上 下
13 / 26
第1章 結婚しよう

第12話 腕のいい神官さんでも俺の性根は治せないようです

しおりを挟む
 シンシアとブラウンが山賊達を連れて行っていることなどつゆ知らず、俺は山賊を倒したそのままの足で俺の家があるドラゴンロード領の隣に位置する、エウレカ領に行っていた。
 エウレカ領には大きな教会があるため、今からそこで《状態異常回復》の魔法を掛けてもらおうと思っている。
 気持ち悪いし最近思考がクズくなっている気がするから浄化してもらおうってわけだ。

「久しぶりのエウレカ領だなぁ……半年は引き籠もっていたから外にも出てなかったし」

 俺は検問に並びながらそう呟く。

 この領は兎に角信徒が多いんだよな……。
 イコール俺の敵がわんさかいると言うわけで、なるべく行きたくないんだよ。
 あの宗教は全引きこもりにとっては神じゃなくて悪魔だからな。

 真面目に働けとか強制するなよな。
 それに真面目に働けば神が救ってくれるとかさ。
 まるでニートに人権がないみたいじゃないか。
 まぁ親父にも学園の教師にもそう言われたけど。
 くッ……女神教め……全大人を洗脳しやがって……。
 いつか必ず抗議してやるからな……!
 ついでにニートの人権も取り戻してやる。

 そんな事を考えていると、ふとあることに気付いた。
 俺の街は出禁になるほど知れ渡っていたけど、この街にはまだ何も知られていないのか?
 それとももしかしてもう既に此処にいるのか……親父の手先が……?
 でもそれにしては検問は前と変わらないもんな。
 でもこの街にも親父の手先がいるかも知れないし、気をつけておこう。
 俺が少し警戒心を上げていると、とうとう俺の番になった。
 俺は社交界で習得した作り笑顔で少しキャラも変えて対応する。

「次!」
「はい、ハルトです! これが冒険者ライセンスです」
「ん? …………よしこれなら大丈夫だろう。それにしてもその歳でB級とは凄いな。頑張れよ」
「はい! ありがとうございました!」
 
 俺は柔かな笑顔を絶やさず門を通る。
 そしてその瞬間に笑顔を引っ込める。

「はぁ……この笑顔もう2度と使わんと思っていたが意外なところで役に立ったな。これも全部母さんのお陰せいだな」

 まだ俺が10にも満たない頃は散々社交界で浮かないようにこう言ったものを叩き込まれたからな。
 
 あの時からそう言えば鬼の兆候を持っていたな母さん……。
 俺や妹が疲れて笑顔を絶やしたら、物凄い不気味な笑顔を浮かべてこう言うのだ。

『あら? 2人ともお顔が崩れているわよ? やらないと言うなら跡形が無くなるまで崩してあげましょうか?』

 ってね。
 もう怖すぎだよ。
 だから俺と妹は2人で抱き合いながら恐怖の笑みを浮かべるんだ。
 あの時は妹がいたから良かったけど、居なかったらちびってたかも。
 学園時代に何度もモンスターとやり合ってきたけどあれほど怖かったことなど未だかつて一度もない。
 ついこの前倒した黒竜は第5位くらいかな?
 1番から3番は全部母さんだ。
 多分この順序は妹も同じのはず。

 弟は俺と違ってめちゃくちゃいい子だから、母さんに怒られたことないんだよな。
 あ、勿論妹もめちゃくちゃ可愛くていい子だよ?
 ただ俺を慕い過ぎて俺と同じことするから怒られるんだけど。
 俺なんて自分で言うのも何だが穀潰しなんだけどな。

 俺が昔のことを懐かしく思いながら大勢の人混みの中を歩いていく。
 この街は——いや都市と言えるかもしれない——は俺たちの領よりも土地面積は2回りほど小さいものの、人口は1.5倍以上いる。
 何故かと言うと……

「へいらっしゃい! おお、イケメンのにいちゃん! ウチの串焼き食わねぇか!? ウチの串焼きはこの街でも随一の味だぞ!」
「いらっしゃいませぇ~! そこのカッコいいお兄さん~私たちの店でお洒落にならない~?」

 このように商業が盛んなのだ。
 ここには大陸のほぼ全てのものが手に入ると言われるほどである。

 まぁ俺はこの、人がごった返す感じが大嫌いで殆ど行ったことないけどな。
 だって人が多いと居るだけで気持ち悪くなるし嫌じゃない?
 あと人が多いとよく擦られるし。

 まぁ取り敢えず今は置いておこう。
 ちょうど教会が見えてきたところだからな。
 相変わらず教会は——城みたいにデカい。
 いや流石に王都の城ほどではないにしろ、ウチの家より断然デカい。
 俺の家は貴族の中でも最大級の大きさなんだけどな。
 多分100部屋くらいあると思うぞ。
 それよりも大きいとなると、どれだけデカいかがよく分かる。

「む、無駄に金かけてるなぁ……。これが全部献金で賄われているって化け物だなぁ……」
「あら、化け物なんて酷いじゃないですかレオン君」

 俺がボソッと独り言のつもりで呟いた言葉に謎の女が反応するではないか。
 しかも俺の名前まで知っている。
 こんなの俺が知っている中で1人しかいない。

「急に耳元で囁かないで下さいよ、フィリアさん」

 俺は後ろを振り向きながらそう言う。
 そこにはシスター服を着た1人の美女がいた。

「あら、なら先程のような言葉は言ってはいけませんよ? 信者の皆さんの信仰心の象徴なのですからね?」
「…………」

 よく言うよなこの魔女。
 この街の信者の大半はあんたに気に入られるためだと俺は知っているんだからな。
 
「私は魔女ではありませんよ? 巷では聖女様と呼ばれているのですよ?」
「うわっ……猫被りが激しいですねフィリアさん」
「五月蝿いですよ。そんなこと言うなら貴方のお父様に報告しますよ? レオン君がエウリカ領の教会にいますってね?」
「ごめんなさいどうか言わないで下さい。取り消しますフィリア様はこの世で最高の慈愛の聖女様です」

 俺は速攻謝る。
 最近誤ってばかりな気がするが、弱みを握られている以上しょうがないのだ。

「ふふっ、分かってくれたのならいいです。それで——家出をしたレオン君が一体何をしにきたのですか?」

 まさしく聖女の様な慈愛に溢れた笑顔でそう問うてくるフィリアさん。
 これが純粋な本当に慈愛に溢れた笑顔ならよかったんだけどな。

 俺がそんなことを思った瞬間笑顔の質が変わって氷点下の笑顔に変わった。

「今———何と考えていましたか?」 
「いやいや何でもないですよ!? 今回はフィリアさんに———でもなくていいので《状態異常回復》を掛けて貰いにきました」

 俺がそう言うとフィリアさんは不思議そうに首を傾げる。
 そして何か思い付いたのか、『ああ』とポンと手を打つと、全くの的外れな事をズバッと言いやがった。

「貴方の性根は《状態異常回復》でも治りませんよ? 私は騎士団入団をお薦めします。そうすればその引き篭もり癖も嫌でも治るでしょう」
「いやそれじゃないですよ!? 最近ストレスが溜まっているので心を落ち着かせて貰いにきただけです! あと騎士団は絶対に嫌です!」

 やっぱり酷いなこの似非聖女。
 それに俺の性根は正常なんですぅ!
 あんた達がおかしいんですぅ!
 騎士団はどいつもこいつもムキムキばかりらしいから絶対に行きたくない。

「……何だそう言うことでしたか。なら早くきてください。とっとと掛けて終わりますので」

 猫被ることなど全く忘れたかのような口調でそう言うと、教会の中に入っていくフィリアさん。
 俺はそんな彼女の後ろ姿を見ながら判断する。

 ———この人と結婚は無理だな———と。

 中々結婚相手が見つからないなぁ……と虚しくなりながら、フィリアさんの後を追って境界に入った。


-------------------------
 お気に入り登録よろしくお願いします。
 作者のモチベーションに繋がります。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...