【完結】色染師

黄永るり

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封滅

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 この鎌倉市内には鎌倉の御方様と央色おうしき一門の色染師たちによって強固な結界が張られていて、大物の色魅たちは絶対に入ってこれないようにしている。
 ただし、色染師のタマゴたちの練習用に、ランク分けされた小物の色魅だけは入れるようにしている。
 それもわかりやすく鎌倉市内に限定している。
 
 その中でも寺社仏閣に出現する色魅はそこそこレベルが高く、そして封滅の単価も高くなっている。
 四月は寺社仏閣レベルは挑戦できないのだが、一定の封滅数があれば五月からは申請できるのだ。

 最近、慣れてきたのか徐々に寺社仏閣に出現する色魅を中心に若葉は狙っていた。
(今日はいくつ申請したんだろう?)
 少なくとも一体ではないはずだ。
 蒼騎はそう思いながら、前を歩く若葉の背中を見つめる。
 放課後は平均三体がここ最近のセオリーだった。

 JR鎌倉駅から一駅で北鎌倉駅につく。
 ホームの反対側にわたって、円覚寺や建長寺が立ち並んでいるほうへと降りていく。
 閉門前だからか、観光客の姿はまばらになっていた。

 山門からまっすぐ進んでいき、舎利殿の手前にある佛日庵に入っていく。
 ここは普段ならお抹茶と干菓子もいただける参拝者の休息所のような場所になっている。
 しかし、ここには入り口の係の人だけで中には誰もいなかった。

 蒼騎の合図で右奥の建物を見ると、そこの桜の木の下に色魅がいる気配がした。
 若葉はそっと石の階段を上がって反対側に回った。
 桜はもうだいぶ散っていて葉桜になっていた。
 蒼騎が周囲を見回して、あたりに人気がないことを確認すると、校章裏のポケットから白い札を取り出すと右ひざを地面について、両手で押し当てるように五色の札を地面につける。

「清められし約束されし大地よ、その力で我とこの寺域を包み込め」
 そう口の中で呟くと、一瞬両手から発生した光が波となって佛日庵を含む円覚寺の境内全てを包み込んだ。
 周辺から人間だけでなく生き物の気配自体が完全に消えた。

 立ち上がると蒼騎が胸の前で静かに印を組む。
 左胸にある制服の校章の上を右手で軽く撫でると蒼色の札が出てきた。
 それを一閃すると、そのまま同じ色の刀に変じた。
 刀を静かに構えた。
 獲物を挟んで小路の向こうに若葉が姿を現した。

 若葉も印を組んで校章から、ではなく胸ポケットから五色の札を取り出した。
 本部から支給される五色の札は、色魅の動きを封じたり色々なことに仕える便利な札だ。
「清められし大地よ、この札と我に力を貸せ」
 五色に染められた札がするすると地面をはった。

「古からの色魅を封ぜよ!」
 桜の木の下にいた色魅が気づいた時には、すでに地面からの黒い光にからめとられた。
 必死に暴れるが暴れれば暴れるほど、五色の光が色魅の身にくいこんで五色に染まっていく。
 そこに蒼騎が飛び上がって鋭く上段から刀を振り下ろした。
 断末魔を空へ放った色魅は、黒い光にくるまれると、蒼騎が手に持っていた白色の札に吸い込まれていった。
 蒼騎は濃い青色に変じた札を上着の内ポケットに入れると、刀を札に変えて校章に同化させた。
 そして、地面を撫でて結界を解除した。
 
 再び周辺に人の気配がよみがえってくる。
「新堂」
「はい?」
「俺の補助ばかりで正直飽きてきただろ?」
 その方面から蒼騎はさりげなく若葉のやる気を削ごうとする。
 意図的に。
 四月は先輩の戦い方を見ながら、札の扱い方は授業の一環として学ぶ。
 そして慣れてきたこの五月から先輩の補助をしながら封滅する。
 逆に一年生が主体となって封滅する実戦練習ができるようになるのは、六月からとなっている。

「大丈夫ですよ。六月までもうすぐじゃないですか」
 若葉はニコニコしながら振り返った。
「だけど、その前に中間テストがあるよな?」
「そうなんですよねえ」
 途端にそれまで明るかった若葉の顔が暗くなる。
 テスト期間三日前くらいからとテスト期間中は、色染師の活動もそうだが通常のバイトや部活動も休止となる。
 稼ぎ時が減ってしまう若葉からしたら非常に困りものだ。
 しかし、校則で禁止されているのだからこればかりはどうしようもない。

(よしよし、止める気になったかな?)
 蒼騎がそう思ったのも束の間。
 若葉は首を振って、自分の頬を軽くたたいた。
「それより先輩、次、行きますよ!」
「あ、ああ……」
「六月から私も先輩のように色名刀が振るえるように、体育の授業で剣道頑張ってますから、その辺りは心配しないでください!」
「してねーって!」
 そしてまた蒼騎はため息をついた。

 何を言っても変わらないし、まっすぐに一人前の色染師を目指している。
が卒業してから去年はほどほどでちょうど良かったのに。まさかの再来みたいなのと組むことになるとは……)
 寺の瓦屋根の向こうに沈んでいく太陽を恨めしそうに見上げながらそう思った。
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