【完結】斎宮異聞

黄永るり

文字の大きさ
上 下
8 / 20

急変

しおりを挟む
「失礼いたします」
 冬子が寝殿の客間に入ると、すでに母女御と兄弟たちが集っていた。
 几帳越しに覗くと、奥の上座には母方の叔父の通任みちとうが座っていた。
「参議殿、皆さま方お集まりになりました」
 女御付き筆頭の女房が声を掛けた。
「では」
 こほん、と軽く咳ばらいをすると通任はおもむろに口を開いた。
「本日、恐れ多くも主上おかみが東宮様に御譲位ごじょういあそばされました」
「えっ?」
 思ってもいなかった言葉に、その場にいた通任以外の者は一様に驚いた。
 今上帝きんじょうていが御譲位されたということは?
「これにより東宮様が御位みくらいにおつきになられまして、東宮位には今上、いえ、院の二の宮様がおつきになられました」
 長らく東宮位にあった冬子の父が、ついに帝になったのだ。
 冬子はこの父の即位にともなう話で、結局は母に道雅とのことを話しそびれてしまった。
 しかも、この日を境に冬子の周辺はにわかに騒がしくなってしまった。
 即位の慶賀を伝える公卿くぎょう殿上人てんじょうびと本人や、その使者たちがひっきりなしに邸を訪れるようになってしまったのだ。
 これでは、道雅との逢瀬を再開させるどころか、文のやりとりも人目が増えたことによって困難になってしまったのだ。
 冬子は、御代みよ替わりのこの嵐さえ乗り切れば何とかなるだろうと思っていたのだが、御代替わりの変化は思わぬ展開を冬子にもたらすことになってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

藤散華

水城真以
歴史・時代
――藤と梅の下に埋められた、禁忌と、恋と、呪い。 時は平安――左大臣の一の姫・彰子は、父・道長の命令で今上帝の女御となる。顔も知らない夫となった人に焦がれる彰子だが、既に帝には、定子という最愛の妃がいた。 やがて年月は過ぎ、定子の夭折により、帝と彰子の距離は必然的に近づいたように見えたが、彰子は新たな中宮となって数年が経っても懐妊の兆しはなかった。焦燥に駆られた左大臣に、妖しの影が忍び寄る。 非凡な運命に絡め取られた少女の命運は。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

商い幼女と猫侍

和紗かをる
歴史・時代
黒船来航から少しの時代。動物狂いでお家断絶になった侍、渡会正嗣と伊勢屋の次女ふたみはあるきっかけから協力して犬、猫、鶏と一緒になって世を守る。世直しドタバタ活劇。綺羅星の様な偉人ひしめく幕末の日本で、二人がひっそりと織り成す物語です。

父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし

佐倉 蘭
歴史・時代
★第10回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ ある日、丑丸(うしまる)の父親が流行病でこの世を去った。 貧乏裏店(長屋)暮らしゆえ、家守(大家)のツケでなんとか弔いを終えたと思いきや…… 脱藩浪人だった父親が江戸に出てきてから知り合い夫婦(めおと)となった母親が、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代(香典)をすべて持って夜逃げした。 齢八つにして丑丸はたった一人、無一文で残された—— ※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

ヴィクトリアンメイドは夕陽に素肌を晒す

矢木羽研
歴史・時代
カメラが普及し始めたヴィクトリア朝のイギリスにて。 はじめて写真のモデルになるメイドが、主人の言葉で次第に脱がされていき…… メイドと主の織りなす官能の世界です。

処理中です...