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外伝(むしろメイン)
番外五 お客様のはなし
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メイン:スラム組 ジャンル:COOL!
****************************************************
立ち並ぶ家屋から漏れ聞こえる、酔っぱらいの呻く声。道の端で倒れ込み、死んでいるんだか寝ているんだかわからない人。転がる酒瓶に、舞う砂塵。
空気に色がついたなら、きっとこのあたりは他より一層薄暗く見えるだろう。
そんな通りにゆらり揺れる、大中小のみっつの影。彼らの呼び名はデコ、ボコ、マリク。最近どこへ行っても噂を聞くようになった、台頭中の金貸しチーム。
不愉快な空気を切りひらき我が物顔で歩んでいた三人は、一軒の家の前でそろって足をとめた。
「ここですか。ボコがひとりで取り立てできない家というのは」
「ああ。ずいぶんグズつきやがるらしい」
忌々しそうにドアを睨めあげ、グルルと鋭い犬歯を剥き出すマリク。その横で、頬にガーゼを貼ったボコがウンウン、ワンワンと首を縦に振る。
「まったく。借りたもんは返すのがあたり前ッスよね」
「あぁ。けど、お前もお前だ。取り立て行って殴られて帰ってくるたぁ情けねー」
「えへ。ボコだけに、ボコボコ? なんつって」
「馬鹿!」
ボコの頭上にげんこつが落ち、ボコン、と飛び散り踊る~☆。
「まったく。ふざけてねーで行くか」
「はい」
「おッス」
部下が頷いたのを確認し、マリクはドアをハイキック。踏み込んだ室内は、このあたりの住宅にしては比較的家具が揃っていて、借りた金を返す余裕が無いようには思えない。こういうところに住んでいるのは、そもそも返すつもりが無いタイプ。
部屋のなかほどにあるベッドから、人の気配が漂っている。
ボコが一直線にベッドへ向かい、丸く膨らんだ毛布をテーブルクロスよろしく引き剥いだ。
「今度こそ金返せ! 借金取りりたーんず!」
パーティのはじまりを告げる、かすれた声の脅し文句。
毛布に包まり眠っていた男が目をさまし、声の主をとらえて刹那。落ち窪んだ瞳が高圧的に歪む。
「お前、また来たのか。何度来たって同じだ。金は返さな」
「ふざけんじゃねぇコラ!」
男が全て言い終わる前に、ボコのうしろからマリクが飛び出した。
そのままのスピードで男に膝蹴りの朝食を。寝起き一発目の重い一撃、みぞおち目掛けて、召し上がれ!
「俺らがガキだからって舐めてんじゃねーぞオイ。借りたもんは返すのがたりめーだろ大馬鹿野郎」
ごちそうさまにはまだはやい。胃もたれに苦しむ相手に追撃も。腹を抱えてうずくまる相手の頭を掴み、ベッドのヘッドボードへ打ちつけたらば、アルミパイプがカーンと甲高い音をたてる。スラムはいつでも弱肉強食。マナーを気にする暇なんか無い。
「っつ……!」
後頭部をさすり起きあがる男は顔を赤くしてご立腹。
男にとって、ガキが集まり金貸しをしてるという噂は空腹な私腹にネギを背負ってやってきた弱肉だったんだろう。
借した金は娯楽と化したか。ベッドの周囲にはいくつもの酒、つまみ、煙の出る葉。満腹で一服はさぞや至福に違いない。転がる酒瓶は至高の嗜好品だとひと目で分かる高級ブランドのブランデー。
「この、クソガキ!」
男は怒声で喚き散らし、豪勢な酒瓶を掴み振りあげる。そのうしろから、
「そこまでだ。借りた金を返さないお前が悪い」
まわり込んでいたデコが、男の手首を掴んで捻る。
「クソッ、もうひとり居たのか!」
「デコ、ここ任せるわ。俺とボコは奥のほうガサってくるから」
「了解です」
マリクとボコは、隠し金や、金のかわりに奪えそうなものを探しに連れ立って家の奥へ。ふたりの背中を見送って、デコは男をベッドから引きずり下ろし、床へ組み敷いた。暴れる男にラストオーダー。握りこぶしを食らわせて、デコはふと、動きをとめた。
「あれ……あんた……」
男の顔に見覚えがある。
男のほうはデコのことが分からないらしく、胡乱な目をして怪訝な表情。
それもそうか。分からないように姿をかえたのだから。と、デコはヒントを口にする。
「花園の経営は順調ですか?」
「あ? あんた客か? おかげさまで細々とやってるよ」
途端、男はパッと軽快な表情。奥にチラと目を向けて警戒の素振りを見せてから、デコにしか届かないような小声で、
「な、見逃してくんねーか?」
「それはできません。知り合いだろうがコイン一枚でもまけるなというのがウチの方針です」
「そりゃあずいぶん厳しいな? 見逃してくれたら、贔屓してやるぜ? 花園のガキを街頭立ちさせる前に初ものをやってもいいし、身請けしたい女がいりゃ格安で斡旋してやってもいい」
ニヤと下卑た笑みを披露する男。
馬乗りで向かい合うデコもにっこりと笑顔を向け、
「すでにひとり貰い受けている。他はいらない」
丁寧にお断りするため、そっとサングラスを外した。
番外五 END
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立ち並ぶ家屋から漏れ聞こえる、酔っぱらいの呻く声。道の端で倒れ込み、死んでいるんだか寝ているんだかわからない人。転がる酒瓶に、舞う砂塵。
空気に色がついたなら、きっとこのあたりは他より一層薄暗く見えるだろう。
そんな通りにゆらり揺れる、大中小のみっつの影。彼らの呼び名はデコ、ボコ、マリク。最近どこへ行っても噂を聞くようになった、台頭中の金貸しチーム。
不愉快な空気を切りひらき我が物顔で歩んでいた三人は、一軒の家の前でそろって足をとめた。
「ここですか。ボコがひとりで取り立てできない家というのは」
「ああ。ずいぶんグズつきやがるらしい」
忌々しそうにドアを睨めあげ、グルルと鋭い犬歯を剥き出すマリク。その横で、頬にガーゼを貼ったボコがウンウン、ワンワンと首を縦に振る。
「まったく。借りたもんは返すのがあたり前ッスよね」
「あぁ。けど、お前もお前だ。取り立て行って殴られて帰ってくるたぁ情けねー」
「えへ。ボコだけに、ボコボコ? なんつって」
「馬鹿!」
ボコの頭上にげんこつが落ち、ボコン、と飛び散り踊る~☆。
「まったく。ふざけてねーで行くか」
「はい」
「おッス」
部下が頷いたのを確認し、マリクはドアをハイキック。踏み込んだ室内は、このあたりの住宅にしては比較的家具が揃っていて、借りた金を返す余裕が無いようには思えない。こういうところに住んでいるのは、そもそも返すつもりが無いタイプ。
部屋のなかほどにあるベッドから、人の気配が漂っている。
ボコが一直線にベッドへ向かい、丸く膨らんだ毛布をテーブルクロスよろしく引き剥いだ。
「今度こそ金返せ! 借金取りりたーんず!」
パーティのはじまりを告げる、かすれた声の脅し文句。
毛布に包まり眠っていた男が目をさまし、声の主をとらえて刹那。落ち窪んだ瞳が高圧的に歪む。
「お前、また来たのか。何度来たって同じだ。金は返さな」
「ふざけんじゃねぇコラ!」
男が全て言い終わる前に、ボコのうしろからマリクが飛び出した。
そのままのスピードで男に膝蹴りの朝食を。寝起き一発目の重い一撃、みぞおち目掛けて、召し上がれ!
「俺らがガキだからって舐めてんじゃねーぞオイ。借りたもんは返すのがたりめーだろ大馬鹿野郎」
ごちそうさまにはまだはやい。胃もたれに苦しむ相手に追撃も。腹を抱えてうずくまる相手の頭を掴み、ベッドのヘッドボードへ打ちつけたらば、アルミパイプがカーンと甲高い音をたてる。スラムはいつでも弱肉強食。マナーを気にする暇なんか無い。
「っつ……!」
後頭部をさすり起きあがる男は顔を赤くしてご立腹。
男にとって、ガキが集まり金貸しをしてるという噂は空腹な私腹にネギを背負ってやってきた弱肉だったんだろう。
借した金は娯楽と化したか。ベッドの周囲にはいくつもの酒、つまみ、煙の出る葉。満腹で一服はさぞや至福に違いない。転がる酒瓶は至高の嗜好品だとひと目で分かる高級ブランドのブランデー。
「この、クソガキ!」
男は怒声で喚き散らし、豪勢な酒瓶を掴み振りあげる。そのうしろから、
「そこまでだ。借りた金を返さないお前が悪い」
まわり込んでいたデコが、男の手首を掴んで捻る。
「クソッ、もうひとり居たのか!」
「デコ、ここ任せるわ。俺とボコは奥のほうガサってくるから」
「了解です」
マリクとボコは、隠し金や、金のかわりに奪えそうなものを探しに連れ立って家の奥へ。ふたりの背中を見送って、デコは男をベッドから引きずり下ろし、床へ組み敷いた。暴れる男にラストオーダー。握りこぶしを食らわせて、デコはふと、動きをとめた。
「あれ……あんた……」
男の顔に見覚えがある。
男のほうはデコのことが分からないらしく、胡乱な目をして怪訝な表情。
それもそうか。分からないように姿をかえたのだから。と、デコはヒントを口にする。
「花園の経営は順調ですか?」
「あ? あんた客か? おかげさまで細々とやってるよ」
途端、男はパッと軽快な表情。奥にチラと目を向けて警戒の素振りを見せてから、デコにしか届かないような小声で、
「な、見逃してくんねーか?」
「それはできません。知り合いだろうがコイン一枚でもまけるなというのがウチの方針です」
「そりゃあずいぶん厳しいな? 見逃してくれたら、贔屓してやるぜ? 花園のガキを街頭立ちさせる前に初ものをやってもいいし、身請けしたい女がいりゃ格安で斡旋してやってもいい」
ニヤと下卑た笑みを披露する男。
馬乗りで向かい合うデコもにっこりと笑顔を向け、
「すでにひとり貰い受けている。他はいらない」
丁寧にお断りするため、そっとサングラスを外した。
番外五 END
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