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入国直後の闖入者
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それから、およそ五分ほど──。
セリシアが居るからなのか、それとも常通りなのかは分からない──まぁ、おそらく前者なのだろう──が、ご丁寧に茶菓子まで出してもてなされていたスタークたちに対し。
「──……伝達義務はないのですが」
「「?」」
二人の衛兵のうち、おそらく上司だろう壮年の男性がおずおずと口を開いて、その顔がセリシアではなく自分たちに向いている事を察した双子が茶や菓子を嗜む手を止めると。
「十五年前、世界から魔族なる種が勇者様や聖女様によって殲滅されて以降、武闘国家では有り余る力を『腕試し』という体《てい》で旅人相手に発散しようとする無頼の武闘家が現れるようになりました。 それは、たとえ相手が異性であっても変わりません。 ですので──」
無頼、などという格好つけた表現はもったいないと言わざるを得ぬほどの、まさに暴漢のような武闘家が十五年前以降から見受けられるようになり、それらは相手が老若男女いずれであろうと関係なく挑んでくるようで。
本来、美食国家側の衛兵である彼らに伝達義務はないものの、セリシアの連れである双子に伝えないというのはあまりにも不義理。
そう判断して、『セリシア様が傍におられない時もあるでしょうから、その際は充分に警戒していただければ』と忠告せんとした。
……が。
「へぇ、そんなやつらが居んのか。 良いな」
「……えっ?」
「……出てますよ、狂戦士《バーサーカー》の一面」
「元より、魔闘技祭が目的での入国だ。 その道中で愉しむのも悪くねぇと思わねぇか?」
「いや本来は──……まぁ、うーん」
「「???」」
かたや衛兵の警告に全く怯える事なく舌舐めずりし、かたや姉の歪んだ戦闘意欲を諌めるようにして溜息をつく、そんな少女たちに違和感を抱かずにいられなかった衛兵たち。
所構わずに戦いを挑んでくる、それぞれが決して弱卒とは言えない武闘家たちの存在。
……恐ろしく、ないのだろうか。
……面倒だとも、思わないのだろうか。
「せ、セリシア様? この少女たちは……」
そんな疑問を抑えられなかったのだろう。
おそらく部下であろう衛兵が、やはり外套を被ったまま紅茶を嗜むセリシアに対し、聞いてもいいものかと迷いつつも問いかける。
この少女たちは一体、何者なのか? と。
大陸一の処刑人が、おそらく各国からの依頼で引っ張りだこだろう身分を押してまで護衛する、この可憐な少女たちの正体は? と。
すると、セリシアは紅茶を机に置いて。
「──片方は、【始祖の武闘家】の弟子だ」
「「……はっ!?」」
これから向かう武闘国家であれば──。
──……否。
武闘国家でなくても、この世界を生きる人間や獣人、霊人といった者たちであれば大半は知っているだろう接近戦最強の女に付けられた二つ名を口にした事にさえ驚いたのに。
まだ僅かに幼さの残るこの少女たちの片割れが、あろう事か【始祖の武闘家】の弟子であると明かしてきた事で、衛兵たちが『幌の中に大陸一の処刑人が居た』時と同じくらいの衝撃を受け、あんぐりと口を開ける一方。
「……バラしていいとは言ってねぇぞ」
「そうか、それはすまないな」
「思ってもねぇ事を……」
「「……っ」」
まさか、この場で明かすとは思っていなかったのだろうスタークからの不満そうな声により、衛兵たちの疑念は確信へと変化する。
本当に、そうなのだ──と。
「な、なるほど。 そういう事なら、そもそもお伝えする必要はありませんでしたね──」
元々セリシアの言葉を疑うつもりなど毛頭なかったものの、それが真実だと確信できた今、自分たちからの警告など無駄でしかなかったと猛省しながら謙っていた──その時。
「──失礼いたします! 審査、完了です!」
「ご、ご苦労。 では、セリシア様……」
「あぁ──……行くぞ」
「はい。 紅茶、美味しかったです」
「チッ……」
どうやら良いタイミングで入国審査が終わったようで、先の女性衛兵が敬礼しつつ入国証を上司に手渡し、それをセリシアが受け取ったのを見届けた双子も立ち上がり、フェアトは茶菓子をいただいた礼を、スタークは未だ不機嫌そうに舌を打ちながら扉をくぐり。
国と国とを分かつ関所の間に仰々しく架けられた、いかにも頑丈そうな鉄製の橋を渡った先にあったもう片方の関所、要は武闘国家側の関所に辿り着いた──まさに、その時。
「──よぉ旅人さん方! 勝負しようぜぇ!」
ストン、と結構な高所である筈の関所の屋上から身軽な様子で降ってきた、『棍』と呼ばれる槍から刃物を取り除いたような武器を風邪を斬り裂き振り回す、おそらく武闘家なのだろう若年の男性からの宣戦布告に──。
「──あぁ、戦《ヤ》ってやろうじゃねぇかよ」
「ノリが良いねぇ! 最高だよアンタ!」
スタークは、さも当然のように矛を構え。
関所を結ぶ、橋の上での戦いが始まった。
(……まだ武闘国家に入ってすらないのに……)
セリシアが居るからなのか、それとも常通りなのかは分からない──まぁ、おそらく前者なのだろう──が、ご丁寧に茶菓子まで出してもてなされていたスタークたちに対し。
「──……伝達義務はないのですが」
「「?」」
二人の衛兵のうち、おそらく上司だろう壮年の男性がおずおずと口を開いて、その顔がセリシアではなく自分たちに向いている事を察した双子が茶や菓子を嗜む手を止めると。
「十五年前、世界から魔族なる種が勇者様や聖女様によって殲滅されて以降、武闘国家では有り余る力を『腕試し』という体《てい》で旅人相手に発散しようとする無頼の武闘家が現れるようになりました。 それは、たとえ相手が異性であっても変わりません。 ですので──」
無頼、などという格好つけた表現はもったいないと言わざるを得ぬほどの、まさに暴漢のような武闘家が十五年前以降から見受けられるようになり、それらは相手が老若男女いずれであろうと関係なく挑んでくるようで。
本来、美食国家側の衛兵である彼らに伝達義務はないものの、セリシアの連れである双子に伝えないというのはあまりにも不義理。
そう判断して、『セリシア様が傍におられない時もあるでしょうから、その際は充分に警戒していただければ』と忠告せんとした。
……が。
「へぇ、そんなやつらが居んのか。 良いな」
「……えっ?」
「……出てますよ、狂戦士《バーサーカー》の一面」
「元より、魔闘技祭が目的での入国だ。 その道中で愉しむのも悪くねぇと思わねぇか?」
「いや本来は──……まぁ、うーん」
「「???」」
かたや衛兵の警告に全く怯える事なく舌舐めずりし、かたや姉の歪んだ戦闘意欲を諌めるようにして溜息をつく、そんな少女たちに違和感を抱かずにいられなかった衛兵たち。
所構わずに戦いを挑んでくる、それぞれが決して弱卒とは言えない武闘家たちの存在。
……恐ろしく、ないのだろうか。
……面倒だとも、思わないのだろうか。
「せ、セリシア様? この少女たちは……」
そんな疑問を抑えられなかったのだろう。
おそらく部下であろう衛兵が、やはり外套を被ったまま紅茶を嗜むセリシアに対し、聞いてもいいものかと迷いつつも問いかける。
この少女たちは一体、何者なのか? と。
大陸一の処刑人が、おそらく各国からの依頼で引っ張りだこだろう身分を押してまで護衛する、この可憐な少女たちの正体は? と。
すると、セリシアは紅茶を机に置いて。
「──片方は、【始祖の武闘家】の弟子だ」
「「……はっ!?」」
これから向かう武闘国家であれば──。
──……否。
武闘国家でなくても、この世界を生きる人間や獣人、霊人といった者たちであれば大半は知っているだろう接近戦最強の女に付けられた二つ名を口にした事にさえ驚いたのに。
まだ僅かに幼さの残るこの少女たちの片割れが、あろう事か【始祖の武闘家】の弟子であると明かしてきた事で、衛兵たちが『幌の中に大陸一の処刑人が居た』時と同じくらいの衝撃を受け、あんぐりと口を開ける一方。
「……バラしていいとは言ってねぇぞ」
「そうか、それはすまないな」
「思ってもねぇ事を……」
「「……っ」」
まさか、この場で明かすとは思っていなかったのだろうスタークからの不満そうな声により、衛兵たちの疑念は確信へと変化する。
本当に、そうなのだ──と。
「な、なるほど。 そういう事なら、そもそもお伝えする必要はありませんでしたね──」
元々セリシアの言葉を疑うつもりなど毛頭なかったものの、それが真実だと確信できた今、自分たちからの警告など無駄でしかなかったと猛省しながら謙っていた──その時。
「──失礼いたします! 審査、完了です!」
「ご、ご苦労。 では、セリシア様……」
「あぁ──……行くぞ」
「はい。 紅茶、美味しかったです」
「チッ……」
どうやら良いタイミングで入国審査が終わったようで、先の女性衛兵が敬礼しつつ入国証を上司に手渡し、それをセリシアが受け取ったのを見届けた双子も立ち上がり、フェアトは茶菓子をいただいた礼を、スタークは未だ不機嫌そうに舌を打ちながら扉をくぐり。
国と国とを分かつ関所の間に仰々しく架けられた、いかにも頑丈そうな鉄製の橋を渡った先にあったもう片方の関所、要は武闘国家側の関所に辿り着いた──まさに、その時。
「──よぉ旅人さん方! 勝負しようぜぇ!」
ストン、と結構な高所である筈の関所の屋上から身軽な様子で降ってきた、『棍』と呼ばれる槍から刃物を取り除いたような武器を風邪を斬り裂き振り回す、おそらく武闘家なのだろう若年の男性からの宣戦布告に──。
「──あぁ、戦《ヤ》ってやろうじゃねぇかよ」
「ノリが良いねぇ! 最高だよアンタ!」
スタークは、さも当然のように矛を構え。
関所を結ぶ、橋の上での戦いが始まった。
(……まだ武闘国家に入ってすらないのに……)
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