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第2章

奴隷と勇者のカンケイ

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「あんだねぇ~!このわだじに断りもなく出ていくなんでぇ、薄情にもほどがあるわ!ぢょっどぉ!聞いてる!?」


そこには完全に悪酔いしたレイナの姿があった。

宿に向かおうとした俺たちはレイナに呼び止められ、出立までは町長の屋敷で過ごすことになった。
なんでも俺とサヤが同じ部屋で過ごすのが不健全なんだそうだ。

そして晩餐。
そこには俺たちの他に今回被害にあった女性たちも招かれていた。
もちろん宿屋の女将であるサファイアの姿もある。

そこでハメが外れたのか、レイナは周囲がドン引きする位に飲んでいた。

「…飲み過ぎだ」

「ハハハ!大丈夫よ!わだじが酔っ払って思ってるんでしょ!?」

バンバンと俺の背中が叩かれる。
この様子を見かねたサヤが
「レイナ、これ以上はダメです!」
とレイナをたしなめた。

このサヤの発言に周囲はさらにびっくりした。

奴隷の身分でありながら、王女を呼び捨てにし、叱りつけたのだから…

「もぉ~、サヤちゃんは冷たいんだからぁ!
そっか!恋のライバルだからでしょ!?」

もう一度招かれた人々は驚く。
王女と奴隷がライバルだなんて…
ありえない…

サヤの表情がピクリと動いた。

「だいだい、サヤちゃんはジェイの奴隷なんでしょ~!
奴隷だから…その…ジェイがサヤちゃんとのエッチだって…そこには愛がないって言うか…って何言わせるの!!」

バシィッ!!

なぜか俺の背中が思いっきりはたかれた…

「…痛い…」

サヤは寂しそうにうつむいてしまっている。

「ぞれでぇ?本当のところはどうなのよ?ジェイ!」

何を聞かれているのか意味が分からない。

そんな俺の様子を見て、
「だ~か~ら~!ジェイはサヤちゃんの事をどう思っているの!?わだじとどっぢを取るのぉ~!?」

バタンッ…

そこまで言うとレイナは、大きなイビキをかきながら寝てしまった。

その様子を部屋の片隅で見ていたメイドのアリアが、かいがいしくレイナを寝室まで運んでいったのであった。

◇◇
結局このまま晩餐会は解散となり、奥様たちはそれぞれの家路へと急いでいった。

俺とサヤは別々の客室に通され、一夜を過ごす。
サヤが近くにいない夜は初めてだな…
ふとそんな事を考えると、なぜか少し寂しい感じもする。
俺は最後のレイナの質問を思い返していた。
俺はサヤの事をどう思っているか、か…
奴隷と言うよりは「身の回りのお世話する人」という表現が的確かも知れないな…

本当にそれだけか…?
それ以上のカンケイではないのか…?
俺は言い寄れぬ不安にさい悩まされた。自分自身に対して。

トントン

なかなか寝付けないでいると、ドアをノックする音。

「…誰だ?」

俺は静かにドアの向こうの人物に問いかけた。

「サヤです。ご主人さま、入ってもよろしいですか?」

「…問題ない、入れ」

「ありがとうございます」

どこか他人行儀なサヤ。
俺はベッドの縁に腰をかけて彼女を迎えた。
サヤは俺の一歩手前までくるとそこで足を止めた。
まるでそこには目に見えない壁があるように。

「すみません、夜分遅くに。どうしてもお伝えしたい事がございまして…」

「…なんだ?」

少し緊張した面持ちのサヤ。
俺は覚悟した。
理由は分からないが、サヤが俺から離れようとしているのではないかと感じたのだ。

サヤが重い口を開く。

「ご主人さま…サヤはご主人さまが私の事を単なる奴隷だと思っていても構いません。
私とのやり取りの全てに愛を感じたい、なんて微塵も思っておりません」

「…サヤ…」

少し気まずい沈黙が広がる。
サヤも何かを決意したようだ。
キリっとした表情で俺を見つめた。

「でも…サヤは…サヤはご主人さまを愛しております」

サヤはうるみ始めた瞳で真っすぐに俺を見て続けた。

「だから今までも、これからもご主人さまに全力の愛を持ってお遣いいたします。
言いたかった事はこれだけです。では、おやすみなさい」

サヤはぺこりと頭を下げると、そのままドアの方へ振返り、その場を後にしようとドアノブに手をかけた。
その瞬間、

ふわっ

俺は優しくサヤを背後から抱き締めた。

「ふえっ!?」

サヤの驚く声。
彼女の肩が小刻みに震えているのが伝わってきた。

「…サヤ…泣くな」

「え…ご主人さま…私…泣いてなんか…ふぇぇぇん」

彼女は何かに対して不安だったのだろう。
こうする事で少しでも彼女の不安が払拭する事が出来ればいいと思っていた。

しばらくサヤの嗚咽が続く。

彼女が少し落ち着いた頃を見計らって、俺はサヤと向き合った。
そして静かに口づけを交わす。
そして徐々に激しくなる。

「ん…ん~…ぷはぁ…」

サヤが息を吐き出すとともに長い口づけは終わった。

その後も二人で見つめ合う。

そしてどちらからともなく、そのまま俺のベッドの中に抱き合うように一緒に崩れていった。

「あ…あぅ…ん…」

俺の右手が彼女の身体を優しく愛撫すると、彼女の力がスッと抜けて、柔らかさが増す。

そしてもう一度キスをする。
サヤが求める。俺はそれに応える。
そんな熱い口づけだ。

サヤを下にして俺たちはベッドの上で向き合った。

「ご主人…サヤの愛は届いてますか?」

「…ああ」

「では…ご主人さまは今…サヤに愛を下さいますか?」

サヤが恐る恐る俺を覗き込んでくる。
俺は努めて優しい表情で
「…言わせるな」
と応えると、サヤの首すじにキスをした。

「ん…あぅ…ご主人さまの…いじわる…」

それは朝日が部屋を照らすまで続いた。
俺が彼女の中で果てる度に、サヤの全力の愛が俺の心に響いた。

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