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第一章 苦悩

自問自答 

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 「一体何なんだ、偉そうに!ちょっといいとこに住んで、金があるからって!」

 「馬鹿にしてるのか!」誠ニが住むタワーマンションを後にした和也は、ぶつくさと独り言を言いながら歩いていた。

 「何をしたいのか、何をされたいのか、自分がどうなりたいのか・・・?」

 「って、ここまで来てされたいことなんて決まってるのだろ!」

 「それ以上は恥ずかしくて言えるか!」

 和也の怒りは収まらない。

 「折角あんなにがちむちでカッコいいのに・・・」

 「髭が良く似合って、ワイルドで、笑顔が素敵で話し方だって穏やかで包容力だって申し分ない・・・あんないいところに住んで、でも嫌なやつ・・・」

 和也は、住む世界が違う、もうここには来ちゃいけないんだと思うようにした。

 嫁から夕食の支度を頼まれていたので、帰り道のスーパーに寄った。

 「今日は肉だな!がっつりと!」夕食はがっつり料理を用意しようと考えているとふと茂のことが頭をよぎる。

 「これで良かったんだ・・・俺は何をしているんだ・・・」

 誠二との肉体関係を結ぶ直前で、関係には至らなかったことがホッとした和也であった。

 「そうだ・・・茂君に連絡してみよう!」和也は素直に思った。

 「たまには飯食いに来い!」和也は茂に連絡をした。

 買い物途中に、茂から返信が来る。

 「嬉しいです!今夜お邪魔してもいいですか?」

 「今夜は嫁じゃなくて俺の料理だけどいいかな?」和也は返信する。

 「和也さんの手料理食べられるんですか?是非行きたいです!」

 和也は一気に気持ちが切り替わった。

 「俺にはこんな可愛い茂君がいる。本当に誠二と関係を結ばなくて良かった・・・」和也は心から思った。

 「さてさてそれでは肉を増量して・・・」和也は茂の返信を見て精肉コーナーに戻った。

 嫁に連絡するともちろんOK、嫁は前回の酒乱出来事を気にしていて、茂への連絡を躊躇していたので、茂が夕食に来ることを凄く喜んだ。

 和也は酒もたんまり買い込み、肉もたっぷりと買った。

 既に娘たちは帰宅していて、和也はビールを飲みながら夕食の下ごしらえをする。

 そのうちに嫁が帰ってきて、茂もやってきた。

 「乾杯~!今夜は焼肉だ~!肉はたっぷりあるから茂君!遠慮しないで!」和也はホットプレートで妙なテンションで肉を焼き始める。

 「焼肉って料理って言えるのかしら~?折角、茂君来てくれているのに・・・しかもこんなにお肉買ってきて誰が食べるのよ・・・」嫁はあきれた顔をした。

 「焼肉はみんなを幸せにする!俺はそう信じている!なぁ茂君!」

 既に和也は酔っぱらっていた。

 娘たちも茂も凄い勢いで焼肉を食べた。

 「やっぱりバクバク食べる茂は可愛い・・・」和也は心の中で呟いた。

 茂は食事が終わった後にマッサージをすると言ってくれたかわ今日は時間が遅かったので和也は断った。

 嫁はちょっとマッサージを期待している素振りもあったがさすがに時間が遅いのもあって納得していた。

 茂が丁寧に挨拶をして帰宅するとき、和也もちょっとコンビニにビールを買い足しに行くと一緒に家を出た。

 コンビニまでの帰り道、暗闇の中、和也からそっと茂の手を握る。

 コンビニで和也はビールを買い、茂と一緒に公園のベンチに座りビールを開けた。

 「中々会えなかったな・・・会いたかったぞ茂君・・・」

 「僕もです、和也さんに会いたかった・・・でも僕からは連絡できないです・・・」

 「どうして?」

 「和也さんには家庭があるんです。僕が入ることで壊したくないんです・・・それに槙田先生だって・・・智成だって・・・」 

 茂は下を向いて涙ぐんでいる。

 和也は切ない気持ちになった。

 「茂君ごめんよ茂君にそんな風に思わせていたなんて・・・本当ごめん」

 「いいんです・・・僕も知っていて和也さんを好きになってしまったんだから・・・」

 暗い公園で、和也は茂にキスをして抱きしめた。

 誰かに見られるかもしれない。でも和也は茂を抱きしめずにはいられなかった。

 「和也さん、今日はありがとうございました・・・そろそろ行かないと・・・」

 悲しそうな素振りの茂から言葉を切り出して、頭を下げて歩き出した。

 茂は振り返ることはしなかった。

 和也は涙が込み上げた。

 「もう茂には会えないかもしれない・・・」和也はそんな気持ちになっていた。

 帰って和也から茂にメールを送ったが、返信は来なかった。

 茂のことを思っている時に智成からメールが来た。

 「和也元気にしてる?全然和也からメールが来ないんだもん!俺寂しいっすよ~!」

 「俺はいったい何をやっているんだ・・・」和也は自分が情けない気持ちになった。

 茂、准一、智成、そして嫁、二人の娘たち、様々な人々の間で、何一つ中途半端な気持ち、そんなそんな自分を情けなく感じたのだ。

 「もし茂一人を愛するなら・・・俺は全てを捨てられるのだろうか・・・」

 そんなことができないことは和也が一番知っていた。

 「俺は最低だ・・・」和也は心の底からそう思うのだった。
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