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翌日、その話を橙子にすると実にあっさりとした答えが返ってきた。
「バイトじゃなくてその蒼翠って中華料理屋さんの息子さんじゃないの? 息子さんならテスト期間中であってもお店を手伝うこともあるかもしれないし」
「そうか」
「シンプルに考えたらそう考えるのが普通じゃない? 推理の必要なし」
「確かに」
「それに若葉と別れるまでは制服で、そのお店を出てきたときは私服だったんでしょ?」
「うん。そうだった」
しかもエプロンをつけていた。
「着替えをバイト先に置いておくとかあるかもしれないけど、まあそこの家の息子さんだと考えるのが妥当よね。李先輩って、家庭科専攻のしかも食物コースでしょ?」
「そうそう」
若葉は頷いた。
「だったらなおさらじゃない。料理に興味のある男性が世の中に全くいないわけではないけど、それでも食物コースを専攻する男子生徒は少ないから」
「そうだよね。私たちのクラスもまだ専攻が分かれてないけど男子三分の一くらいだよね」
男子生徒も学園に入学すれば、家庭科専攻の食物コースか被服コース、または芸術科専攻の美術コースか工芸コースを二年時には選択しなければならない。
どちらかというと男子生徒は物づくりに興味がある場合が多いこともあって、工芸コースを専攻する男子生徒が多い。
総じて入学する半数以上の男子生徒は芸術科専攻で入学する。家庭科専攻は三分の一以下だ。
(別にどうでも良いけど、ママのお店に顔を出すたびに緊張するのも嫌だし、今度はっきり聞いてみよう。それにママの店に出入りする姿を何かしら誤解されても困るし、私のこともはっきり伝えよう)
若葉はそう思った。
「でも若葉、だとしたら李先輩のためにももう少し色染師のバイト減らしてあげたらどう?」
「なんで?」
「なんでって……」
橙子は呆れた顔をした。
「ただでさえ学校の勉強や進学するなら進学向けの勉強もあるのに、お店の手伝いまでしてるとしたら、色染師もってなるとかなりきついんじゃないの? よく毎日、早朝と放課後若葉につきあってくれてるわよね?」
「うっ……」
そういえば、バイト代が稼げるから李先輩もいいだろうと自分のことばかり考えていたが、蒼騎からしたらかなり迷惑な後輩だったかもしれない。
若葉は橙子の指摘から、今さら蒼騎に対して申し訳なく思ってしまった。
(私、自分のことばっかり考えてた)
「李先輩だけじゃなくて、家族や周りの人たちにもちゃんと感謝してる?」
「感謝?」
「そう感謝。高校入学できて星読みの勉強もできて色染師もできてるのは、周りの人たちが理解し助けてくれてるからよね?」
橙子は諭すように若葉に話しかけてきた。
その顔はとても同い年とは思えない。
急に大人びている。
(本当に私と同い年なのかな?)
若葉は何度目になるのか、橙子に対してそう思った。
だが橙子の言うことはしごくもっともで当たり前だった。
蒼騎に対してもそうだが、この高校に入学させてくれた父にも全く感謝してなかったことを思いやった。
もしかしたら、感謝してるつもりだったけど、ママにも感謝していなかったかもしれない。
「ようやく周りの人たちのありがたみがわかったところで、一時間目は日本史だけど何も覚えなくても良いの?」
「あ、うん、それは大丈夫。日本史は色染師の歴史でもあるから、そことからめたら出来事も年号も大体覚えられた」
「相変わらずそこだけは素晴らしい才能ね」
「まあね」
橙子に褒められて満更でもない顔をする。
魔法使いになることに関しては、異常な特技もしくは才能を発揮するのが新堂若葉だった。
「バイトじゃなくてその蒼翠って中華料理屋さんの息子さんじゃないの? 息子さんならテスト期間中であってもお店を手伝うこともあるかもしれないし」
「そうか」
「シンプルに考えたらそう考えるのが普通じゃない? 推理の必要なし」
「確かに」
「それに若葉と別れるまでは制服で、そのお店を出てきたときは私服だったんでしょ?」
「うん。そうだった」
しかもエプロンをつけていた。
「着替えをバイト先に置いておくとかあるかもしれないけど、まあそこの家の息子さんだと考えるのが妥当よね。李先輩って、家庭科専攻のしかも食物コースでしょ?」
「そうそう」
若葉は頷いた。
「だったらなおさらじゃない。料理に興味のある男性が世の中に全くいないわけではないけど、それでも食物コースを専攻する男子生徒は少ないから」
「そうだよね。私たちのクラスもまだ専攻が分かれてないけど男子三分の一くらいだよね」
男子生徒も学園に入学すれば、家庭科専攻の食物コースか被服コース、または芸術科専攻の美術コースか工芸コースを二年時には選択しなければならない。
どちらかというと男子生徒は物づくりに興味がある場合が多いこともあって、工芸コースを専攻する男子生徒が多い。
総じて入学する半数以上の男子生徒は芸術科専攻で入学する。家庭科専攻は三分の一以下だ。
(別にどうでも良いけど、ママのお店に顔を出すたびに緊張するのも嫌だし、今度はっきり聞いてみよう。それにママの店に出入りする姿を何かしら誤解されても困るし、私のこともはっきり伝えよう)
若葉はそう思った。
「でも若葉、だとしたら李先輩のためにももう少し色染師のバイト減らしてあげたらどう?」
「なんで?」
「なんでって……」
橙子は呆れた顔をした。
「ただでさえ学校の勉強や進学するなら進学向けの勉強もあるのに、お店の手伝いまでしてるとしたら、色染師もってなるとかなりきついんじゃないの? よく毎日、早朝と放課後若葉につきあってくれてるわよね?」
「うっ……」
そういえば、バイト代が稼げるから李先輩もいいだろうと自分のことばかり考えていたが、蒼騎からしたらかなり迷惑な後輩だったかもしれない。
若葉は橙子の指摘から、今さら蒼騎に対して申し訳なく思ってしまった。
(私、自分のことばっかり考えてた)
「李先輩だけじゃなくて、家族や周りの人たちにもちゃんと感謝してる?」
「感謝?」
「そう感謝。高校入学できて星読みの勉強もできて色染師もできてるのは、周りの人たちが理解し助けてくれてるからよね?」
橙子は諭すように若葉に話しかけてきた。
その顔はとても同い年とは思えない。
急に大人びている。
(本当に私と同い年なのかな?)
若葉は何度目になるのか、橙子に対してそう思った。
だが橙子の言うことはしごくもっともで当たり前だった。
蒼騎に対してもそうだが、この高校に入学させてくれた父にも全く感謝してなかったことを思いやった。
もしかしたら、感謝してるつもりだったけど、ママにも感謝していなかったかもしれない。
「ようやく周りの人たちのありがたみがわかったところで、一時間目は日本史だけど何も覚えなくても良いの?」
「あ、うん、それは大丈夫。日本史は色染師の歴史でもあるから、そことからめたら出来事も年号も大体覚えられた」
「相変わらずそこだけは素晴らしい才能ね」
「まあね」
橙子に褒められて満更でもない顔をする。
魔法使いになることに関しては、異常な特技もしくは才能を発揮するのが新堂若葉だった。
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