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仮装戦場・夢之跡
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──そもそも、そもそもだ。
スタークは、チェスを知ってはいるが。
実際に遊んだ経験は──……ほぼ、ない。
規定《ルール》に関しても、ほぼ把握していない。
ほぼと称したのは過去にフェアトと遊ぼうとした時、大して難解でもない筈の規定《ルール》を覚えるのに当時のスタークが苦戦を強いられ。
『え、こんなのも覚えられないんですか?』
『はぁ!? うるせぇな! もういいわ!!』
『ぶっ!? ちょっと、投げなくても──』
という、決して煽ったつもりはなくとも結果的にはそうなってしまったフェアトの言葉一つで思考を放棄してしまったからであり。
正味、『気ぃ引き締めてけ』とパイクに告げたはいいものの、まともに規定《ルール》すら把握していない彼女に何ができるのだろうか──?
……と、スタークの事情を知った者なら誰もがそんな疑問を抱いてしまうのだろうが。
その辺り、マキシミリアンは抜かりなく。
(……やはりRuleもRoleも理解していないか。 かの勇者や聖女のIntelligenceは欠片も受け継がれなかったようだ)
およそ十五年前に相対した実力も知力も全てを兼ね備えていた勇者や聖女とは、とてもではないが比較にさえならない──と肩を竦めつつも、パチンと指を鳴らす音を響かせ。
「──Present for you」
「あ? 何だ──……あぁ規定教範《ルールブック》か」
先ほど地面を走っていた光線と同じものが空中に何かを描き出し、それが一般的なチェスの規定を記した教範であると見抜いたスタークの言葉通りに半透明な規定教範《ルールブック》が完成。
「ご自由にお使いいただければ幸いです」
「お気遣いどーも──おい、パイク」
『りゅあ……?』
おそらく自分が規定をほぼ把握していない事を看破されたのだろう、そう悟ったスタークは己への呆れを込めた溜息をつきつつも。
未だ眼帯と化していたパイクを取り外し。
「お前、規定教範《これ》写せ。 で、本になってろ」
『りゅう……? りゅ、りゅいぃ?』
常に視界から外れず、チラチラと映り込むそれを鬱陶しく思ったのか、それとも別の理由があるのかは定かではないが、どうせなら手元にある方がマシだと告げて命令するも。
パイクは眼帯の状態のままで、どうにも心配そうな声色で何かをスタークに質問する。
……私はいいけど、大丈夫なの?
と、そんなニュアンスの質問を。
パイクとの付き合いが短いポーラやティエントでは、さっぱり分からなかっただろう。
「……構やしねぇよ、お誂え向きに暗くなってやがるしな。 ほら、さっさと変われって」
『……りゅう』
しかし、スタークは問い返すまでもなくパイクの言いたい事を察したうえで、ここまで暗くなっているなら目は大丈夫だと、つまり眼帯はもう必要ないと口にし、いいから大人しく本になってろと命じてきたスタークの声に嘘も慢心もない事を察したパイクは、あまり納得がいってなさそうに鳴きつつも頷き。
光を通さない為の漆黒はそのまま、ペラペラとパイクの意思で自由に捲れる規定教範《ルールブック》。
もちろん中身は黒くなく、材質は紙。
駒の種類、動かし方、勝敗の如何、おすすめの戦法──などなどが恩着せがましく記された一冊の規定教範《ルールブック》が少女の手に収まった。
『──……今! 四方世界《スモールワールド》の駒と化す、誉れ高き二十九名が決定した模様です! いやぁ、あっという間に埋まってしまいましたね!!』
『素晴らしい博打意欲です、感動しました』
時を同じくして、どうやら僅か数分足らずで二十九名の駒役が決まったようで──基準はやはり金だったらしいが──意気揚々とマス目の一つ一つに収まっていく彼ら、もしくは彼女らを実況・解説が褒め称えている中。
(……ただの依存症だろそれは)
意欲も何も、それは単なる博打への依存でしかなく、ある種の病なのではないかとティエントは過去の自分を振り返りつつ軽蔑し。
獣人の耳で聞こえてしまった、スタークの呟き──『助ける意味、あんのか?』という勇者の娘とは思えぬ発言も、この気狂いたちだけには掛けて然るべきなのかもしれない。
彼が、そんな風に思い直していた時。
『それでは始めましょう! 私、マキシミリアンがお届けする最高のSpectacle show! It's a──……四方世界《スモールワールド》!!』
「っ、何だ──」
『りゅうっ──』
全ての準備が整ったと判断したマキシミリアンが、わざとらしい大仰な身振り手振りで全員の注目を集め、この場に居合わせた全ての人間が待望していた──スタークたちはそうでもないが──遊戯《ゲーム》の名を口にした瞬間。
地面にマス目を描いたり、スタークの目の前に規定を写したりした、あの光線とは比べ物にならないほどの眩い光が闘技場を包む。
──まだ外すべきじゃなかったか?
──だから言ったのに。
と、スタークやパイクが眼帯を外してしまった事に若干の後悔や呆れを抱く中にあり。
段々、段々と眩い光が晴れていく。
その先にあった光景は、この短い時間で見慣れてしまった絢爛極まる闘技場ではなく。
「──……は、あ?」
明らかに、屋外のそれだった。
草木の一本も生えぬ、広々とした大地。
……には、とてもではないが似つかわしいとは思えない先ほどの光線で大きく描かれた六十四のマス目からなる巨大なチェス盤に。
スターク陣営は、スタークを王として。
マキシミリアン陣営は、マキシミリアンを王として、それぞれ十四名と十五名ずつの観客が与えられた駒として役割を全うする為の外見となり、マス目に一人ずつ立っている。
ちなみに、パイクはスターク側の女王として、そこに置かれた駒を動かす役目を担いつつも、スタークの規定教範《ルールブック》も務めるようだ。
酷く高低差のある全く以て舗装されていない岩場もあり、おそらく人間が住めるようにはできていない場所なのだろうという事くらいは流石のスタークでも理解できてはいた。
ただ、それ以上に感じるのは──。
(…….初めて見る場所の筈だが……何だ、何でこんなに──……見覚えがある気がすんだ?)
絶対に今まで足を踏み入れた事のない場所である筈なのに、どういうわけか一度は見た事のある、もっと言えば訪れた事のある場所な気がしてならない、そんな疑問を抱く中。
『これぞ、かつて魔王軍と勇者一行との間で最後に勃発した戦、“魔勇大戦”の征野! それを我が力で再現した仮装戦場・“夢之跡《ユメノアト》”!』
『『『おぉおおおおっ!!』』』
「親父とお袋が、ここで……だからか……」
この荒廃しきった土地は、かつて十五年前に実際に勃発したという最後にして最大の魔族との戦、魔勇大戦の戦場を【胡蝶之夢《マスカレード》】で可能な限り再現したものであるらしく、スタークはすぐさま違和感の正体に合点がいく。
ここは両親が、かの魔王カタストロを討つ為に魔王城へと向かう前に、前哨戦として無数の有象無象や幾らかの並び立つ者たちと過去最大規模の激闘を繰り広げた場所であり。
その血に刻まれた闘いの記憶が、スタークの脳裏に歴史を過ぎらせたのだろう──と。
そして、マキシミリアンは四方世界《スモールワールド》が万全に展開しきった事を確認するやいなや──。
「先手はお譲りいたしましょう! 見せてください、Powerに依らぬ貴女の戦いを!」
「……言われるまでもねぇ。 やるぞ」
『りゅう……!』
出方を窺う、というより単純に興味から先手を譲り、それを『嘗められている』と捉えた少女は無表情のまま両の拳を打ち合わせ。
今、遊戯開始《ゲームスタート》と相成った──。
スタークは、チェスを知ってはいるが。
実際に遊んだ経験は──……ほぼ、ない。
規定《ルール》に関しても、ほぼ把握していない。
ほぼと称したのは過去にフェアトと遊ぼうとした時、大して難解でもない筈の規定《ルール》を覚えるのに当時のスタークが苦戦を強いられ。
『え、こんなのも覚えられないんですか?』
『はぁ!? うるせぇな! もういいわ!!』
『ぶっ!? ちょっと、投げなくても──』
という、決して煽ったつもりはなくとも結果的にはそうなってしまったフェアトの言葉一つで思考を放棄してしまったからであり。
正味、『気ぃ引き締めてけ』とパイクに告げたはいいものの、まともに規定《ルール》すら把握していない彼女に何ができるのだろうか──?
……と、スタークの事情を知った者なら誰もがそんな疑問を抱いてしまうのだろうが。
その辺り、マキシミリアンは抜かりなく。
(……やはりRuleもRoleも理解していないか。 かの勇者や聖女のIntelligenceは欠片も受け継がれなかったようだ)
およそ十五年前に相対した実力も知力も全てを兼ね備えていた勇者や聖女とは、とてもではないが比較にさえならない──と肩を竦めつつも、パチンと指を鳴らす音を響かせ。
「──Present for you」
「あ? 何だ──……あぁ規定教範《ルールブック》か」
先ほど地面を走っていた光線と同じものが空中に何かを描き出し、それが一般的なチェスの規定を記した教範であると見抜いたスタークの言葉通りに半透明な規定教範《ルールブック》が完成。
「ご自由にお使いいただければ幸いです」
「お気遣いどーも──おい、パイク」
『りゅあ……?』
おそらく自分が規定をほぼ把握していない事を看破されたのだろう、そう悟ったスタークは己への呆れを込めた溜息をつきつつも。
未だ眼帯と化していたパイクを取り外し。
「お前、規定教範《これ》写せ。 で、本になってろ」
『りゅう……? りゅ、りゅいぃ?』
常に視界から外れず、チラチラと映り込むそれを鬱陶しく思ったのか、それとも別の理由があるのかは定かではないが、どうせなら手元にある方がマシだと告げて命令するも。
パイクは眼帯の状態のままで、どうにも心配そうな声色で何かをスタークに質問する。
……私はいいけど、大丈夫なの?
と、そんなニュアンスの質問を。
パイクとの付き合いが短いポーラやティエントでは、さっぱり分からなかっただろう。
「……構やしねぇよ、お誂え向きに暗くなってやがるしな。 ほら、さっさと変われって」
『……りゅう』
しかし、スタークは問い返すまでもなくパイクの言いたい事を察したうえで、ここまで暗くなっているなら目は大丈夫だと、つまり眼帯はもう必要ないと口にし、いいから大人しく本になってろと命じてきたスタークの声に嘘も慢心もない事を察したパイクは、あまり納得がいってなさそうに鳴きつつも頷き。
光を通さない為の漆黒はそのまま、ペラペラとパイクの意思で自由に捲れる規定教範《ルールブック》。
もちろん中身は黒くなく、材質は紙。
駒の種類、動かし方、勝敗の如何、おすすめの戦法──などなどが恩着せがましく記された一冊の規定教範《ルールブック》が少女の手に収まった。
『──……今! 四方世界《スモールワールド》の駒と化す、誉れ高き二十九名が決定した模様です! いやぁ、あっという間に埋まってしまいましたね!!』
『素晴らしい博打意欲です、感動しました』
時を同じくして、どうやら僅か数分足らずで二十九名の駒役が決まったようで──基準はやはり金だったらしいが──意気揚々とマス目の一つ一つに収まっていく彼ら、もしくは彼女らを実況・解説が褒め称えている中。
(……ただの依存症だろそれは)
意欲も何も、それは単なる博打への依存でしかなく、ある種の病なのではないかとティエントは過去の自分を振り返りつつ軽蔑し。
獣人の耳で聞こえてしまった、スタークの呟き──『助ける意味、あんのか?』という勇者の娘とは思えぬ発言も、この気狂いたちだけには掛けて然るべきなのかもしれない。
彼が、そんな風に思い直していた時。
『それでは始めましょう! 私、マキシミリアンがお届けする最高のSpectacle show! It's a──……四方世界《スモールワールド》!!』
「っ、何だ──」
『りゅうっ──』
全ての準備が整ったと判断したマキシミリアンが、わざとらしい大仰な身振り手振りで全員の注目を集め、この場に居合わせた全ての人間が待望していた──スタークたちはそうでもないが──遊戯《ゲーム》の名を口にした瞬間。
地面にマス目を描いたり、スタークの目の前に規定を写したりした、あの光線とは比べ物にならないほどの眩い光が闘技場を包む。
──まだ外すべきじゃなかったか?
──だから言ったのに。
と、スタークやパイクが眼帯を外してしまった事に若干の後悔や呆れを抱く中にあり。
段々、段々と眩い光が晴れていく。
その先にあった光景は、この短い時間で見慣れてしまった絢爛極まる闘技場ではなく。
「──……は、あ?」
明らかに、屋外のそれだった。
草木の一本も生えぬ、広々とした大地。
……には、とてもではないが似つかわしいとは思えない先ほどの光線で大きく描かれた六十四のマス目からなる巨大なチェス盤に。
スターク陣営は、スタークを王として。
マキシミリアン陣営は、マキシミリアンを王として、それぞれ十四名と十五名ずつの観客が与えられた駒として役割を全うする為の外見となり、マス目に一人ずつ立っている。
ちなみに、パイクはスターク側の女王として、そこに置かれた駒を動かす役目を担いつつも、スタークの規定教範《ルールブック》も務めるようだ。
酷く高低差のある全く以て舗装されていない岩場もあり、おそらく人間が住めるようにはできていない場所なのだろうという事くらいは流石のスタークでも理解できてはいた。
ただ、それ以上に感じるのは──。
(…….初めて見る場所の筈だが……何だ、何でこんなに──……見覚えがある気がすんだ?)
絶対に今まで足を踏み入れた事のない場所である筈なのに、どういうわけか一度は見た事のある、もっと言えば訪れた事のある場所な気がしてならない、そんな疑問を抱く中。
『これぞ、かつて魔王軍と勇者一行との間で最後に勃発した戦、“魔勇大戦”の征野! それを我が力で再現した仮装戦場・“夢之跡《ユメノアト》”!』
『『『おぉおおおおっ!!』』』
「親父とお袋が、ここで……だからか……」
この荒廃しきった土地は、かつて十五年前に実際に勃発したという最後にして最大の魔族との戦、魔勇大戦の戦場を【胡蝶之夢《マスカレード》】で可能な限り再現したものであるらしく、スタークはすぐさま違和感の正体に合点がいく。
ここは両親が、かの魔王カタストロを討つ為に魔王城へと向かう前に、前哨戦として無数の有象無象や幾らかの並び立つ者たちと過去最大規模の激闘を繰り広げた場所であり。
その血に刻まれた闘いの記憶が、スタークの脳裏に歴史を過ぎらせたのだろう──と。
そして、マキシミリアンは四方世界《スモールワールド》が万全に展開しきった事を確認するやいなや──。
「先手はお譲りいたしましょう! 見せてください、Powerに依らぬ貴女の戦いを!」
「……言われるまでもねぇ。 やるぞ」
『りゅう……!』
出方を窺う、というより単純に興味から先手を譲り、それを『嘗められている』と捉えた少女は無表情のまま両の拳を打ち合わせ。
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