【完結】月の行方

黄永るり

文字の大きさ
上 下
30 / 59

鉱山へ

しおりを挟む
 東の太守の城を発ってから丸二日後にルナたち一行は鉱山に到着した。
 短い休憩以外は馬車は進み続けたため、本来なら後一日はかかるところをわずか二日の所要時間で着くことができたのだ。
 道路も町も整備された東の城下を出てから、険しい山道を登っていく道ばかりでルナたちは落ち着いて眠ることもままならなかった。
「ここで私と共に寝起きしてもらう」
 ユノーに示された小屋を見た時は、正直ルナはほっとした。
 これで揺れない床で寝られると安堵した。
 小屋は粗末な作りのもので、大風が吹けば一瞬で吹き飛んでしまうくらいの建てられ方だ。
 鉱山ではあちこちに井戸のようなものと、この小屋と似たような作りの建てられていて、小さな集落を形成していた。
 ただルナたちが宿泊する小屋は、集落の中でもまだましなほうの小屋だった。
 集落の入り口周辺には多くの兵士たちが交代で見張り番をしている。
 大陸にも稀なる二色の色を有するバイカラートルマリンが産出したことのある鉱山を盗賊たちから守るためである。
 警備はかなり厳重に感じられた。
 これなら落ち着いてバイカラートルマリンが探せそうだ。
 ルナはもう一つの目的の達成を祈った。

 翌朝、三日ぶりに揺れないところで眠れたルナはユノーに起こされるまで起きることはなかった。
「ルナ、時間が惜しいだろう?」
 朝食中、ユノーがルナにそう尋ねてきた。
 朝食は太守の城とは違い簡素なものだった。
 乾パン、野菜の皮などを煮込んだ味の薄いスープ、そして太守から支給された山羊のミルク。これでも十分にルナのお腹は満たされた。
「はい」
 王都で行われる収穫祭に合わせるとなると、ここで一週間も過ごすわけにはいかない。
 せいぜい三日が限度のように思われる。
「では、これを持っていきなさい」
 ユノーに差し出されたのは布製の肩掛け袋だった。
 この村に入った時に何人かの鉱夫たちが身に着けていたものと同じものだ。
「これは?」
 すでに鉱夫たちが使っている道具は背負えるような袋に詰めてあるものを渡されていた。
 原石を採取する道具、縄、携帯型の小さな素焼きの手燭、火種、火打石など。
「坑道は深い。毎日出入りしていたらなかなか終わらないだろう?」
「そうですね」
「とりあえず二日分の食料として、乾パンと水筒を準備した。この袋ごと持ってきなさい。簡単な着替えも入っている。三日目以降の食料と着替えは、私かレムリアのどちらかで入り口まで持っていこう」
「ユノー様、ありがとうございます」
「気をつけて行ってきなさい。戻ってきたらここで試験です」
「はい。よろしくお願いいたします」
 ルナはユノーから袋を受け取ると、小屋の外に出た。
 外には道案内の鉱夫たちが待っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...