【完結】星が満ちる時

黄永るり

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 トバルクでウェランダが大変なことになっていることを知る由もない星観島ほしみじまの家族は、いつも通り午後から製品作りの作業に取りかかっていた。
 
「おじいさま、父さん、ウェランダから文が届いたわ!」
 ポラが夫と慌てて作業場に入ってきた。
 ちょうど港沿いにある市場に買い物に行って帰ってきたのだ。
 島の役人が管理している文箱を見てきたら、ウェランダからの文が届いていたのだ。
 島では文は、いちいち個人の家に送られることはない。
 そのため、港沿いの市場で文の類をやり取りするのだ。
 出す場合は、国別の集中箱に入れて、受け取る場合は各家の名前が入った箱を見るのだ。
 
「そうか!」
 早速、父が文を開けた。
 その内容に目を走らせる。
「何て書いてあるのですか?」
「元気でおるのか?」
「まあ元気ではいるようだが。なかなか勉強に忙しいようだな」
 ウェランダからの文は、実に簡潔明瞭なものだった。
 挨拶文もそこそこに。

「以下に書いてある月桃の商品を、急いで滞在先のバンコ商会宛に送り届けてくれというものだ」
「え?」
「は?」
「何で?」
「さあ、理由は何も書かれていない」
 父は首を傾げた。

「それ以外はなんと?」
「同級生に田舎者だといじめめられているとか? 商売の勉強は辛いとか? そういうことは書いてない?」
 ポラは自分の時の辛い記憶を思い出した。
「島に帰りたいとか?」
「全く」
 父から文を奪い取ると、ポラは夫と文を隅から隅まで目を走らせた。

「まるで商人からの文だな」
 夫は文面を読んで感心した。

「ええ。まるで商人からの注文書を見ているようだわ」
「はははは! ウェランダらしいわい」
 祖父が大笑した。
「もう一人前の商人気取りじゃの」
「そうですね」
「じゃあポラ、我が家の商人殿に発注通りの数で品物を送ろう」
「は、はい!」
 すぐに荷が必要だというウェランダの要請に、家族全員で応えるのであった。
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