないのをいいことに、鉱石などの素材を拾えるだけ拾ってきたのだろう。
「グゥ……」
ゴーレムだから表情は分からないけどキツイに決まってる。
その証にサンの動きがいつも以上に鈍い。
「サン。おまえの荷物をこっちのリュックに分けるんだ」
「ガウッ!」
サンはブンブンと首を横に振って、拒否する。
……とそこにトラビスの罵声が響いた。
「おい、てめえら! ちんたらするな! まともに歩くことすらできねえのか!」
自分は手ぶらのくせに……。
だが、文句を言えばその場でクビにされかねないからな。
俺はサンのリュックを下から支えた。
「サン。行こう」
サンは荷物が重いのを嫌がっている訳じゃない。
先を進むこと自体をためらっているのだ。
いったいなぜ……。考えるまでもない。
この先に『嫌な予感』を感じさせる何かがいるに決まってる。
そんな予感はドアを開けたとたんに現実となる――。
「まじかよ……」
0
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!
鏑木 うりこ
ファンタジー
幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。
勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた!
「家庭菜園だけかよーー!」
元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?
大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物
ゆうぎり
ファンタジー
私リディアーヌの不幸は双子の姉として生まれてしまった事だろう。
妹のマリアーヌは王太子の婚約者。
我が公爵家は妹を中心に回る。
何をするにも妹優先。
勿論淑女教育も勉強も魔術もだ。
そして、面倒事は全て私に回ってくる。
勉強も魔術も課題の提出は全て代わりに私が片付けた。
両親に訴えても、将来公爵家を継ぎ妹を支える立場だと聞き入れて貰えない。
気がつけば私は勉強に関してだけは、王太子妃教育も次期公爵家教育も修了していた。
そう勉強だけは……
魔術の実技に関しては無能扱い。
この魔術に頼っている国では私は何をしても無能扱いだった。
だから突然罪を着せられ国を追放された時には喜んで従った。
さあ、どこに行こうか。
※ゆるゆる設定です。
※2021.9.9 HOTランキング入りしました。ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる