321 / 333
盲目の神晶竜
しおりを挟む
序列一位の称号にも匹敵する万能さを持っているのかもしれない──フェアトはオブテインの称号をそう評価していたが、その評価が正しいかと言われると少々疑問が残る。
何故なら【喧々囂々】には致命的な欠陥が存在するから。
それは、【喧々囂々】が〝文字〟を操る力だという事。
……それは欠陥なのか? と。
単なる称号の解説なのでは? と思う事だろう。
だが確かに欠陥なのだ。
そして、その事実はオブテインが誰より自覚しており。
彼が数瞬の間に気づいたのは──。
「さっきの合図で──〝眼〟、潰しやがったな?」
(ッ、もうバレた……!)
そう、つまり【喧々囂々】は彼が刻んだ文字が対象となる生物に見えてなければ意味がなく、フェアトの指示によって目を閉じるどころか眼球そのものを形成せぬまま竜の姿をとっている今のシルドに文字は見えておらず、その効果も発揮されなかったという事実。
ちなみに無機物を相手に影響を及ぼす場合は特に気にする必要もないらしいが、残念ながらシルドは──魔物。
視覚がない今、彼からの攻撃手段は存在しない。
せいぜい鬼種の膂力で肉弾戦を仕掛ける事くらいだろう。
尤も、眼を塞いだのはそれだけが理由という訳でもない。
超人的な膂力と第三の眼、そのどちらもがフェアトに通用しなかったせいで忘れがちだが、オブテインは色瞠鬼《いろどうき》。
あらゆる生物の頂点に位置する竜種とはいえ生物である以上、色欲を司る鬼種の特性が効かないとは言い切れない為、【喧々囂々】への確実な対策も兼ねてフェアトは指示を出していた。
とはいえ、この世界における生物の頂点に立つ竜種の中でも突出した最古にして最強の魔物、神晶竜に鬼種如きの特性が通用する可能性はかなり低いとフェアトは見積もっていたのだが、それもシルドの事を思えばこその指示であった。
ともすれば杞憂や過保護にも思える指示は、その実。
(竜種も強制的に発情させて支配下におけるって事は確認済みなんだがな。 ッたく、頭のキレる奴ァこれだから面倒臭ぇ)
プロヴォ族の長の座に就くに至るまでの期間、彼は武闘国家に棲息する多種多様な生物を相手に色瞠鬼《いろどうき》の力がどこまで通用するのかを実験していたらしく。
その中に竜種が含まれ、そして見事にオブテインの支配下に堕ちていた事を踏まえれば、フェアトの判断は間違っていなかったと断言できる。
しかし、さしものシルドといえど視覚を完全に封じられた状態で攻撃の全てをオブテインに命中させる事は難儀であり。
事実、攻撃のいくつかはフェアトにも当たっている。
もちろんフェアトには効かないが、その分だけオブテインが直撃を免れているという事であり、決して良い傾向ではないというのは疑いようもない事実である。
そして、何よりも。
(あの状態じゃあ、どんな攻撃も有効打にならない……!)
当たるにしても掠らせる程度では彼を殺すには至らず、ましてや鬼種特有の人間とは比較にならないほどの自然治癒力によってその傷も数秒あれば完治してしまうこの現状が、より一層フェアトを焦燥させる。
シルドに【喧々囂々】の力が通用しない事をもっと不思議がって混乱してくれていれば、オブテインも隙を晒して何発も攻撃に当たってくれていただろうに。
……そもそも、シルドを戦わせるべきではなかったか?
最初から普段通りの指輪に化けさせて、いつものスタイルで戦っていれば或いは──と後悔しかけたが、オブテインが鬼種である事を考えると、ひとたび接近されてしまえば全力を出せない姿のシルドごと再び組み敷かれてしまうだろうと首を振る。
膂力だけなら、シルドとオブテインは互角なのだから。
ならば、どうする。
このままでは埒が明かない。
それを分かっていたフェアトは、ゆるりと立ち上がり。
覚悟を決めたかのように、浅くない息をついてから。
「──……もういいです、シましょうか。 オブテイン」
「ッ!? マジでかァ!?」
『りゅう……!?』
インナーを少し捲って形の良い臍と肌白いお腹、くびれの付いた腰を露骨に見せつけた事で、かたやオブテインは一瞬でシルドから視線と興味を外し、かたやシルドはフェアトに対して困惑しつつ。
ある種の失望さえも抱いていた。
姉を想う清らかな心には共感すらしていたのに──と。
何故なら【喧々囂々】には致命的な欠陥が存在するから。
それは、【喧々囂々】が〝文字〟を操る力だという事。
……それは欠陥なのか? と。
単なる称号の解説なのでは? と思う事だろう。
だが確かに欠陥なのだ。
そして、その事実はオブテインが誰より自覚しており。
彼が数瞬の間に気づいたのは──。
「さっきの合図で──〝眼〟、潰しやがったな?」
(ッ、もうバレた……!)
そう、つまり【喧々囂々】は彼が刻んだ文字が対象となる生物に見えてなければ意味がなく、フェアトの指示によって目を閉じるどころか眼球そのものを形成せぬまま竜の姿をとっている今のシルドに文字は見えておらず、その効果も発揮されなかったという事実。
ちなみに無機物を相手に影響を及ぼす場合は特に気にする必要もないらしいが、残念ながらシルドは──魔物。
視覚がない今、彼からの攻撃手段は存在しない。
せいぜい鬼種の膂力で肉弾戦を仕掛ける事くらいだろう。
尤も、眼を塞いだのはそれだけが理由という訳でもない。
超人的な膂力と第三の眼、そのどちらもがフェアトに通用しなかったせいで忘れがちだが、オブテインは色瞠鬼《いろどうき》。
あらゆる生物の頂点に位置する竜種とはいえ生物である以上、色欲を司る鬼種の特性が効かないとは言い切れない為、【喧々囂々】への確実な対策も兼ねてフェアトは指示を出していた。
とはいえ、この世界における生物の頂点に立つ竜種の中でも突出した最古にして最強の魔物、神晶竜に鬼種如きの特性が通用する可能性はかなり低いとフェアトは見積もっていたのだが、それもシルドの事を思えばこその指示であった。
ともすれば杞憂や過保護にも思える指示は、その実。
(竜種も強制的に発情させて支配下におけるって事は確認済みなんだがな。 ッたく、頭のキレる奴ァこれだから面倒臭ぇ)
プロヴォ族の長の座に就くに至るまでの期間、彼は武闘国家に棲息する多種多様な生物を相手に色瞠鬼《いろどうき》の力がどこまで通用するのかを実験していたらしく。
その中に竜種が含まれ、そして見事にオブテインの支配下に堕ちていた事を踏まえれば、フェアトの判断は間違っていなかったと断言できる。
しかし、さしものシルドといえど視覚を完全に封じられた状態で攻撃の全てをオブテインに命中させる事は難儀であり。
事実、攻撃のいくつかはフェアトにも当たっている。
もちろんフェアトには効かないが、その分だけオブテインが直撃を免れているという事であり、決して良い傾向ではないというのは疑いようもない事実である。
そして、何よりも。
(あの状態じゃあ、どんな攻撃も有効打にならない……!)
当たるにしても掠らせる程度では彼を殺すには至らず、ましてや鬼種特有の人間とは比較にならないほどの自然治癒力によってその傷も数秒あれば完治してしまうこの現状が、より一層フェアトを焦燥させる。
シルドに【喧々囂々】の力が通用しない事をもっと不思議がって混乱してくれていれば、オブテインも隙を晒して何発も攻撃に当たってくれていただろうに。
……そもそも、シルドを戦わせるべきではなかったか?
最初から普段通りの指輪に化けさせて、いつものスタイルで戦っていれば或いは──と後悔しかけたが、オブテインが鬼種である事を考えると、ひとたび接近されてしまえば全力を出せない姿のシルドごと再び組み敷かれてしまうだろうと首を振る。
膂力だけなら、シルドとオブテインは互角なのだから。
ならば、どうする。
このままでは埒が明かない。
それを分かっていたフェアトは、ゆるりと立ち上がり。
覚悟を決めたかのように、浅くない息をついてから。
「──……もういいです、シましょうか。 オブテイン」
「ッ!? マジでかァ!?」
『りゅう……!?』
インナーを少し捲って形の良い臍と肌白いお腹、くびれの付いた腰を露骨に見せつけた事で、かたやオブテインは一瞬でシルドから視線と興味を外し、かたやシルドはフェアトに対して困惑しつつ。
ある種の失望さえも抱いていた。
姉を想う清らかな心には共感すらしていたのに──と。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる