【完結】月の行方

黄永るり

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四人の異母兄弟②

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 生き残った四人の王子たちは、五年前に王弟が統治している中央の王都を除いて国土を四分割しそれぞれの土地を統治している。しかし、この先王の遺言も空しく、四人の王子たちは賢君とはいささか言い難い存在であった。
 北の太守となった第二王子ロナウスは臣下から妻にと差し出された女人を「女は要らぬ」と言って殺し、北の凍土で民の身も凍りつかせるような恐怖政治を行っているといわれ、そのため臣下から『残虐王』という称号を裏で献上されている。四人の異母兄弟随一の剣の使い手である。
 第三王子トゥナルーンは国内有数の宝石の原石を産出する場所が多い東の統治を任された。生来、綺麗なもの、美しいものをこよなく愛するトゥナルーンは、自ら華やかな衣装を身にまとい、きらびやかな宝石で飾り立てることに毎日を費やしている。後宮も華やかで、正妻と愛妾も含めると、五人の女性を同時に寵愛しているという。正妻との間にはすでに息子が誕生している。異母兄弟たちの中では、唯一文治の太守とされているが、その実、剣もまともに扱えないほどの柔弱ぶりらしい。臣下たちに自らを『貴石王』と呼ばせている。
 第四王子ダグナルはリファンカールに迎えられた当初の試験で実母を喰らうという恐ろしい過去があり、最近では臣下に妻を娶らされた時も、気に入らなかったのか、その女人を喰らい、その娘を妻にと勧めた臣下を領地財産没収の上、国外追放した奇矯の人物とされている。当然後宮は空のままである。そのためか、第二王子にひどく可愛がられている。第二王子のように恐怖政治を行っているわけではないが、南の民からは化け物のように思われている。第二王子に剣を学んだが、実戦経験が乏しいため護身程度のものにしかなっていないそうで、陰鬱な雰囲気の男だ。
 第五王子バスナーはその美しい顔立ちに似合わない武断派だが、礼儀を重んじ、学問もある程度は学んだ。兄弟中で最も先王と似ていて文武両道と誉めそやされている存在。国土の西側を預かったが、西は異民族たちと国境を接していて常に彼らの侵攻に頭を痛めていた。しかし、バスナーが西の太守として着任してからは、ほとんど負けしらずの強い勝ち方により、異民族の長に畏怖の念を与えたらしい。今では逆に異民族の村々の長と交渉しては、リファンカール王国の国民として積極的に取り込んでいる。バスナーには正妻がいて臨月の懐妊中である。側近からは、その強さと勇猛さから『覇道王』と呼ばれている。
「第二王子に魔術師が、第三王子には錬金術師がついておる。どうする? それぞれ各先達たちに着いていくか?」
 卒業試験の多くはたいてい試験国に滞在中の先輩に着いたりする。側で実際の仕事を見聞きして手伝い、試験を受けるのだ。
「王弟殿下、実は私たち二人は国内でも行動を共にするように言われて参りました」
 レムリアが申し訳なさそうにそう王弟に伝えた。
「では二人とも試験までずっと一緒に行動するというのか?」
「はい。北と東を共に回り、途中で試験を行い、最後にもう一度この中央に戻り、王弟殿下に帰国のご挨拶を申し上げに参りたいと思っているのですが」
 事前に打ち合わせた通りの予定をレムリアはそのまま話した。
「よかろう。そのように」
 意外にあっさりと王弟は許可した。
「殿下」
 それまで黙って見守っていた第三王子トゥナルーンが静かに口を開いた。
「何だ?」
「ちょうど彼女たちが中央に戻ってくる頃、国をあげての収穫祭が始まります。二人にもその体験もさせてあげるというのはどうでしょうか?」
「おお、そうだな。試験が終わり次第、王都に戻ってくるがよい。我が国の収穫祭に参加していくがよい」
「ありがとうございます」
 二人は静かに頭を垂れた。
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