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第八章 至福の夜

昭和の銭湯 ①

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 「はい、和也、良一も・・・」准一は缶ビールを2人に手渡した。

 3人はビールを開けて乾杯し、適当な場所を探して園内を歩き、カバの池の前のベンチに良一をはさんで並んで座った。

 「すげぇデカイ口だなぁっ・・・あっ!あくびしたっ!父ちゃんのあくびみたいっ!」

 「良一・・・俺はあんなにデカイ口はしていない・・・おっ!あのカバは良一に何となく雰囲気が似てるなぁ!」

 「えぇ~?あんなに俺は可愛いの?嬉しいなぁ・・・父ちゃん!」

 「良一!お前はカバに似てるって言われて嬉しいの?」

 「父ちゃん、嬉しいに決まってるだろう!カバは体はデカイし体重もあるし、口はデカイし、外側は硬い皮膚に覆われて、おまけに水陸両用だぞっ!カッコいいに決まってる!」

 「良一・・・そうだったな・・・爬虫類が好きだし、お前は昔から人とはちょっと変わった見方をするんだった・・・」准一は溜息をつく。

 「ちょっと微妙な会話だけど・・・やっぱりこの親子は本当に仲がいいな・・・」和也はボソッと呟いた。

 「ところで、悪かったなぁ、抜けちゃって・・・でもお陰で忘れ物も取って来れたし、先方とゆっくり話す時間が出来てな・・・」准一が話題を変える。

 「来年、うちの生徒を1人か2人、採用してくれるって言われたよ・・・」准一は嬉しそうに話し始めた。

 「父ちゃん、それは良かったんだろうけど、残された俺と和也さんはろくに面識もなかったし・・・30分とか言って2時間近く帰って来なかったし・・・」良一が口をとんがらせて言った。

 「だから良一、謝ってるだろう・・・和也もすまなかったなぁ」

 「いや、俺は大丈夫だけど・・・良一君と一緒に動物園内を回れて楽しかったし」

 「父ちゃんにはしっかりと埋め合わせしてもらわないと・・・!」

 「良一、さっき5千円やっただろ!あ、そうだ残った分返して貰わないと・・・」

 「え?あれは久しぶりに会った可愛い息子への小遣いじゃなかったの?」

 「可愛い息子?誰がだ?・・・あれは和也とお前の昼飯代だっ!」准一は笑いながら言った。

 「じゃあ俺はいいけど和也さんに埋め合わせしてやってよ!」

 「和也にか?和也にはお前がいないところでたっぷりと埋め合わせするからいいんだっ!なぁ和也!」

 「えっ?あぁ・・・そうなのかな?」和也は返答に困った。

 「じゃあ和也さん・・・しっかりと何を埋め合わせしてもらうかを考えた方がいいですよ!スペシャルなやつを・・・」良一はニヤッとして和也を見た。

 「何かお前ら・・・ちょっと俺がいない間に随分と仲良くなったんじゃないのか?」准一は苦笑いをした。

 「そう?でも和也さんと色々と話したよ!父ちゃんのあんな事や、こんな事を・・・ねぇ和也さん!」

 「えっ?あっ・・・まぁそんなには・・・少しだけね・・・良一君・・・」

 「何だ・・・お前ら・・・俺の何話したんだ?!」

 「父ちゃん・・・それは秘密・・・」良一はニヤついた。

 「まあいいけどよ・・・それより良一も和也も次はどうする?」

 「そうだなぁ・・・俺や和也さんはもう一通り回ったから、あとは父ちゃん次第だけど・・・父ちゃんはもっと動物見たい?」

 「いや、良一、俺はもういいかな・・・」

 「じゃあ場所を変えようか・・・和也、ここから待ち合わせのその店って遠いのか?」

 「准一、遠くはないけど、そうだね、電車を使って30分くらいかな?」

 「少し早いけどブラブラしながら移動するか?」准一は言った。

 「じゃあ父ちゃん、この辺りに昔ながらの銭湯があるんだけど行かない?ちょっと俺、汗かいちゃて・・・飯の前にさっぱりしたいから・・・」

 「別に俺は構わないけど、和也は?」

 「あっ・・・俺も別に構わないけど・・・」

 「やったぁっ!じゃあ早速行こう!」

 良一の提案で和也たち一行は、昔ながらの銭湯を経由して、インド料理屋の「スターサイバーバ」に行く事になった。

 「和也さんのここも洗わないと気持ちわるいでしょう・・・」良一は准一が後ろを向いている瞬間に和也のケツの穴を指で揉み、・・・耳元でささやいた。

 「あっ!」一瞬、和也はドキッとし、声を漏らす。

 「うぅん?どうかしたか?和也・・・」准一が振り返えり和也を見た。

 和也の側には良一がいて、密着して話しかけていた。

 「いや?じ、准一・・・何でもないよ・・・」和也は平静をよそおう。

 「そ、そうか・・・し、しかし・・・和也と良一・・・ちょっと距離が近くない?!」

 「父ちゃん、そう?気のせいじゃない?どうかしたの?声がうわずってるけど・・・」

 「い、いや、何でもない・・・ただ、お前ら随分と仲が良いんだなって思って・・・」

 「あれ?父ちゃん焼いてるの?!」良一は茶化すように准一に言った。

 「ば、馬鹿っ!そ、そんな訳ないだろう・・・」准一はやや焦った。

 「さぁ父ちゃん、和也さん、風呂に行きますよっ!」良一は先頭切って和也の腕を引っ張って歩き出した。

 准一も良一の後を追って歩き出した。

 「俺は・・・良一にヤキモチを焼いているのか・・・でも和也は俺のもんだ・・・良一にはやらん・・・」准一は心の中で思った。

 一行は動物園から歩き、しばらくすると住宅街のような一角に入った。

 「上野にもこんな場所があるんだな・・・」和也は思った。

 路地を回り開けた場所に屋根瓦が入口の昔ながらの銭湯が本当にあった。

 都会の中のレトロな昭和な空間・・・古き良き日本の象徴とも思える昔ながらの公衆浴場・・・

 和也と准一は銭湯の門構え、屋根瓦を眺めた。少年時代に場所が違えども、昔見た懐かしい光景に2人はしばらく眺めてしまった。

 「父ちゃん、和也さん、何ボーっとしてるの?早く入ろうよ!」良一が声を掛けた。

 「あれ?良一?」良一の後ろから声がした。

 良一は振り返り、それに釣られて和也、准一も振り返った。

 「あっ!祐志さん・・・久しぶりです!」良一が返答した。

 「良一、珍しい場所で会うな・・・あれ?相模さん?」

 「えっ?あっ・・・えっと・・・」和也は祐志と言う男に声を掛けられて戸惑った。

 「えっ・・・誰だったっけ?」和也は必死に記憶を巡らせた。

 「相模さん!またお会い出来て嬉しいです!」祐志の後ろから喉太い声が響いた。

 和也は祐志の隣に立ったガタイの良い男を見た。見覚えがあるスキンヘッドの男・・・

 「あっ!大黒社長・・・!?」和也は思わず口にした。

 「相模さん、会いたかったですよ!まさかこんなところで会えるとは運命ですね!きっと・・・」

 「ちょっと、大黒社長、俺もいますよ!」良一が和也と大黒の間に割って入った。

 「何だ、良一・・・いたのか・・・」

 「大黒社長っ!ひでぇなぁ~」良一は答えた。

 「どうしよう・・・」和也は思いもよらずの鉢合わせに、呆気に捉えて固まってしまうのだった。



 

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