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ノーファート王国の間者
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目覚めるとルナはどこかの狭い部屋に寝かされていた。
「気がついたかい?」
ルナを助けてくれた鉱夫の妻なのだろうか。
中年の女性がルナの目が開いたのを見て、温かいスープを運んできてくれた。
「ここは?」
上半身を起こすが、即座に走る痛みに思わず顔をしかめる。
「大丈夫かい? 無理すんじゃないよ」
「はい」
「骨は折れていないようだったけど、打撲が酷かったみたいだね。鉱山の縦穴から落っこちたんだって?」
「あの、私、どれくらい寝てましたか?」
「昨晩、というか今朝のまだ夜明け前にうちのひとがあんたとその原石を運んできたのさ。何やらわけありそうだからって」
鉱夫は妻にルナを誰にも見せるなと言い聞かせていた。
だから妻は何も聞かず、ルナの傷の手当てと着替えをしてくれていたのだ。
「今はもう夕方だよ。さあ、これをお飲み。もうすぐうちのひとも仕事を済ませて帰ってくるだろうし」
「ありがとうございます」
ルナは黙って皿とスプーンを受け取り、口をつけた。
野菜の甘味と薄い塩味が、ゆるやかに体内に染み渡っていく。
ほうっと息をついた。
この数日間、卒業試験と原石採取のこともあって固く緊張しっぱなしだった体が柔らかくほぐれていくようだ。
しかも昨夜は、命の危機にもあってしまった。
(私、良く生きてたなあ)
ルナがスープを飲み終わった頃に、鉱夫が鉱山から戻ってきた。
「おう、起きてたか?」
「助けて頂いてありがとうございました」
寝台の上ではあるが、ルナは丁寧に頭を下げた。
「おお。気にすんな。それよりあんたには間者としての容疑がかかっているらしいぜ。ノーファート王国のな」
「え?」
さらに鉱夫の告白は、ルナの想像を遥かに超えたものだった。
「実は俺はひそかに東の太守様からあんたを見張るように言われてたんだ。きっとあんたの命を狙う者が現れるから、と」
鉱夫はそう言うと東の太守から預かったという文をルナに渡してくれた。
太守の文の内容には、ルナとレムリアが入国する前の宮中の様子が記されていた。
元々レムリアは、宮内大臣の縁戚筋からの養女ということで王弟や大臣たちの間から問題視する声はなかった。
だが、ルナは違った。
ルナは養親がいるとはいえ、実の両親が誰かもわからない謎の娘だ。
特にこのリファンカール王国とは何の縁もない。
それにも関わらず、このたびの卒業試験でリファンカール行きを切望しているという。
その志望理由は、教師や養親にも明かしていないようだ。
そんなルナの行動は、ある意味かなり怪しいものだった。
王弟や大臣たちが行き着いた考えは、ルナが五年前に国元に戻った先王の正妻の息のかかったものではないかということだった。
隣国の小国ノーファート王国は、戦によるリファンカールとの併呑を避けるために、唯一の王女を先王の正妻に差し出し、何とか王国の消滅を防いだ。
しかし、王妃となった彼女が産んだ唯一の息子は、幼い頃に呆気なく病で亡くなってしまった。
これによってリファンカールとノーファートを結ぶ糸が切れてしまったのだ。
ノーファートの現王は、次のリファンカールの王に誰がなるにしても、両国を結ぶ糸が切れた以上は、再び戦火の危機にさらされるだろうとすでに思い至ってはいた。
だからこそ、新しくリファンカール王が決定されるこの時期に、ルナという間者を潜入させて、どの王子が次の王になるのか探りを入れさせようとしているのではないのだろうか? というのがリファンカール王弟と大臣たちが出した結論だった。
「気がついたかい?」
ルナを助けてくれた鉱夫の妻なのだろうか。
中年の女性がルナの目が開いたのを見て、温かいスープを運んできてくれた。
「ここは?」
上半身を起こすが、即座に走る痛みに思わず顔をしかめる。
「大丈夫かい? 無理すんじゃないよ」
「はい」
「骨は折れていないようだったけど、打撲が酷かったみたいだね。鉱山の縦穴から落っこちたんだって?」
「あの、私、どれくらい寝てましたか?」
「昨晩、というか今朝のまだ夜明け前にうちのひとがあんたとその原石を運んできたのさ。何やらわけありそうだからって」
鉱夫は妻にルナを誰にも見せるなと言い聞かせていた。
だから妻は何も聞かず、ルナの傷の手当てと着替えをしてくれていたのだ。
「今はもう夕方だよ。さあ、これをお飲み。もうすぐうちのひとも仕事を済ませて帰ってくるだろうし」
「ありがとうございます」
ルナは黙って皿とスプーンを受け取り、口をつけた。
野菜の甘味と薄い塩味が、ゆるやかに体内に染み渡っていく。
ほうっと息をついた。
この数日間、卒業試験と原石採取のこともあって固く緊張しっぱなしだった体が柔らかくほぐれていくようだ。
しかも昨夜は、命の危機にもあってしまった。
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ルナがスープを飲み終わった頃に、鉱夫が鉱山から戻ってきた。
「おう、起きてたか?」
「助けて頂いてありがとうございました」
寝台の上ではあるが、ルナは丁寧に頭を下げた。
「おお。気にすんな。それよりあんたには間者としての容疑がかかっているらしいぜ。ノーファート王国のな」
「え?」
さらに鉱夫の告白は、ルナの想像を遥かに超えたものだった。
「実は俺はひそかに東の太守様からあんたを見張るように言われてたんだ。きっとあんたの命を狙う者が現れるから、と」
鉱夫はそう言うと東の太守から預かったという文をルナに渡してくれた。
太守の文の内容には、ルナとレムリアが入国する前の宮中の様子が記されていた。
元々レムリアは、宮内大臣の縁戚筋からの養女ということで王弟や大臣たちの間から問題視する声はなかった。
だが、ルナは違った。
ルナは養親がいるとはいえ、実の両親が誰かもわからない謎の娘だ。
特にこのリファンカール王国とは何の縁もない。
それにも関わらず、このたびの卒業試験でリファンカール行きを切望しているという。
その志望理由は、教師や養親にも明かしていないようだ。
そんなルナの行動は、ある意味かなり怪しいものだった。
王弟や大臣たちが行き着いた考えは、ルナが五年前に国元に戻った先王の正妻の息のかかったものではないかということだった。
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しかし、王妃となった彼女が産んだ唯一の息子は、幼い頃に呆気なく病で亡くなってしまった。
これによってリファンカールとノーファートを結ぶ糸が切れてしまったのだ。
ノーファートの現王は、次のリファンカールの王に誰がなるにしても、両国を結ぶ糸が切れた以上は、再び戦火の危機にさらされるだろうとすでに思い至ってはいた。
だからこそ、新しくリファンカール王が決定されるこの時期に、ルナという間者を潜入させて、どの王子が次の王になるのか探りを入れさせようとしているのではないのだろうか? というのがリファンカール王弟と大臣たちが出した結論だった。
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