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18 話せないのには、訳がある

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 ローズはなんだかんだ言いながら、予備用に持っていた、水色のワンピースを貸してくれた。それに着替え、着ていた制服をカバンにしまうが、意外に食料が嵩張かさばる。
 よし、今から食べてしまおう。

「パンとお菓子があるけど、食べる?」

「いただきますわ」

 毒見は必要なので、私が先に食べる。
 安全を確認して渡すと、彼女はため息混じりに話し出した。

「そういえば、あの手紙を読みましたけれど、相も変わらずトンチンカンなことを考えつきますのね。感服いたしましたわ」

 心の友は、とても素直だ。

「もしかして、けなされているのね、私」

「もしかしなくても、ですわ。事情がわかる私ですから、アリスの気持ちは理解できますけれど。
 私から言えることは、一つだけよ。ラウル様の言葉を鵜呑みにしてはいけないわ。基準値を大幅に振り切った天邪鬼、もしくは、照れ屋さんとして接して差し上げて。とても難しいけれど、大事なことなの。時間をかければ、少しずつ状況が変わって行きますわ」

 そういえば、家族も友だちは、私の境遇や気持ちを分かっていながらも、なぜかラウル様を推す。

「どうして、ラウル様の肩を持つの?」

「応援したいからですわ」

 さも当然のようにローズは言うが、ラウル様と交流などあっただろうか。それに、私よりも彼の味方をするなんて、親友としてはどうなのだ。

「……何か知っているでしょう。どう考えても、みんなの様子がおかしいもの」

「あら、アリスも周りを見られるようになったのですね。最後まで、気付くことはないと思っていましたわ」

「最後? いつか終わるってこと?」

「口が滑りましたわ。お忘れになって結構よ。悪く思わないでくださいませ。事情がありまして、詳しいことは言えませんの」

 やはり、そうだ。
 私以外のみんなが、何らかの情報を持っていて、それを隠している。それは婚約にまつわることのようだけれど、なぜ言えないのかが分からない。
 誰かに口止めされているのかもしれない。

「……もしかして、ラウル様に脅されているの?」

 親友は目をまん丸にした後、ポケットに手を入れると優雅にハンカチを取り出した。

「……ラウル様が気の毒すぎて、私、涙が止まりませんわ」

 嘘泣きやめい。

「殿下、彼らが出てきます。お静かに」

 小屋の外にいる男性から、声が掛かった。
 ローズと私は息を潜めて、気配を消す。
 小屋の壁に使われている板の間から外を見ると、いかにも普通の夫婦三組が、子どもを真ん中にして手を繋いでいる。
 ぎこちなさもあるだろうが、私の目には、両側から拘束して、逃亡を阻止しているようにも見えてしまう。

 やはり、先入観とは恐ろしい。
 一つの物事でも、受け取り方によっては、何通りもストーリーができてしまうから。私も気を付けよう。

「殿下、参りましょう」

 合図とともにドアが開くと、男性が驚いていた。ローズだけかと思ったら、私もいるからだろう。
 平民に扮しているが、おそらく彼も騎士だ。温和で誠実そうな人に見える。

「マルセル、こちらは友人のアリス。急遽、同行することになりました。よろしく頼みます」

「は、はい。承知しました」

 騎士は動揺しながらも誘導してくれた。時折り、チラチラと指輪を見るけれど、宝飾品が好きなのだろうか。

「初めまして。アリスと申します。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ。私のことは、マルセルとお呼びください」

 マルセル様が、作戦の説明をしてくれた。
 まずは、私たち三人が散歩を装い、尾行する。他の騎士は距離を置いて着いてくるので、安心だ。隠密部隊も動いているので、万が一、私たちが彼らを見失っても問題ないという。  

「ん? やっぱり、ローズはいらなくない?」

「同じ質問は、受け付けませんことよ」

 三組の養父母と子どもたちは街に入ると、他の店には目も暮れず、どんどん歩いて行く。

「お菓子とか買ってあげないのかなあ」

「それよりも、行き先が同じだなんておかしいですわ。自宅で歓迎会をする気はなさそうですわね」

 やがて、彼らは小さな家具屋に入った。

「家具を新調するのかな?」

「みんな同時に? あり得ませんわ」

「殿下、私が裏口を見て参りますので、代わりに護衛を一人呼び寄せますが、よろしいでしょうか」

「ええ」

「しばらくお待ちください」

 マルセルは、小型の通信用魔道具を取り出した。

「ラウル、許可が下りた。来てくれ」
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