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国境廃止

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 翌朝、スーリヤ村は不思議な静けさの中にあった。
 アランカーラはマンダナとともに、村の西側の宿でしばらく待機することになった。
 シャストラは駐留していたダルシャナ兵を三つに分けた。
 三分の一は西側にアランカーラとともに行かせ、三分の一を東側、特にドラヴィダの国境側に見張りとして配置させた。
  そして残りの三分の一は、自分たちの命令を即時遂行させるために側に置いた。
  
「じいや、パタ、両方の村の主だった者たちは集められた?」
「御意」
 両方の村の者たちと言っても、ドラヴィダが勝手に分断しただけで、元々はスーリヤ村に東西などなかったのだ。
 だから東西に分かたれたといっても総じて村人たちは仲が良く、特に東側の村人たちは裏では長を通じてちゃんとダルシャナ人としてシャストラたちと連絡を取り合っていたため、いつか村は元通り一つになると思っていた。
 
 広場には東西に分かたれた村の大半の男たちが集まっていた。
「スーリヤ村の者たちよ、これよりシャストラ王子さまからお話がある。心して聞くように」
 マルガの呼びかけに、男たちは神妙な顔で頷いた。
「皆には長らく苦労をかけてしまいすまなかった。全ては私と父上の不徳の致すところであった。なんとも情けない親子が主で申し訳ない」
 まずは真摯に頭を下げた。

 幼さの残る顔立ちではあったが、その顔と相反するような話し方はいずれ王位を継ぐ者として育てられていたからなのだろう。
 村人たちは率直に詫びの言葉を述べただけでなく、こだわりなく頭まで下げた王子の姿に驚愕した。

「お止め下さい。王子さま!」
「そうです。頭をお上げ下さい」
 口々にそう言って、村人たちは恐縮した。

「いや、私はこんなに、十年もの長い間村を分割させて、母上までもいいように軟禁されてしまった。ダルシャナ王家いや、この国にとってこれ以上の屈辱はなかった」
 シャストラの顔が苦しげに歪んだ。

 病に倒れた父王の見舞いに訪れたドラヴィダの王に、行きがけの駄賃とばかりに王宮を出て散歩していたアランカーラをさらわれ、スーリヤ村を勝手に分割された。
 それから十年の歳月が流れてしまった。
 十年前の幼かった当時のシャストラにはどうすることもできず、ただ母を思って泣くだけだった。

「しかし、ようやく協力者を得て、村を完全に取り戻すことが出来た」
 十年かけて、ひたすら機会を伺っていたのだ。
「皆、ありがとう。今日よりこの村までがダルシャナ領だ。この広場には、昨日クティーが描いてくれた大地の神の結界がある。これでしばらくはこの村に住みつけるのはダルシャナの民のみとなった。もし、今後ドラヴィダの王が軍を引き連れてきても、決して国境を越えて村には入って来れないだろう。だから安心してくれ。安心してでいてくれ」
「わかっております。この村の者の使命はそのことにつきますゆえ」
「頼む」
 今度は軽く頭を下げた。

「ではこれより皆に最初に頼むことは、村内にある国境線の撤廃だ。皆で元の一つのスーリヤ村に戻そう。駐留していた兵士たちにも協力させる」
「はい!」
「じゃあ、皆、行きましょう!」
 パタが両手を振って合図すると、集った男たちとシャストラの側にいた兵士たちがパタの後をついて行った。

「ではシャストラさま、次はシャストラさまの目的を果たしましょう。そして、王妃さまともどもダルシャナの王都へ帰還致しましょう」
 グラハがそう主を促した。
「ああそうだね。行こう」
「お供いたします」
「わしもついて行こう」
 シャストラの背後から、グラハとマルガがついていった。
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