上 下
3 / 12

その3。「予想外の出来事が起きたんですけど」

しおりを挟む
 俺は唐突に言われた「お前は私専属のパシリ」宣言に一瞬反応が遅れてしまう。
 しかし何とか復活して言葉を絞り出す。

「そ、それで私は何をすれば良いのですか……?」
「なんで男なのにわたしっていうの? ふつうにしなさいよ、きもちわるい」

 ふぅ……ふぅ……落ち着けセーヤ、お前は年上だろ。
 こんなガキの言葉に一々キレてたらキリがないぞ。

 俺はイライラを必死に抑えて笑顔を作る。

「そ、それでは次からは『僕』と呼ばせて頂きますね」
「そうしなさい」

 …………。

「それではこんな外では何なので、中に入りましょうかっ!?」

 俺が必死に怒りを堪えていると、セイドが少し慌てた口調で家へと招き入れた。
 そしてセイドがシンシアに見えない位置で俺の方を向くと、「よく堪えました」とでも言う様にグッと親指を立てる。

 …………悪役令嬢が帰ったら絶対にモンスター退治を了承させてやるぞ。

 俺はそう心に誓って皆を追いかけた。







「ふーん、ここがセーヤの部屋なのね……けっこうキレイじゃない」
「見習いですが執事ですので。自分の部屋すら片付けられない奴が執事になれないと師匠に口煩く言われております」
「あっそ」

 わざわざ丁寧に対応してやっているのに「あっそ」とはなんだ「あっそ」とは。
 と言うか何でコイツが俺の部屋に居るんだよ……。

 全ての原因は師匠であるセイドだ。
 セイドがシンシアに俺の部屋に行く様に勧めた。
 何故かは全く分からないが、流石に厄介払いとかじゃ無いよな?
 ……違うはず。

 俺が心の中でセイドを忌々しく思っていると、シンシアが突然俺のベッドにダイブした。

「———シンシア様!?」
「あーつかれたわ……家ではママとパパが煩くてたいへんなのよね……。それにしても中々気持ちいいわねこのベッド」

 ……どうやらこの尊大な悪役令嬢も色々と苦労しているらしい。
 まぁ次期王太子の婚約者なんだし当然だよな。  
 どうせ婚約破棄されるけど。

「———セーヤ! わたしをむしするとはいいどきょうねっ!」
「し、シンシア? す、すいません……少々考え事をしておりまして……なんでしょうか?」
「アンタはこのわたしと、きっちりとしたおしとやかな私、どちらがいいと思う?」

 俺はそう訊かれて言葉が詰まる。

 いや、まだ会って数十分も経ってないのになんて事訊いてくるんだよ。
 と言うかそれを子供が訊くことか?

 しかしシンシアは意外にも、先程の様な不敵な笑みを浮かべておらず、何処か影が差したような表情をしていた。
 俺はため息を吐きそうになるのを頭をかくことで抑え、取り敢えず自分が思った事を言う。 

 まだ子供ってことで許してくれるかもしれん。
 こんな事で裁いていたら当主の狭量を疑われるからな。

「……今のままでいいのでは? 僕からしてみれば、今からお淑やかになられれば逆に気味悪いですし」

 言ってやった……言ってやったぞ……!
 さて、どんな罵詈雑言が来るか。
 
 俺が少し恐れてビクビクしながらも身構えていると、意外にも暴言は襲って来なかった。
 俺が不思議に思い、ゆっくり顔を上げてみると……。

「………………え?」

 ポカンと口を半開きにして、貴族の令嬢がしてはいけないような呆けた顔を晒していた。
 
 ……いや………………え?

 俺もきっと同じ様な顔をしていたかもしれない。
 

 


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

揚げ物、お好きですか?リメイク版

ツ~
ファンタジー
揚げ物処「大和」の店主ヤマトは、ひょんな事から、エルフの国『エルヘルム』へと連れて来られ、そこで店をひらけと女王に命令される。 お金の無いヤマトは、仲間に助けられ、ダンジョンに潜って、お金や食材を調達したり、依頼されたクエストをこなしたり、お客さんとのふれ合いだったり……と大忙し? 果たして、ヤマトの異世界生活はどうなるのか?! 

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

薄幸召喚士令嬢もふもふの霊獣の未来予知で破滅フラグをへし折ります

盛平
ファンタジー
 レティシアは薄幸な少女だった。亡くなった母の再婚相手に辛く当たられ、使用人のように働かされていた。そんなレティシアにも幸せになれるかもしれないチャンスがおとずれた。亡くなった母の遺言で、十八歳になったら召喚の儀式をするようにといわれていたのだ。レティシアが召喚の儀式をすると、可愛いシマリスの霊獣があらわれた。これから幸せがおとずれると思っていた矢先、レティシアはハンサムな王子からプロポーズされた。だがこれは、レティシアの契約霊獣の力を手に入れるための結婚だった。レティシアは冷血王子の策略により、無惨に殺される運命にあった。レティシアは霊獣の力で、未来の夢を視ていたのだ。最悪の未来を変えるため、レティシアは剣を取り戦う道を選んだ。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

処理中です...