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後宮
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嵐のような一日が過ぎた後、ウェランダは三日ほど後宮の一室で寝込んでいた。
アクートの血の臭いと、自分を庇ってくれたアクートへの申し訳なさで、心身ともに深いダメージを負ってしまったのだ。
アクートも特例ということで、後宮でそのまま治療を受けていた。
幸い傷は深くなかったようで、しばらくすれば意識も回復するだろうとの侍医の見立てだ。
一ヶ月ほどで完治するらしい。
「私、大公さまにどうしてもお伺いしたいことがあるのですけど。よろしゅうございますか?」
あの場で傷を負うこともなく、意識を途絶えさえることもなかったルナは後宮の公母の部屋にいた。
ルナは二人が元気になるまでは、と思い、公母に願い出て後宮に留まっていたのだ。
滞在中にバンコから『婚約者殿がそなたを私の館で待っており、大変迷惑だったので丁重にお帰り頂きました』という簡潔明瞭な文が一度届いたくらいで、以後は後宮の外や城下がどうなっているのか、一切の情報はもたらされなかった。
ただ、女官たちの噂話でリアネルは退学処分の上、自国へ強制送還されたということはわかった。
「何だ?」
部屋には、ルナと大公と公母の三人きりだ。
女官や侍女たちはすべて人払いしてあった。
「どうしてあの後継者候補紹介の場で商売だったのでしょうか? 一体、あの商売は本当にウェランダに必要だったのでしょうか?」
「それは……」
「大公さま、教えてくださいませ」
言い難そうな大公に、ずいっと遠慮なくルナは迫った。
「それに、アクートがトバルク五大商家筆頭のデナーロ殿の息子とはどういうことなのでしょうか? 私たち三人の宿舎の割り当ては最初から仕組まれていたのですか?」
容赦のないルナの追及する声。
「そろそろ答えてやったらどうですか?」
公母の助け舟は、なぜかルナにあててのものだ。
「母上」
「身から出たサビでしょう?」
「わかりました。そなたのその顔に迫られると弱いしな」
「?」
観念したような大公は、きちっとルナに視線を合わせると想像すら出来なかった衝撃の事実を語り始めた。
アクートの血の臭いと、自分を庇ってくれたアクートへの申し訳なさで、心身ともに深いダメージを負ってしまったのだ。
アクートも特例ということで、後宮でそのまま治療を受けていた。
幸い傷は深くなかったようで、しばらくすれば意識も回復するだろうとの侍医の見立てだ。
一ヶ月ほどで完治するらしい。
「私、大公さまにどうしてもお伺いしたいことがあるのですけど。よろしゅうございますか?」
あの場で傷を負うこともなく、意識を途絶えさえることもなかったルナは後宮の公母の部屋にいた。
ルナは二人が元気になるまでは、と思い、公母に願い出て後宮に留まっていたのだ。
滞在中にバンコから『婚約者殿がそなたを私の館で待っており、大変迷惑だったので丁重にお帰り頂きました』という簡潔明瞭な文が一度届いたくらいで、以後は後宮の外や城下がどうなっているのか、一切の情報はもたらされなかった。
ただ、女官たちの噂話でリアネルは退学処分の上、自国へ強制送還されたということはわかった。
「何だ?」
部屋には、ルナと大公と公母の三人きりだ。
女官や侍女たちはすべて人払いしてあった。
「どうしてあの後継者候補紹介の場で商売だったのでしょうか? 一体、あの商売は本当にウェランダに必要だったのでしょうか?」
「それは……」
「大公さま、教えてくださいませ」
言い難そうな大公に、ずいっと遠慮なくルナは迫った。
「それに、アクートがトバルク五大商家筆頭のデナーロ殿の息子とはどういうことなのでしょうか? 私たち三人の宿舎の割り当ては最初から仕組まれていたのですか?」
容赦のないルナの追及する声。
「そろそろ答えてやったらどうですか?」
公母の助け舟は、なぜかルナにあててのものだ。
「母上」
「身から出たサビでしょう?」
「わかりました。そなたのその顔に迫られると弱いしな」
「?」
観念したような大公は、きちっとルナに視線を合わせると想像すら出来なかった衝撃の事実を語り始めた。
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