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第七章 背負う者たち

動物園 ①

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 次の日の土曜日、和也たちは上野にある動物園の最寄り駅で11時に待ち合わせをした。

 和也は少し早めに到着し、まだ誰も来ていなかったので、JR改札前の土産物屋で少し時間をつぶすことにした。

 「昨日は嫁は機嫌が悪かった・・・遅く帰って今日も遊びに行って、しかも泊まるってなったら・・・」

 「確かに週末、ほとんど家にいない状況じゃあ、さすがに嫁だって機嫌も悪くなるだろう・・・何か土産を買って帰らないと・・・」和也は土産コーナーを歩き回った。

 「へぇ~上野銘菓って色々とあるんだな・・・知らなかった・・・」

 「和也っ!おっ早いなぁ・・・待ったか?」

 和也は土産を見ていると聞いた事のある声で呼び掛けられた。

 「准一っ!」和也は久しぶりに准一の声を聞き、胸が高鳴った。

 准一の隣りは良一がいた。現役の大学ラグビー選手で、がちムチ体型、顔は准一に似て男前だった。

 「あ、良一君?」

 「あ、はい、和也さん、ご無沙汰しております。いつも父がお世話になっております」良一は和也に礼儀正しく挨拶をした。

 「良一君、若い頃の准一にそっくりだっ!あ、槙田さんに・・・」和也は興奮し思わず「准一」と口にしてしまった・・・

 「和也、良一の前でもいつも通りの『准一』でいい・・・」准一はニコヤカに和也に話す。

 和也は良一を一目見て、まるでタイムスリップでもしたような、大学時代の准一が目の前にいるようで胸がドキドキした・・・

 「それにしても本当にお父さんに良く似てるっ!まるで分身みたいだっ!」

 「和也さん、父ちゃんの昔を知っている人からはそっくりだって言われるけど・・・俺はそう思わないんですよ・・・絶対に俺の方がいい男だしっ!」

 「こらぁっ、良一っ!普通は親を立てるもんだろっ!」

 「えぇ~?だって父ちゃん・・・本当の事だし・・・でも父ちゃんはナイス親父で俺ほどじゃないけどそこそこイケてるぞっ!腹は出てるけど・・・」良一は笑いながら准一の腹を叩く。

 「良一・・・男はみんな腹が出るんだっ!特に『元』ガタイ系男子はな・・・お前も将来はこうなるんだぞっ!」

 「えぇ~嫌だ・・・俺は頑張る!」

 和也は准一と良一の親子の会話に圧倒されるものの、やり取りが漫才を見ているようで見入ってしまった・・・

 「あっ、和也・・・すまんすまん・・・俺とコイツはいつもこんな感じなんだ・・・」准一は気が付いて和也に声を掛けた。

 「いやいや、凄く仲睦なかむつまじくてうらやましかったよ・・・うちは娘2人だからね・・・

 「まぁそうだよなぁ・・・でもコイツは本当、生意気で・・・なぁ良一っ!」

 「何言ってるんだ、父ちゃんっ!父ちゃんに甘えてるんだぞっ!他ではちゃんと礼儀正しく、たくましく、・・・」

 「やっぱりお前は馬鹿だ・・・」准一はあきらめ顔でボソッとつぶやいた。

 「まぁまぁ・・・そんな事言わないで・・・」和也は准一に言った。

 准一のスマホと和也のスマホが時間差で着信が入った・・・茂からのLINEだった。

 「大変申し訳ございません・・・今し方覚醒かくせいしました。私と智成は動物園には間に合わず、夕食をご一緒にしたいと考えておりますがいかがでしょうか?」同様の内容が准一と和也に送信されていた。

 「相変わらず茂らしい文面だなぁ・・・なぁ和也・・・」

 「本当に、茂君らしい文面だね・・」

 「ところで夕飯の場所とか決めてなかったけど、何か心当たりはないか?和也・・・」

 「心当たりか・・・何が食べたい?」和也は准一と良一に聞いた。

 「俺はインド料理っ!一度本場のカレー食ってみたいっ!」良一は即答した。

 「和也、俺は何でもいいけど、インド料理の店知ってるか?」

 「インド料理・・・」和也の脳裏にあの誠ニと行ったインド料理店の事が思い出された。

 インド料理店のVIPルームにて、インドの秘伝、の効いた料理を食べたこと・・・

 その後は淫乱になり、誠ニ、アルバと乱れてセックスした事を・・・

 「あれは凄かった・・・」和也は考えると股間が勃起しそうになるのをぐっと抑え、平静を装った。

 「和也・・・何かいいインド料理屋を知っているのか?」准一はボーっと考え込んでいる和也に声を掛けた。

 「えっ?あっ・・・そ、そうだね・・・知らなくもないかな・・・」和也は思わず声に出してしまった・・・

 「じゃあ決まりだなっ!」

 「うわぁ、和也さんの行きつけのインド料理屋っ!楽しみです・・・!」准一と良一は楽しげだった・・・

 「えっ!あっ・・・開いているかどうか・・・連絡してみないと・・・」

 「じゃあよろしくなっ!和也っ!さぁ・・・茂も智成も来ないんだから3人で動物園に行くとするか・・・」准一は歩き出し、良一も後を追って歩き出した・・・

 和也も准一と良一の後を追った・・・

 「それにしても、智成はともかくしっかり者の茂が遅刻、それも大幅に遅刻なんて珍しいなぁ・・・なぁ和也・・・」准一は後ろを振り返った。

 「確かに・・・」

 「あっ!あの後朝まで楽しんだのかも・・・さすがの茂君も智成の莫大ばくだいな精力に疲れちゃったのかも・・・」和也はクスッと笑った。

 「和也ぁ、どうかしたか?」

 「いや、何でもない・・・」茂君はきっと智成に、精子が空っぽになるまで吸い取られたんじゃないかと想像すると、和也は可笑しくなった。

 「あれ?そう言えば、あのインド料理屋さんの店の名前も、電話番号も知らない・・・誠ニさんに聞かないと・・・」

 和也は誠ニにLINEを打ち、店の名前と連絡先を尋ねた。

 LINEを打ち、直ぐに既読にはならず、仕方なく誠ニからの返信を待つ事にした。

 3人は動物園の入り口に着いた。

 「ちょっと待ってろ、今チケット買ってくるから」准一は1人チケットを買いに行った。

 和也と良一は2人残された。

 「和也さん、父ちゃんとは大学時代からの付き合いって聞いたんですけど・・・すげぇ長い付き合いじやないですか?」

 「そうだね・・・でも、だいぶ時間が空いているけどね・・・そう20年くらい間が空いているかな・・・」

 「すげぇ、俺の年齢くらい時間が空いて再会だったんですか?運命的ですね!」

 「良一君は今いくつなの?」

 「今21歳です・・・」

 「じゃあだいたいそのくらいかな・・・運命って言うか・・・偶然ね、再会したのは・・・」

 「そう言うのを運命って言うんですよ!和也さん・・・」

 「お待たせっ!」准一がチケットを持ってやって来た。

 「あ、准一、お金、いくら?」

 「いいって・・・実は教員だとこう言うところめちゃくちゃ安く入れるんだ・・・」

 「でも・・・やっぱり払うよ・・・」

 「和也さん、いいよ・・・父ちゃんに甘えちゃえ!」

 「えぇ?良一君・・・そう言う訳にはいかないよ・・・」

 「大丈夫だっ!和也には美味いインド料理屋を予約してもらうから・・・」

 「あっそうか・・・」和也はスマホでLINEを確認したが、既読にはなっていたが誠ニからの返信はまだなかった。

 「誠ニさん忙しいのかな・・・」

 「さぁ、和也、行くぞっ!」准一と良一はゲートに向かって歩き出した・・・

 「あ、うん・・・」和也も2人の後を追って歩き出した。

 「あれ・・・どうしよう・・・他のインド料理屋を探そうかな・・・でもLINEしちゃったしなぁ・・・」和也は考えながらゲートをくぐった。

 ゲートを入って直ぐの場所に、パンダコーナーがあった。

 「おぉパンダ、パンダ!俺、生パンダ初めてっ!可愛いぃ~!笹食ってるぅ~」良一がはしゃぎだす。

 「あれ?お前、パンダ見るの初めてだっけ?」

 「もう父ちゃん・・・うちは動物園に行ったことなんて一度もないだろう・・・だいたい父ちゃんが連れて行ってくれなきゃ誰が連れて行ってくれるんだよ・・・」

 「あれ?そうだっけか?確か動物園に行ったことあるぞ?お前、ライオンは見たことあるだろう?」

 「父ちゃん、あれは動物園じゃなくてサファリパークだろ!サファリパークはパンダいねぇし・・・」

 「そうだっけ?良一、お前が車の中から初めてライオン見た時の事を、俺は今でも忘れらんないぞっ!」

 「目と口を大きく開けたまま、窓の側から固まって動けなくなっちゃって、おしっこ漏らしちゃったんだよなぁ・・・」准一は大きく笑いながら話しをした。

 「父ちゃん、そんな昔の事、和也さんの前で言わなくたっていいだろっ!もぉっ!」良一は恥ずかしさに顔を赤くした。
 
 「あの時は可愛かったのになぁ、今では小憎らしくなっちゃって・・・」准一はやはり楽しそうに笑った。

 「なんだよ、父ちゃんだって腹は出るし足はクセェし、人前で平気で屁はこくし、チン毛には白い毛が混じってるし、ただのオッサンになっちゃったじゃねぇかよ!」良一はムキになって准一に言い返す。

 「お前ね!歳食ったらしょうがねぇんだっ!お前だって20数年後はこうなってるんだからなっ!良一っ!」

 和也の目の前で准一と良一は仲睦なかむつまじく楽しそうに親子の会話をしていた・・・

 「いいなぁ・・・息子って・・・」和也はボソッと呟いた。

 その時、スマホが鳴った・・・着信電話・・・誠ニからだ・・・

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