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少年と少女②
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「ティナというのはね、月の女神の名前なんだ」
「月?」
「そう。今夜は出ていないけど。その昔、お月様を守護すると言われていた女神様の名前なんだ」
川からの帰り道、いつものようにティナの名前の由来を話す少年の顔はどこか寂しげだ。
ティナという名前は少年が名付けてくれたそうだ。
「ティナを拾った夜は、それはそれは美しい月が輝いていたんだ。だから僕は『ティナ』が良いなと思ったんだ」
やはり今日も探していた石が見つからなかっただろうか。
見上げると寂しそうな横顔に、ティナは幼いながらもなぜか申し訳なく思ってしまった。
「ティナ?」
「はい」
「どうかした?」
「いえ。何でもありません。早くお屋敷に戻りましょう」
ティナは勢いよく首を横に振ると、少年の手を強く引いた。
「わかった」
少年はティナの手を握り返すと、家路を急いだ。
今夜の年越しは、本当なら屋敷で静かに新年が来るのを母とともに迎えなければならない。
しかも、今年の年越しは父の正室がやってくるという。
早く帰らないと自分の不在が知られてしまえば、母を心配させてしまうだろう。
黙って抜け出してきたから大層叱られるだろう。
少年は母の説教を覚悟した。
「若様、お月様が出ていませんのにあちらのお空が明るいです」
ティナの指さす先には、赤々としたものが夜空を焦がしていた。
瞬時に少年の顔が強張った。
「ティナ。走るよ!」
そういうと少年はティナの手を放して、猛然と駆けだした。
「若様!」
ティナは置いてかれまいと必死で後を追った。
屋敷に近づけば近づくほど、空が明るくなっていき、日中以上の熱さを感じる。
「母上!」
目指す一角はすでに炎の海だった。
水場からは手桶に汲まれた水が次々と運ばれては、炎めがけて掛けられている。
「若様!」
額に刀傷のある青年が駆け寄ってきて、少年の腕を掴んだ。
「ガウル、母上は?」
「今、お探ししております。若様、どうか安全な場所へ先に避難なさって下さい! 母君様のことは私が必ずお連れ致しますゆえ!」
「嫌だ! 私も探す!」
少年はガウルの腕を解こうと必死に暴れた。
「なりません!」
「放せ!」
「うっ!」
少年は思いきりガウルの腕に?みつくと、ガウルの腕が緩んだすきに近くに水入りの手桶を持っていた下働きの女性から奪い取った。
そしてそれを頭上で派手にひっくり返した。
「若様! 私も参ります!」
少年を止めることを諦めたガウルは自身も側にいた使用人から手桶を奪い取ると、自身も水をかぶった。
「私も!」
何とか大人たちに自分も水をかけてもらおうと、ティナも手桶に小さな手を伸ばした。
「だめだ!」
ガウルが止めるより早く少年がティナも手を止めた。
「ティナはここで待っていなさい」
ティナは激しく首を振った。
「ティナ!」
少年は急いで屋敷を囲む塀の脇にティナを連れて行った。
「私も行きます!」
膝をついていつもの優しい瞳でティナと視線を合わせる。
「ティナ、お前は私に仕える者だ。そうだな?」
「はい」
だからこそ側を離れてはならない。
「だから主である私の命令を聞かなければならない。聞いてくれるね?」
「はい」
そう返事をするしかなかった。
「私の願いを叶える手助けをしてほしい。私は赤と緑の二色のトルマリンが欲しいんだ。あれさえ手に入れば、私はきっと望みのものを手に入れることができるだろう。二色のトルマリンの原石を私のところへ持ってきてほしい。何年かかってもかまわない。必ずだ」
ティナは黙って頷いた。
「わかりました」
「もしティナが私の願いを叶えてくれたら、私もティナの願いを叶えてあげよう。そしてその時、ティナを私に仕える者の立場からも解放しよう」
「え?」
少年の命令はわかったのだが、後半の言葉が理解できなかった。
「命令だ。行きなさいティナ」
少年は元来た道を指さした。
「さっきの川に行ってもう一度探してきておくれ」
ティナは暗闇に繋がっている道を心細げに歩き出した。
後ろを振り返り、振り返り。
少年はティナが歩き出したのを見届けると、即座に身を翻してガウルとともに火の粉が吹き飛ぶ屋敷内に入っていった。
「月?」
「そう。今夜は出ていないけど。その昔、お月様を守護すると言われていた女神様の名前なんだ」
川からの帰り道、いつものようにティナの名前の由来を話す少年の顔はどこか寂しげだ。
ティナという名前は少年が名付けてくれたそうだ。
「ティナを拾った夜は、それはそれは美しい月が輝いていたんだ。だから僕は『ティナ』が良いなと思ったんだ」
やはり今日も探していた石が見つからなかっただろうか。
見上げると寂しそうな横顔に、ティナは幼いながらもなぜか申し訳なく思ってしまった。
「ティナ?」
「はい」
「どうかした?」
「いえ。何でもありません。早くお屋敷に戻りましょう」
ティナは勢いよく首を横に振ると、少年の手を強く引いた。
「わかった」
少年はティナの手を握り返すと、家路を急いだ。
今夜の年越しは、本当なら屋敷で静かに新年が来るのを母とともに迎えなければならない。
しかも、今年の年越しは父の正室がやってくるという。
早く帰らないと自分の不在が知られてしまえば、母を心配させてしまうだろう。
黙って抜け出してきたから大層叱られるだろう。
少年は母の説教を覚悟した。
「若様、お月様が出ていませんのにあちらのお空が明るいです」
ティナの指さす先には、赤々としたものが夜空を焦がしていた。
瞬時に少年の顔が強張った。
「ティナ。走るよ!」
そういうと少年はティナの手を放して、猛然と駆けだした。
「若様!」
ティナは置いてかれまいと必死で後を追った。
屋敷に近づけば近づくほど、空が明るくなっていき、日中以上の熱さを感じる。
「母上!」
目指す一角はすでに炎の海だった。
水場からは手桶に汲まれた水が次々と運ばれては、炎めがけて掛けられている。
「若様!」
額に刀傷のある青年が駆け寄ってきて、少年の腕を掴んだ。
「ガウル、母上は?」
「今、お探ししております。若様、どうか安全な場所へ先に避難なさって下さい! 母君様のことは私が必ずお連れ致しますゆえ!」
「嫌だ! 私も探す!」
少年はガウルの腕を解こうと必死に暴れた。
「なりません!」
「放せ!」
「うっ!」
少年は思いきりガウルの腕に?みつくと、ガウルの腕が緩んだすきに近くに水入りの手桶を持っていた下働きの女性から奪い取った。
そしてそれを頭上で派手にひっくり返した。
「若様! 私も参ります!」
少年を止めることを諦めたガウルは自身も側にいた使用人から手桶を奪い取ると、自身も水をかぶった。
「私も!」
何とか大人たちに自分も水をかけてもらおうと、ティナも手桶に小さな手を伸ばした。
「だめだ!」
ガウルが止めるより早く少年がティナも手を止めた。
「ティナはここで待っていなさい」
ティナは激しく首を振った。
「ティナ!」
少年は急いで屋敷を囲む塀の脇にティナを連れて行った。
「私も行きます!」
膝をついていつもの優しい瞳でティナと視線を合わせる。
「ティナ、お前は私に仕える者だ。そうだな?」
「はい」
だからこそ側を離れてはならない。
「だから主である私の命令を聞かなければならない。聞いてくれるね?」
「はい」
そう返事をするしかなかった。
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後ろを振り返り、振り返り。
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