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第四幕 よみがえりのノクターン
52.
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びっくりしてとっさにどう反応してよいか分からないでいる私の足元に、フクが長い尻尾を揺らしながらやってきた。
「さっきインコのキューが教えてくれたんだよ。もうすぐあんたが黒猫のノクターンを探しにここにやってくるってな」
「インコのキューちゃんって、さっきまで楓庵にいたお客様のペットよね? まさかソラ、彼に何か言ったの?」
「べ、別にいいだろ。減るもんじゃねえし」
「そんなわけないでしょ! あの子は黄泉へ行くのをすごく怖がってたのよ! だからみんなで励まして、ようやく決心してくれたのに。そんな子を使い走りにするなんて……。信じられない」
私が呆れた声でソラにつめよると、レオが小さな体をいっぱいに伸ばして私のすねに前足をかけた。
「お姉ちゃん、怒らないで。僕たちはお姉ちゃんの力になれるのが嬉しいんだから。それはキューも一緒だよ」
「え? どういうこと?」
戸惑う私に、レオはくりっとした目をキラキラさせながら答えたのだった。
「お姉ちゃんは僕たちのために一生懸命頑張ってくれた。だから今度は僕たちがお姉ちゃんのために頑張りたいんだ!」
彼の言葉がズンと胸の奥に突き刺さり、どんな言葉で返せばいいのか分からない。
混じりけのない好意を向けられたことなんて、どれくらいぶりだろうか。
目をキョロキョロと泳がせた私を気遣うようにフクが口を開いた。
「……というわけだからよ。俺たちに協力させてくれよ。それにそろそろ見つかる頃だと思うぜ」
その直後、川の向こうに広がる黒一色の空にキラリと何かが光った。月も星もないはずなのに。「あれはなに?」と、誰かに疑問を誰かにぶつける前に、男性の声があたりに響いてきた。
「ウミ様を見つけたよ! 今、僕の真下にいる」
エトワールの飼い主、智也さんだ。
智也さんまで助けてくれるなんて……。
暑くないのに体の芯から熱を帯びてきた。正直言って、ソラがそばにいてくれるとはいえ、とても不安で仕方なかった。でもこうしてみんなが手を差し伸べてくれることで、不安が薄らいでいき、まるで雨上がりの後の雲間から光が射しこむように心の中が明るくなっていくのを感じていた。
「でも早くしないとウミ様はどこかへ行ってしまうよ。とにかく動き回るのが好きな神様だから」
焦りをあらわしているかのように星が何度かまたたいた。
するとソラがフクと視線をあわせて言った。
「一足先にウミのところへ行って、伝言を頼まれてくれねえか? 『ソラが会いにいくからそこで待ってろ』ってな」
「お安い御用だ。俺は伝言が得意だからな」
フクの表情は変わらない。でも私には口角をあげたように思えてならなかった。彼は私の足元から離れて川の方へ歩き出し、
「ついでに膝の上にでも乗って、動きを止めておくか」
そう言い終えるなり、あっという間に川の奥へと消えていった。
「さてと。俺たちも行くぞ」
再び鳳凰に姿を変えたソラ。
これまで何も言えないでいた私は、何か言葉を出さないといけない気がして、彼の前に立った。
「ソラ、ありがとう。あなたのおかげよ」
「礼は全部終わってから言うものだ。それに言うべき相手は俺だけじゃねえだろ。さあ、早く乗れよ」
無言でうなずいた私は、彼の後ろへ回り込んで背中に乗りこむ。
鳥取神様が優しく手を振った。
「気を付けていってらっしゃい。川の向こうは物騒だから」
物騒、という言葉で、薄れたはずの不安が再び顔を覗かせる。
川の向こうは灰色の草原。その奥は暗闇。
どんなに楽観的な人でも、この景色を見れば恐れおののくに違いない。
でも今さら怖じ気づくわけにはいかないのは分かってる。
ごくりと唾を飲みこみ、「大丈夫です」と強がろうとしたその時。
「鳥取神様、大丈夫だよ」
私の言葉を盗んだのはレオだった。
さも当然のようにソラ私の横に並んだ彼は、小さな胸を大きく張った。
「僕が彼女を守るから!」
高らかに宣言した彼に対して、鳥取神様は透き通った微笑みをおくっている。
「そう、それは頼もしいわ」
「うん、任せて! 僕は騎士《ナイト》だからね!」
私に顔を向けて尻尾を振るレオ。冗談を言っているとは思えない。
つまり彼は本気で私のことを守る気なのだ。
これで今日は何度目かしら?
涙がこみ上げてくる。でもソラは泣かせてなんかくれなかった。
「じゃあ、出発だ! ノクターンの居場所を聞きに行くぞ!」
バサッと羽ばたく音とともに涙は目の奥に引っ込み、緊張と期待で胸が高鳴っていった。
前に進んでいる――。
そんな実感とともに、私は風になったのだった。
「さっきインコのキューが教えてくれたんだよ。もうすぐあんたが黒猫のノクターンを探しにここにやってくるってな」
「インコのキューちゃんって、さっきまで楓庵にいたお客様のペットよね? まさかソラ、彼に何か言ったの?」
「べ、別にいいだろ。減るもんじゃねえし」
「そんなわけないでしょ! あの子は黄泉へ行くのをすごく怖がってたのよ! だからみんなで励まして、ようやく決心してくれたのに。そんな子を使い走りにするなんて……。信じられない」
私が呆れた声でソラにつめよると、レオが小さな体をいっぱいに伸ばして私のすねに前足をかけた。
「お姉ちゃん、怒らないで。僕たちはお姉ちゃんの力になれるのが嬉しいんだから。それはキューも一緒だよ」
「え? どういうこと?」
戸惑う私に、レオはくりっとした目をキラキラさせながら答えたのだった。
「お姉ちゃんは僕たちのために一生懸命頑張ってくれた。だから今度は僕たちがお姉ちゃんのために頑張りたいんだ!」
彼の言葉がズンと胸の奥に突き刺さり、どんな言葉で返せばいいのか分からない。
混じりけのない好意を向けられたことなんて、どれくらいぶりだろうか。
目をキョロキョロと泳がせた私を気遣うようにフクが口を開いた。
「……というわけだからよ。俺たちに協力させてくれよ。それにそろそろ見つかる頃だと思うぜ」
その直後、川の向こうに広がる黒一色の空にキラリと何かが光った。月も星もないはずなのに。「あれはなに?」と、誰かに疑問を誰かにぶつける前に、男性の声があたりに響いてきた。
「ウミ様を見つけたよ! 今、僕の真下にいる」
エトワールの飼い主、智也さんだ。
智也さんまで助けてくれるなんて……。
暑くないのに体の芯から熱を帯びてきた。正直言って、ソラがそばにいてくれるとはいえ、とても不安で仕方なかった。でもこうしてみんなが手を差し伸べてくれることで、不安が薄らいでいき、まるで雨上がりの後の雲間から光が射しこむように心の中が明るくなっていくのを感じていた。
「でも早くしないとウミ様はどこかへ行ってしまうよ。とにかく動き回るのが好きな神様だから」
焦りをあらわしているかのように星が何度かまたたいた。
するとソラがフクと視線をあわせて言った。
「一足先にウミのところへ行って、伝言を頼まれてくれねえか? 『ソラが会いにいくからそこで待ってろ』ってな」
「お安い御用だ。俺は伝言が得意だからな」
フクの表情は変わらない。でも私には口角をあげたように思えてならなかった。彼は私の足元から離れて川の方へ歩き出し、
「ついでに膝の上にでも乗って、動きを止めておくか」
そう言い終えるなり、あっという間に川の奥へと消えていった。
「さてと。俺たちも行くぞ」
再び鳳凰に姿を変えたソラ。
これまで何も言えないでいた私は、何か言葉を出さないといけない気がして、彼の前に立った。
「ソラ、ありがとう。あなたのおかげよ」
「礼は全部終わってから言うものだ。それに言うべき相手は俺だけじゃねえだろ。さあ、早く乗れよ」
無言でうなずいた私は、彼の後ろへ回り込んで背中に乗りこむ。
鳥取神様が優しく手を振った。
「気を付けていってらっしゃい。川の向こうは物騒だから」
物騒、という言葉で、薄れたはずの不安が再び顔を覗かせる。
川の向こうは灰色の草原。その奥は暗闇。
どんなに楽観的な人でも、この景色を見れば恐れおののくに違いない。
でも今さら怖じ気づくわけにはいかないのは分かってる。
ごくりと唾を飲みこみ、「大丈夫です」と強がろうとしたその時。
「鳥取神様、大丈夫だよ」
私の言葉を盗んだのはレオだった。
さも当然のようにソラ私の横に並んだ彼は、小さな胸を大きく張った。
「僕が彼女を守るから!」
高らかに宣言した彼に対して、鳥取神様は透き通った微笑みをおくっている。
「そう、それは頼もしいわ」
「うん、任せて! 僕は騎士《ナイト》だからね!」
私に顔を向けて尻尾を振るレオ。冗談を言っているとは思えない。
つまり彼は本気で私のことを守る気なのだ。
これで今日は何度目かしら?
涙がこみ上げてくる。でもソラは泣かせてなんかくれなかった。
「じゃあ、出発だ! ノクターンの居場所を聞きに行くぞ!」
バサッと羽ばたく音とともに涙は目の奥に引っ込み、緊張と期待で胸が高鳴っていった。
前に進んでいる――。
そんな実感とともに、私は風になったのだった。
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