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そこはそう、まるで箱。
いつからそこにいたのか?
記憶の中の自分は最初からそこにいた。
なぜ?
―――さあ?
思い出せないのだから、思い出そうとするだけ無駄だろう。
ぼく、はそう考えようとする思考を止めた。
―――退屈だ。
はて、退屈とは何だろうか。
自分で思って自分で頭を捻った。
―――これも無駄。
ならば、これ以上思考することに意味はあるのか?
―ない。
だからぼく、は目を閉じることにしたのだろう。
………しばらくの静寂。
どれほど閉じていたのだろうか。
おもむろに、まだ閉じようとする何かを押さえつけて強引にこじ開けた。
―――音がする。
はて、音とは何か知らないが。
そう、このいつまでも聞いていたくなるような鈴のような―――。
いや、鈴とやらも知らないが。
ぐるぐると再び落ちそうな思考の海から無理矢理遠ざかる。
こんなことをしていてはいつまでたってもあの音のことがわからないではないか!
はじめはただ一つ二つの音だった。
それがどんどん様々な音色に変わっていく。
―――もっと聞きたい。
ぼく、は欲を持ったらしい。
ふと、箱の上のほうに小さな長方形の隙間があるのを見つけた。
そこから覗いてみることにする。
ふぅむ、あと少し下。
もう、すこし。
あ、なにかがいた。
小さいなにかがやたらと動いている。
あれは何だろうか。
側にいる大きい方はそんなに動かない。
あの音はどこだろう。
どうやらあの小さいほうから綺麗な音がするらしい。
ぼく、はずっと見ていた。
明るくなるとあの小さいのは現われる。
暗くなると消える。
その繰り返しをずっとずっとずっと―――。
その日は少しいつもと違っていた。
小さいのだけがやってきて、なにか暗い音が響いた。
それをきくとなんだか落ち着かなくて。
そわそわそわ。
うずうずうず。
あれはどうしてあんなに暗い音を出しているんだろうか。
気がつけば、小さいのが目の前にいた。
いや、ぼくが動いたのだ。
突然のことで小さいのもぼくも驚いて固まってしまったのはしょうがないだろう。
小さいのが何か高い音を出して離れていく。
え、どうして。
まって。
なんで。
なにもしないよ。
ぼくはみてただけ。
ふと、なにかが落ちている。
なんだろうと持ち上げてみれば、なにやらもじゃもじゃの物体…。
上に下にくるくる回して見ていたら、いつのまにか戻って来ていた小さいのがこのもじゃもじゃを見て何か音を出している。
『それかえして! わたしのよ!』
「そ…れ…、て。わ、し………よ?」
『なにいってるのよ! とにかくかえしてってば!』
む、なんだか音にすごい圧がある。
速さも増してキンキンとした。
どうすればよいかわからず戸惑って固まるぼくに小さいのは手を伸ばして無理矢理それを奪還した。
反動でお尻から転がったぼくは目を丸くする。
なんだろうこのもじゃもじゃが敷き詰めたかのようなのは。
おどおどと転がった地面を触るぼくをみて何を思ったのか、小さいのが何か音をだした。
『え、ちょっとなにしてるの!? あ、さっきはごめんなさい』
「え、ち、るの。あ、きは、め、ない」
『ええ………ううん? ねえ、あなたことばしらないとか?』
音がころころとかわっておもしろい。
『うーん、というかここにしらないこがいるのがおかしいよね? これ、おとうさまにいったほうがいいのかなあ。でも、そんなことしたら………』
「………?」
『よーし、きめた! きみはわたしのおともだちよ!』
『わたし、ライラ!』
「わ、たし、ら…ら」
『ライラ!』
「アィラ」
『ラ、イ、ラ!』
「ラ、イ、ラ」
『そう!』
小さいのがなぜか自分をさしてなにか音をだしはじめた。
しきりに同じ音を繰り返している。
とりあえずまねしてみると違うらしい。
なんどか同じ音をだす練習をした。
どうやらそれでよかったらしくようやく音が落ち着く。
―――ライラ。
小さいのがずっと繰り返していた音。
それが何を意味するのかは知らないが、小さいのはライラというらしい。
「ライラ」
『なーに?』
「な、に」
『ふふ、なんだかすこしたのしい! おとうとができたみたいね! そうだ、あなたなまえは? っていってもわかんないよね………』
「ライラ」
『うーん。―――そうだ!』
『ラシール』
「ら?」
『ラシール』
「らしーる」
ライラはこんどはぼくを指さして一つの音をだした。
それはすんなりとぼくの中に入っていく。
ラシール。
ライラはぼくのことをそう呼ぶ。
それがなにを意味するのかはまだわからない。
だけど、そう呼ばれたときぼくの体の中がぽわっと少しあたたかくなる。
ついでにもじゃもじゃのこともライラはゆびさしてモリーといった。
ライラ、モリー、ラシール。
それを音にするだけであたたかい。
それが気持ちよくて何度も何度も音にしていたらライラがなんだか弾んだ音をだした。
そうたしか「あはは!」って感じ。
はじめの暗い音と違ってなんだか明るい。
それはとてもいいことだ。
きっと。
「ライラ、モリー、ラシール」
ぼくの、たからもの。
いつからそこにいたのか?
記憶の中の自分は最初からそこにいた。
なぜ?
―――さあ?
思い出せないのだから、思い出そうとするだけ無駄だろう。
ぼく、はそう考えようとする思考を止めた。
―――退屈だ。
はて、退屈とは何だろうか。
自分で思って自分で頭を捻った。
―――これも無駄。
ならば、これ以上思考することに意味はあるのか?
―ない。
だからぼく、は目を閉じることにしたのだろう。
………しばらくの静寂。
どれほど閉じていたのだろうか。
おもむろに、まだ閉じようとする何かを押さえつけて強引にこじ開けた。
―――音がする。
はて、音とは何か知らないが。
そう、このいつまでも聞いていたくなるような鈴のような―――。
いや、鈴とやらも知らないが。
ぐるぐると再び落ちそうな思考の海から無理矢理遠ざかる。
こんなことをしていてはいつまでたってもあの音のことがわからないではないか!
はじめはただ一つ二つの音だった。
それがどんどん様々な音色に変わっていく。
―――もっと聞きたい。
ぼく、は欲を持ったらしい。
ふと、箱の上のほうに小さな長方形の隙間があるのを見つけた。
そこから覗いてみることにする。
ふぅむ、あと少し下。
もう、すこし。
あ、なにかがいた。
小さいなにかがやたらと動いている。
あれは何だろうか。
側にいる大きい方はそんなに動かない。
あの音はどこだろう。
どうやらあの小さいほうから綺麗な音がするらしい。
ぼく、はずっと見ていた。
明るくなるとあの小さいのは現われる。
暗くなると消える。
その繰り返しをずっとずっとずっと―――。
その日は少しいつもと違っていた。
小さいのだけがやってきて、なにか暗い音が響いた。
それをきくとなんだか落ち着かなくて。
そわそわそわ。
うずうずうず。
あれはどうしてあんなに暗い音を出しているんだろうか。
気がつけば、小さいのが目の前にいた。
いや、ぼくが動いたのだ。
突然のことで小さいのもぼくも驚いて固まってしまったのはしょうがないだろう。
小さいのが何か高い音を出して離れていく。
え、どうして。
まって。
なんで。
なにもしないよ。
ぼくはみてただけ。
ふと、なにかが落ちている。
なんだろうと持ち上げてみれば、なにやらもじゃもじゃの物体…。
上に下にくるくる回して見ていたら、いつのまにか戻って来ていた小さいのがこのもじゃもじゃを見て何か音を出している。
『それかえして! わたしのよ!』
「そ…れ…、て。わ、し………よ?」
『なにいってるのよ! とにかくかえしてってば!』
む、なんだか音にすごい圧がある。
速さも増してキンキンとした。
どうすればよいかわからず戸惑って固まるぼくに小さいのは手を伸ばして無理矢理それを奪還した。
反動でお尻から転がったぼくは目を丸くする。
なんだろうこのもじゃもじゃが敷き詰めたかのようなのは。
おどおどと転がった地面を触るぼくをみて何を思ったのか、小さいのが何か音をだした。
『え、ちょっとなにしてるの!? あ、さっきはごめんなさい』
「え、ち、るの。あ、きは、め、ない」
『ええ………ううん? ねえ、あなたことばしらないとか?』
音がころころとかわっておもしろい。
『うーん、というかここにしらないこがいるのがおかしいよね? これ、おとうさまにいったほうがいいのかなあ。でも、そんなことしたら………』
「………?」
『よーし、きめた! きみはわたしのおともだちよ!』
『わたし、ライラ!』
「わ、たし、ら…ら」
『ライラ!』
「アィラ」
『ラ、イ、ラ!』
「ラ、イ、ラ」
『そう!』
小さいのがなぜか自分をさしてなにか音をだしはじめた。
しきりに同じ音を繰り返している。
とりあえずまねしてみると違うらしい。
なんどか同じ音をだす練習をした。
どうやらそれでよかったらしくようやく音が落ち着く。
―――ライラ。
小さいのがずっと繰り返していた音。
それが何を意味するのかは知らないが、小さいのはライラというらしい。
「ライラ」
『なーに?』
「な、に」
『ふふ、なんだかすこしたのしい! おとうとができたみたいね! そうだ、あなたなまえは? っていってもわかんないよね………』
「ライラ」
『うーん。―――そうだ!』
『ラシール』
「ら?」
『ラシール』
「らしーる」
ライラはこんどはぼくを指さして一つの音をだした。
それはすんなりとぼくの中に入っていく。
ラシール。
ライラはぼくのことをそう呼ぶ。
それがなにを意味するのかはまだわからない。
だけど、そう呼ばれたときぼくの体の中がぽわっと少しあたたかくなる。
ついでにもじゃもじゃのこともライラはゆびさしてモリーといった。
ライラ、モリー、ラシール。
それを音にするだけであたたかい。
それが気持ちよくて何度も何度も音にしていたらライラがなんだか弾んだ音をだした。
そうたしか「あはは!」って感じ。
はじめの暗い音と違ってなんだか明るい。
それはとてもいいことだ。
きっと。
「ライラ、モリー、ラシール」
ぼくの、たからもの。
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