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第四幕 よみがえりのノクターン

50.鳥!?

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 楓庵を出てから森の中を進んでいく。灯りなんてないから歩きづらくてしょうがない。

「引き返すなら今のうちだぞ」

 私の前をいくソラがこちらを見ずに問いかけてきた。
 しかし私が何も答えなかったのは、転ばないように彼の背中を追いかけるのに必死だったからだ。
 一方のソラもそれ以上は何も口を出そうとはしなかった。
 枯れ枝を踏む、パチパチという音だけが木々の間をすり抜けていく。
 いったいどこまで進んでいくのだろうと、疑問が浮かんできたところで、ソラが足を止めた。
 すぐ目の前には、四畳分ほどの広さで、黒い土がむき出しになっている地面がある。不自然に木が生えておらず、明らかに怪しい。

「そこで大人しく見てろよ」

 ソラはその地面の端に立ち、

 ――ダンッ!

 右足を踏み鳴らした。
 その直後、ゴゴゴという大きな音とともに地面が割れ、地下へ続く坂があらわれたのだった。

「驚いたわ……」
 
 率直な感想が口をついてでてくる。
 ソラはちらりと私の方を振り向いて、「だろ?」とドヤ顔をしてきた。
 その表情があまりにも憎たらしくて、嫌味の一つでも返さないと気が済まない。

「死んだら空の向こうに行くものだと思っていたから、驚いただけよ」

「ふんっ。相変わらず素直じゃねえな。そんなんだから男の一人も……」

「無駄口たたいている暇なんてありません!」

「おい、待て! 勝手に行くな!!」

 坂は狭い通路になっていて、意外にも暖かかった。それに地面は石畳だし、壁には松明も灯っていて歩きやすい。
 すいすいと進んでいくと、前方にポツンと点のような白い光が見えてきた。
 進めば進むほど、光が大きく、そして明るくなっていく。
 あの先が黄泉に違いない――。
 死後の世界とか、神様とか、そういったことを全然知らない私でもそう確信した。
 自然と足が速くなる。

「おい、美乃里! 危ないから待てって!!」

 待ってなんかいられるはずがない。
 この坂を抜けた先に、探している答えがあるのだから。
 いつの間にか早足から全力疾走に変わっている。
 息は上がっているが苦しくない。だから懸命に手足を動かした。

 前へ。前へ。前へ!
 
 そうしてついに光の向こう側へ飛び込んだのだった――。

「えっ?」

 足が急に軽くなる。
 もしかして……と思い、ちらりと下を見る。

「うそ……」

 いや、嘘なんかじゃない。
 地面がない……!
 つまり今、私は空中にいる!

「きゃあああああ!!」

 叫び声とともに急降下がはじまる。
 遥か下方に見えるのはゴツゴツした岩場。
 このままだと、まずい!
 でも手足をばたつかせたところで、飛べるはずもない。
 
 もうダメだ――。

 そうあきらめた瞬間だった。
 真上を黒い影が通り過ぎた。

 ――バサッ!

 大きな翼が羽ばたく音とともに聞こえてきたのはソラの声。

「だから言っただろ。危ないから待てって」

 直後に私の体は、大きくてふわふわな場所の上に落ちた。しかも温かい。まるで生き物みたい。
 ……いや、生き物だ。だって顔を上げた先には丸い頭がはっきりと見えるのだから。
 何が起こったのか分からず困惑している私の耳に、もう一度ソラの声が届く。

「そこから落ちるなよ」

 間違いない。
 今、私がいるのはソラの背中だ。左右を見回すと、虹色に輝く大きな翼が目に入ってくる。

「鳥……」

 そう、鳥だ。
 つまりソラが大きな鳥に変身したのだ。
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