弟とあたしの攻防戦

富樫 聖夜

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弟とあたし

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 あたしの弟の明良《あきら》は美形だ。
 嫌味かと思うほどカッコイイ。
 茶色のさらっとしたやや長めの髪に、切れ長の目。すらりと通った鼻筋。長い睫毛。
 官能的に笑みを刻む口元。その口から出る声は甘く腰に来る声で、何故か姉のあたしもドキドキさせられるほどだ。
 細くもなく太くもない体型で背も高い。
 お頭《つむ》の方も大変よろしく、学年一位の成績を外したのなんて見たことがない。
 これまた運動神経も良くて、高校一年の時は毎日のように運動部の連中からスカウトされていた。
 
 これで性格が悪かったらバランスが取れていたと密かに思うあたしだけど、ヤツは性格も良い。
 こんな普通で平凡なキャラである姉のあたしも「姉さん」っていって懐いてくれてる。
 夜に突然アイスが食べたくなったあたしが「コンビニに行ってアイス買って来て」って頼んだら二つ返事で行ってくれるくらいに出来た弟だ。
 頭も顔も運動神経も、おまけに性格も良いなんて―――ここまでくると、もはやチートキャラ。
 時々あまりに出来すぎて、人間かと疑ってしまうのはあたしが捻くれているのかもしれない。

 そんな万能王子様の弟は―――当然モテる
 非公式なファンクラブまであるらしいくらいにモテる。

 対するあたしは―――明良と姉弟と思えないくらい平凡だ。
 一応、容姿は中の上くらいだと思ってるんだけど、男の子にモテたためしはないから自己評価が高すぎるのかもしれない。
 成績も中の上。
 運動神経も中の上。
 判で押したように『中の上』―――つまり普通に毛が生えた程度のものしか持ってない女。
 それが藤崎葵《ふじさきあおい》―――あたしだ。

 こうあまりに弟と差があると、もはや嫉妬心も浮かばない。
 物語によくあるじゃない。優秀な兄弟に劣等感を持つっていうのが。
 でもあまりに違いすぎると格がもはや別次元というか、同じ土俵じゃないというか。
 とにかくそんな感じになると羨望の念はあっても嫉妬にまで行かないのだね、人間って。
 おかげで姉弟の仲はすこぶる良好。
 普通は年子だと喧嘩することが多いハズだけど、あたしたちに限って言えばめったに言い争うことはない。
 言い争ってもたいてい明良が折れてくれるんだから、本当、姉に対しても性格良くてどうするんだろうと思う。
 そんなんでこの世の中生き残っていけるのかとか。
 悪い女にあっさり引っかかってしまうんじゃないかとか。
 おねーちゃんとしてはすごく心配になるわけですよ。

 自慢の弟だから変な女に引っかかって欲しくないのだ。
 男の前ではやたらと良い子ぶってて、同性の前では本性丸出しの二面性を持つ女の子とか。
 可愛い年下を篭絡しようとするお姉さま方とか。
 そういうのはパス! まったくもってパス!
 姉の権限を持って全力で阻止することを誓う!
 
 明良には最高の彼女を作ってもらいたい。
 頭が良くて顔が可愛くて、性格もよくて礼儀正しい子。
 まぁ、実際そういう子が家に遊びにきちゃったら、それはそれで嫉妬しちゃうだろうけど……自分と比べて。

 そう。
 ここまで言えばお分かりだろう。
 あたしは立派なブラコンだ。
 
 だ、だって仕方なくない!?
 顔良し、頭良し、器量良しの弟だよ?
 甘やかしてくれる弟だよ?
 ――――これでブラコンにならない女はいないって! 絶対!

 明良も明良で多少はシスコンの気があると思う。
 だって友達と約束してても必ず私を優先にしてくれるし。
 明良の親友の藤原礼司《ふじわられいじ》君――イケメン眼鏡君だ――だって、以前うちに遊びに来たとき『明良はシスコンですからね』などと言ってたし。
 ちなみに藤原君の台詞は私がこっそりトイレに降りてきた彼を捕まえて『明良って好きな人いるの?』と聞いた時の返事。
 明良が女の子の告白を断る時に『俺好きな人いるから』って言ってるらしいのを噂で聞いて気になったのだ。
 そんなの明良本人に聞けばいいじゃないかと思われるが、好きな人がいてそれが誰かなんて、普通姉には言わないでしょう?
 だから、手っ取り早くお友達に聞いたのである。
 
 そこで知ったのが、明良もシスコンの気があると認知されているって事実だ。
 あたしのブラコン、一方通行じゃないらしい。
 ブラコンでシスコンなんて、ある意味両思いじゃない?
 
 ――なんて、明良に好きな人は居なさそうなのでホッとしつつのんきに思っていたあたし。

 確かにブラコンでシスコンでお互い様かもしれない。
 だけど。
 だけどね、あたしと明良は姉弟。
 依存はしているかもしれないけど、れっきとした姉弟愛。
 恋愛感情ではない――――はずなんだけど。

 あ、あたし、どうして今、明良にベッドに押し倒されているんでしょうか――――?
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