上 下
52 / 74
外伝(むしろメイン)

番外五   お客様のはなし

しおりを挟む
メイン:スラム組 ジャンル:COOL!

****************************************************

 立ち並ぶ家屋から漏れ聞こえる、酔っぱらいの呻く声。道の端で倒れ込み、死んでいるんだか寝ているんだかわからない人。転がる酒瓶に、舞う砂塵。
 空気に色がついたなら、きっとこのあたりは他より一層薄暗く見えるだろう。

 そんな通りにゆらり揺れる、大中小のみっつの影。彼らの呼び名はデコ、ボコ、マリク。最近どこへ行っても噂を聞くようになった、台頭中の金貸しチーム。
 不愉快な空気を切りひらき我が物顔で歩んでいた三人は、一軒の家の前でそろって足をとめた。

「ここですか。ボコがひとりで取り立てできない家というのは」
「ああ。ずいぶんグズつきやがるらしい」

 忌々しそうにドアを睨めあげ、グルルと鋭い犬歯を剥き出すマリク。その横で、頬にガーゼを貼ったボコがウンウン、ワンワンと首を縦に振る。

「まったく。借りたもんは返すのがあたり前ッスよね」
「あぁ。けど、お前もお前だ。取り立て行って殴られて帰ってくるたぁ情けねー」
「えへ。ボコだけに、ボコボコ? なんつって」
「馬鹿!」

 ボコの頭上にげんこつが落ち、ボコン、と飛び散り踊る~☆ほし

「まったく。ふざけてねーで行くか」
「はい」
「おッス」

 部下が頷いたのを確認し、マリクはドアをハイキック。踏み込んだ室内は、このあたりの住宅にしては比較的家具が揃っていて、借りた金を返す余裕が無いようには思えない。こういうところに住んでいるのは、そもそも返すつもりが無いタイプ。

 部屋のなかほどにあるベッドから、人の気配が漂っている。
 ボコが一直線にベッドへ向かい、丸く膨らんだ毛布をテーブルクロスよろしく引き剥いだ。

「今度こそ金返せ! 借金取りりたーんず!」

 パーティのはじまりを告げる、かすれた声の脅し文句。
 毛布に包まり眠っていた男が目をさまし、声の主をとらえて刹那。落ち窪んだ瞳が高圧的に歪む。

「お前、また来たのか。何度来たって同じだ。金は返さな」
「ふざけんじゃねぇコラ!」

 男が全て言い終わる前に、ボコのうしろからマリクが飛び出した。
  そのままのスピードで男に膝蹴りの朝食を。寝起き一発目の重い一撃、みぞおち胃ぶくろ目掛けて、召し上がれ! 

「俺らがガキだからって舐めてんじゃねーぞオイ。借りたもんは返すのがたりめー当たり前だろ大馬鹿野郎」

 ごちそうさまにはまだはやい。胃もたれに苦しむ相手に追撃デザートも。腹を抱えてうずくまる相手の頭を掴み、ベッドのヘッドボードへ打ちつけたらば、アルミパイプ食器がカーンと甲高い音をたてる。スラムはいつでも弱肉強食。マナーを気にする暇なんか無い。

「っつ……!」

 後頭部をさすり起きあがる男は顔を赤くしてご立腹アングリー
 男にとって、ガキが集まり金貸しをしてるという噂は空腹ハングリーな私腹にネギを背負ってやってきた弱肉カモだったんだろう。
 借した金は娯楽と化したか。ベッドの周囲にはいくつもの酒、つまみ、煙の出る葉。満腹で一服はさぞや至福に違いない。転がる酒瓶は至高の嗜好品だとひと目で分かる高級ブランドのブランデー。

「この、クソガキ!」
 男は怒声で喚き散らし、豪勢な酒瓶を掴み振りあげる。そのうしろから、
 
「そこまでだ。借りた金を返さないお前が悪い」
 まわり込んでいたデコが、男の手首を掴んで捻る。

「クソッ、もうひとり居たのか!」
「デコ、ここ任せるわ。俺とボコは奥のほうガサってくるから」
「了解です」
 
 マリクとボコは、隠し金や、金のかわりに奪えそうなものを探しに連れ立って家の奥へ。ふたりの背中を見送って、デコは男をベッドから引きずり下ろし、床へ組み敷いた。暴れる男にラストオーダー。握りこぶしを食らわせて、デコはふと、動きをとめた。

「あれ……あんた……」

 男の顔に見覚えがある。
 男のほうはデコのことが分からないらしく、胡乱な目をして怪訝な表情。
 それもそうか。分からないように姿をかえたのだから。と、デコはヒントを口にする。

「花園の経営は順調ですか?」
「あ? あんた客か? おかげさまで細々とやってるよ」

 途端、男はパッと軽快な表情。奥にチラと目を向けて警戒の素振りを見せてから、デコにしか届かないような小声で、

「な、見逃してくんねーか?」
「それはできません。知り合いだろうがコイン一枚でもまけるなというのがウチの方針です」
「そりゃあずいぶん厳しいな? 見逃してくれたら、贔屓してやるぜ? 花園のガキを街頭立ちさせる前に初ものをやってもいいし、身請けしたい女がいりゃ格安で斡旋してやってもいい」

 ニヤと下卑た笑みを披露する男。
 馬乗りで向かい合うデコもにっこりと笑顔を向け、

「すでにひとり貰い受けている。他はいらない」

 丁寧にお断りするため、そっとサングラスを外した。

番外五 END
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro
キャラ文芸
 『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。  しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。  登場する艦艇はなんと57隻!(2024/12/18時点)(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。  ――――――――――  ●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。  ●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。かなりGLなので、もちろんがっつり性描写はないですが、苦手な方はダメかもしれません。  ●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。  ●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。またお気に入りや感想などよろしくお願いします。  毎日一話投稿します。

伊緒さんのお嫁ご飯

三條すずしろ
ライト文芸
貴女がいるから、まっすぐ家に帰ります――。 伊緒さんが作ってくれる、おいしい「お嫁ご飯」が楽しみな僕。 子供のころから憧れていた小さな幸せに、ほっと心が癒されていきます。 ちょっぴり歴女な伊緒さんの、とっても温かい料理のお話。 「第1回ライト文芸大賞」大賞候補作品。 「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にも掲載中です!

せっかく双子で恋愛ゲームの主人公に転生したのに兄は男に妹は女にモテすぎる。

風和ふわ
恋愛
「なんでお前(貴女)が俺(私)に告白してくるんだ(のよ)!?」 二卵生の双子である山田蓮と山田桜がドハマりしている主人公性別選択可能な恋愛ゲーム「ときめき☆ファンタスティック」。 双子は通り魔に刺されて死亡後、そんな恋愛ゲームの主人公に転生し、エボルシオン魔法学園に入学する。 双子の兄、蓮は自分の推しである悪役令嬢リリスと結ばれる為、 対して妹、桜は同じく推しである俺様王子レックスと結ばれる為にそれぞれ奮闘した。 ──が。 何故か肝心のリリス断罪イベントでレックスが蓮に、リリスが桜に告白するというややこしい展開になってしまう!? さらには他の攻略対象男性キャラ達までも蓮に愛を囁き、攻略対象女性キャラ達は皆桜に頬を赤らめるという混沌オブ混沌へと双子は引きずり込まれるのだった──。 要約すると、「深く考えては負け」。 *** ※桜sideは百合注意。蓮sideはBL注意。お好きな方だけ読む方もいらっしゃるかもしれないので、タイトルの横にどちらサイドなのかつけることにしました※ BL、GLなど地雷がある人は回れ右でお願いします。 書き溜めとかしていないので、ゆっくり更新します。 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ、カクヨム、pixivで連載中。 表紙はへる様(@shin69_)に描いて頂きました!自作ではないです!

ソルヴェイグの歌 【『軍神マルスの娘』と呼ばれた女 4】 革命家を消せ!

take
恋愛
 宿敵であった大国チナを下した帝国最強の女戦士ヤヨイの次なる任務は、東の隣国ノール王家にまつわるスキャンダルの陰で進行している王家と政府の転覆を企てる革命家の抹殺であった。  ノール政府の秘密機関の要請で「お雇い外国人アサシン」となったヤヨイは、驚異的な情報収集能力を持ち、神出鬼没のその革命家『もぐら』を誘き出すため、ノール王家と貴族社会に潜入する。  そこで彼女は、愛する幼馴染を一途に思い続け、ただひたすらに彼の帰りを待ちわびる美しい歌姫ノラに出会う。

箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~

白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。 日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。 ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。 目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ! 大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ! 箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。 【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

処理中です...