【完結】月の行方

黄永るり

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伝言

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 ルナはふと顔を鉱夫の方に向けた。
「あのそれから、東の太守にお伝え頂きたいことがあるのですが」
「お、おう。なんだ?」
「私は十年前にカルトパンにあるリファンカール王家所有の別荘で暮らしていました」
「王家の別荘に?」
「はい。そこに住んでおられた若さまが、人食い虎から私を救い出して下さいました。若さまは、私がお仕えしていた若さまは『六の君』と呼ばれておいででした」
 正室である王妃の悋気を恐れ、自分の御子に『王子』の称号どころか、名前すら与えなかったリファンカールの先王。
 ゆえに生まれた順に二の君から十の君と呼ばれた子供たちがあの別荘地にはいた。
 名前を得たのは、あの別荘地が火災で焼け落ちた後、リファンカールへ母子ともに赴いた日のことだったそうだ。
 さらに『王子』の称号を得たのは、九人の異母兄弟が四人に減った五年前のことだ。
「若さまは火災で別荘が焼け落ちる時に、母君様をお助けしようと炎の中へ入っていかれました。私も若さまについていこうとしたのですが、止められて、その場である命令を受けました」
「世にも珍しいバイカラートルマリンが欲しいってか?」
「え?」
「土砂に埋まりながらも、必死にその原石を握りしめていたからな」
 ルナは脇の小卓に置いてあった原石を見つめた。
 原石は、淡い青と珊瑚色の二色を有している。
 原石を取り上げ、しっかりと抱きしめた。
 石の波動がルナの魔力を通して伝わってきて、温かい。
「そうです。若さまは、トルマリンの中でも滅多に産出しないとされているバイカラートルマリンが欲しいと仰いました。そのトルマリンこそが、若さまの願いを叶える魔法の石だとも」
 後に知った。
 トルマリンという石には、カルトパンの古語によれば、多色性ということから『多くのものを持つ』という意味があるということ。
「若さまは王になりたかったのだろうと思います」
「あんたはその若さまを探しにきたのか?」
「若さまが四人の太守様のいずれの方なのか、それとも王妃様の試験でお亡くなりになられているのか、私はそれを見極めに来たのでございます。このこと、どうか東の太守様にお伝えください。決して私はノーファート王国の間者ではないことも。そして私の後見人は恐らくその若さまだろうということも」
「……わかった。だが、急に南へ抜けるって言ったってどうするつもりなんだ?」
 戸惑ったような鉱夫の瞳をしっかり見据えながら、ルナはきっぱりとこう言った。
「私を商人に売ってください」
「はあ?」
 ルナの申し出に鉱夫は唖然とした。

 レムリアとユノーによって、東の城では太守に驚愕の報告が届けられた。
 すなわち、カルトパンの預かり人が誤って閉鎖するはずの縦穴に入り込み、生き埋めとなってしまったと。
 遺体は、なにぶん穴の奥深くまで土砂に埋まってしまっているため、救出は困難である。
 太守トゥナルーンは、直ちに東軍を率いて預かり人・ルナの探索にあたった。
 しかし、土砂からの救出は容易ならざるもので、錬金術師候補生の姿が見つかることはなかったと、王弟に報告した。
 レムリアは王都に戻り、とりあえず帰国船が迎えにくるまでは王宮で待機することとなった。

 そして東の太守トゥナルーンが鉱山に到着する少し前。
 明け方にある鉱夫の娘が、疱瘡にかかり、鉱山にほど近い村の診療所に運ばれた。
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