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第3章

迷いの森救出戦 やり残し

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「ねぇ、ジェイ。このままマタ王国へ行くの?」

ティナは、俺の左腕に柔らかな胸を押し付けながら聞いてきた。

「…いや…ゲンたちを追う」

俺の答えに少し驚いたような顔になるティナ。

「分かったわ。でもサヤちゃんの事はいいの?」
と悪戯な笑顔を見せて、彼女は俺に問いかけてきた。

一刻も早くサヤを見つけたい気持ちに変わりはなかったが、それよりも
「…ゲンとの約束だから」

俺には「パトラを無事に帰す」というゲンとの約束を果たす方を優先すると決めていた。

そして、一つ気になる事もあるのは確かだ。

あの「聖女の光」は一体何だったのか…という事だ。

ムギュウ…

ティナはさらに俺に抱きつく力を強くした。
レベル80の戦士の抱きつきの力は、俺の想像を遥かに超えた強さだ。

「じゃあ私たちもはぐれない様に、くっつきながら帰りましょ!」

レベル95の勇者である俺は、そんなティナを力づくで引き離す。

納得いかない様に、ぷくーっと頬を膨らませたティナは
「私の事、そんなに鬱陶(うっとう)しいんだ…」
と拗ねている。

俺は首を横に振る。

それを見てティナの機嫌が少し戻った様な気がしたので、俺は言った。

「…やり残しがある。先に帰れ」

「私を『迷いの森』に一人にするつもり!?ひどいわ!」

俺はある方向に指を差す。

「…真っ直ぐ行けば街だ…迷わない」

顔を真っ赤にさせたティナは
「もういい!勝手にすればいいじゃない!大嫌い!!」
と言い捨てると、俺の指差す方へと走り去っていった。

そんな彼女を見送ると、俺は「やり残し」の方を向いた。

「…逃げられると思うなよ」

ダッ!

その場から駆け出した俺は、一気に「やり残し」との距離を詰めた。

そこには一目散に逃げ惑う、切り株の魔物がいた。

かつてのトレントウォーリアーであった。

その姿は以前の面影を一切残していない。

ダン!

俺は切り株を踏みつけて、その動きを止める。
根っこをばたつかせて、逃げ出そうと必死だ。

「…貴様には感謝している」

逃げるのは観念したのか、逆に根を尖らせて俺に向かって背後から伸ばしてくる。
俺はそれを振り向きもせずに鷲掴みにすると、炎の魔法をそれに浴びせた。

「…ゲンを男にしてくれたから…」

苦しそうにもがくトレントウォーリアー。

「…礼をしてやろう」

スラリと俺は剣を抜く。

「…地獄の苦しみって礼を…」

ガンッ!!

俺は切り株に剣を突き刺した。
そしてその剣に炎をまとわせる。

トレントウォーリアーは必死にもがくが、剣を抜く事が出来ず、じっくりと燃えていった。

そして…
トレントウォーリアーが完全に炭になったところで、俺は剣を抜いた。

「…消し飛べ」

ビュゥ!!

そして風の魔法でその炭をバラバラにしながら吹き飛ばした。

迷いの森の救出戦はここに完結した。

◇◇
「大変だぁ~!!勇者様がお戻りになったぞ~!!」

相変わらず騒々しい門番の一言で、街の人々は俺を迎えに集まってきた。

早朝にここを出たのだが、既に夕暮れ時を迎えようとしていた。

トレントウォーリアーを片付けた後は、周囲の魔物の残党を片付けながら戻ってきた。
その為に、少し時間がかかってしまったのである。

ムギュウ…

俺の胸にティナが抱きつく。
柔らかい感触と、彼女の良い香りが、俺を包んだ。

「遅かったわね…あんな酷い事言っちゃったから、もう戻って来ないんじゃないかと思ったんだから…」

ティナは涙目になって、俺を見つめている。
俺は
「…そんな事するか」
と彼女の頭をなでた。

ティナは嬉しそうに
「へへ、本当に?」
と問いかけてきた。

「…もう一人にはしない」

チュウ…

今度は濃厚なキス。

「んん…ん…ぷはぁ…」

終えると、つぅーと糸が引く。

「今の言葉、約束だからね!」

「…約束…か」

俺はティナから目を離すと、周囲を見渡した。

羨ましそうに眺めている街の男たち。
顔を赤らめながら恥ずかしそうにこちらをちら見してくる街の女たち。

しかしそこには目当ての人物はいなかった。

ティナはそれに気づいた様で、
「ゲンくんとパトラちゃんは、おばば様の屋敷よ」
と教えてくれた。

そして彼女は耳元で囁いた。

「今夜は寝かさないから…」

俺は顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。

そんな俺を悪戯な笑顔で見つめていたティナは、

チュッ!

と今度は軽いキスをしてきた。

「さあ、行きましょう!英雄のお帰りを初々しいカップルが待っているんだから!」

そう告げると、ティナは俺の手を引いて、おばば様の屋敷へと誘う。

それを笑顔で見送る街の人々。

この街の平和が訪れた実感が、重い運命を背負い続ける俺の心を、少しだけ軽くしてくれた。


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