【完結】月の行方

黄永るり

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東の大地

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 リファンカール入国の際に、まずルナたちが降り立ったのは第三王子が治める東の港であった。
 東の領土に入ってまず目にしたのは、赤や黄色、オレンジなど色とりどりの衣装に身を包んだ民の姿であった。
 さすがに大陸に一つしかないと言われる宝石の原石を産出するだけあって、庶民でも食うに困らない生活が営めるようになっているようだ。
 帯一つ、髪飾り一つとっても北とはかなり違っている。
 街ゆく民の誰もが楽しげで生き生きとしている。
 雪も北の領土を抜けてからは徐々に減っていき、東の城近くでは、雪は降るもので積もるものではなくなっていた。
 東の都は王都とおなじくらいに賑やかで活気溢れる都という感じがする。
「いらっしゃい。可愛らしいお嬢さんたち」
 にこやかに出迎えてくれたのは、東の太守・トゥナルーン王子その人であった。
 背後には美しく華麗な一団が控えている。
(北の分の女人は全てここに集っているのではないかしら?)
 ルナの脳裏に北の閑散とした後宮が思い出された。
「北の異母兄上あにうえのところと同様に、こちらでも後宮に滞在して頂こう」
 そう言いながらトゥナルーンはレムリアの顔をじっと覗き込む。
「何でございましょうか?」
「いや、どこかで見たことあるなあと思って。君、どこかで私と会ったことないかな? この前王都であった以前にだけど」
 レムリアは少し当惑した表情になった。
「私は宮内大臣の養女でございます。魔法学校の長期休みのたびに戻ってきておりましたので、それこそ王都で見ておられるのではございませんか?」
「そうかなあ? 何だかもっと昔に見たことがあるような……」
 しきりと太守は首を傾げる。
「まあ太守様! そんなことを仰って! まさかこの娘を新しい側室に迎えられるのではありませんでしょうね?」
 背後に控えていた女人の一人がそう述べた。
「アリーシャ、そんなことあるわけないだろう?」
 トゥナルーンは背後のアリーシャに顔を向ける。
「魔法学校の卒業試験中の学生に手を出したら、後で国際問題に発展するよ。それは過去の歴史が実証済みだ」
 卒業試験の国で学生の身柄に何かがおきた場合、預かった国の責任とみなされて現在から向こう十数年間は、魔術師・錬金術師・占星術師の派遣は中止されてしまう。
 これは大陸で決められた厳格な決まりなのだ。
 派遣されなくなると、色々国としては困ることがあるので、預かる国は全力で学生の身の安全を守るのだ。
「私が彼女たちを後宮に滞在させるのは、そのほうが安全だからだよ。警護の厚い後宮なら、不逞の輩が忍び込んでも大抵は防げるからね」
「でも……」
 アリーシャは不服そうな顔をする。
「大丈夫だよ。彼女たちには後宮の貴賓室の一角に部屋を用意させたから。君たちや僕の部屋からは離れているよ」
 なお不満そうなアリーシャと他の女人たちにトゥナルーンは柔らかく微笑んだ。
「わかった。そんなに心配なら、君たちが交代で彼女たちのお世話兼監視役をするといい」
 トゥナルーンに穏やかに命じられると、アリーシャ以下その場にいた女人は全員黙って頷いた。

 北の城の後宮とは違い、東は本来の機能が後宮にある。
 いかに魔法学校の学生とはいえ、試験の時は何もなくても卒業後はどうなるかはわからない。
 それこそ、側室として迎えられることも過去の他国の事例ではあるのだ。
 前例がある以上、アリーシャたち後宮の女人は気が気ではないのであろう。
 しかも、今はトゥナルーンが王子の位に留まっているため、正室が決められない。これは王弟が王子たちの中から王位継承者が決まった時に正室である王妃を定めると決めたからであった。だから、何人王子の御子を産んでも、今は正室とはみなされないのである。
 そんな女たちが王子の寵愛を得るために日々競い合っている中で、客人として居候させられるのは、ルナにとっては正直気が休まるような感じはしなかった。
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