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第四幕 よみがえりのノクターン
53.
しおりを挟むソラの背中に乗って、星となった智也さん目がけて一直線に飛んでいく。
川を越え、灰色の草原に入ったとたんに、草むらから姿をあらわした霊たちが私の体を奪おうと次々に襲ってくる。
おぞましい声。紫色の光を帯びた球体の中に苦悶に歪んだ顔がくっきりと浮かんでいる。
「させるかよ!」
ソラが左右にかわし、それでも近づいてきたものは、
「僕が相手だ!」
レオが噛みついて撃退した。
ううん、レオだけじゃない。
「楓庵のお姉ちゃん!」
「俺たちも手伝わせてくれ!」
「今度はお姉さんを私たちが助ける番よ!」
多くの楓庵に訪れたペットたちが駆けつけてくれて、私のことを守ってくれたのだ。
私はソラの背中にしがみつくのが精いっぱいで、ありがとうを心の中で何べんも繰り返すことしかできなかった。
同時に浮かぶ疑問。
「どうして私なんかのために?」
「人間とペットはお話しができないでしょ。だから人間から嬉しいことをしてもらったら、相手が喜ぶことを全力でする――。そうやって絆を強めてきた。お姉ちゃんは僕たちを喜ばせてくれた。だからお姉ちゃんが喜んでもらえるように頑張るのは当たり前なんだよ」
途中、少し落ち着いたところで、レオがそう教えてくれた。
これまでの人生。私はどれだけの相手と絆を結んでこられただろうか。
もしかしたら、いや、はっきりと言える。
私は綾香のことがあってから、誰とも絆を結べていない。
それは誰も、7年付き合った彼氏ですら、私に手を差し伸べてきてくれなかったからだと思い込んでいた。
それはとんだ勘違いだった。
これまでも、今みたいに多くの手が私へ差し伸べられてきたに違いない。
その手を「相手に悪いんじゃないか」と振り払っていたのは、私の方だ。
だから誰とも絆を結べなかったんだ。
私は今、差し伸べられた無数の手をしっかりと握り返している。
無数の絆を結んでいる――。
喜びに満ち溢れ、どこまでも飛んでいけそうなくらいに心が軽い。
これからもそうやって生きていきたい。
だから綾香。
ごめんね。私はあなたへの後悔を捨てる。
許してくれるかな?
あの頃みたいに、また笑って手を差し伸べてくれるかな――?
「着いたぞ。あれがウミ――鳥鳴海神《とりなるみのかみ》だ」
人の姿に戻ったソラが指さした先には、ソラよりも年下と思われる男の子。
フクを膝に乗せ、ニコニコしている。
「ソラにい!! ここまできてくれるなんて何百年ぶりかな!? すごく嬉しい! ねえ、何して遊ぶ?」
彼が大声を上げると、灰色だった草原に緑や赤の色が加わった。
あたり一面が春のように明るくなる。
どうやらウミはソラのことを、すごく慕っているみたい。
でもソラはニコリともせずに、
「黒猫のノクターンってのを探してるんだ。おまえならどこにいるか分かるだろ?」
淡々とした口調で問いかけた。
それでもウミは満面の笑みを崩さない。
しかし次に彼の口から聞かされた言葉で、私は気を失ってしまうほどのショックを受けてしまったのだった。
「ははは! そんな霊はここにはいないよ。だから探すのはやめて、僕と遊ぼう! ねっ、いいでしょ!?」
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